未だ世界の死因の上位を占める「薬剤耐性」 国境なき医師団は国連合意に基づき、各国に迅速かつ大胆な行動を取るよう提唱
2024年10月18日各国の首脳陣が一堂に会し、国連では2016年以来、二度目となる「薬剤耐性(AMR)に関するハイレベル会合」が9月26日に開催され、世界でAMR対策を進めるための政治宣言が採択された。国境なき医師団(MSF)はこの宣言に基づいて、迅速かつ大胆な行動を取ることを各国政府に呼びかけている。
AMRとは?
AMR(薬剤耐性)とは、細菌、ウイルス、真菌などの微生物が、抗生物質などの抗菌薬に対する抵抗力をつけ、こうした薬が効かなくなること。AMRは治療の効果を下げ、患者や治療提供者にとっては治療がより困難で長期に及び、費用のかかるものとなる。
AMR関連の死は、驚くべき速度で増えている
しかし、AMRという課題の大きさ、そして、最も深刻な影響を受けている国のうち、資金を投入し、国レベルの行動計画を実施できている国がいかに少ないかを考えると、宣言文はもっと具体的で高い目標を掲げたものであるべきでした。次は、宣言を紙の上の言葉以上のものにしなければなりません」
各国政府は、公約を実行に移し、説明責任を果たすだけでなく、医療に乏しい地域や人道危機下の地域を取り残さないよう、公約を土台としてさらに改善していかなければなりません。
MSFインターナショナル会長 クリストス・クリストゥ医師
より大胆かつ具体的な対策を
各国政府は政治宣言の中で、MSFが活動するような人道援助活動を必要とする環境でのAMR対策の重要性、およびAMR対策における重要な優先事項としてMSFが強調してきた問題点を認めた。しかし、こうした問題に取り組むための公約は、世界規模で起きている不公平な事態に対処するために、より大胆かつ具体的に設定されるべきだった。MSFは、各国政府に対し、これらの公約を基盤として以下のような方法で、より洗練されたものにするよう推奨する。
• AMR対策を実行するプラットフォームや仕組みの運営体制に、AMRの影響を受けているコミュニティや人道援助団体を含めるという宣言の公約を実践に移すこと。AMR対応のための世界規模のイニシアチブに、これらの人びとの参画を確保することで初めて、最も対策が足りていない地域にも届く効果的なロードマップを策定できる。
その一例として、政治宣言で提案された「AMR対策のエビデンスに関する独立パネル」が設立された場合には、全ての国に対する公平性、透明性、説明責任という原則を守ること、また、AMRにより最も大きな影響を受けている地域の研究を優先することが求められる。なぜなら、紛争地やぜい弱な地域、人道危機下の地域にいる人びとは、よりAMRの被害に遭いやすいが、そういった環境でのAMR対応を検討するために必要なエビデンスは極めて不足しているためだ。
• 政治宣言は、検査能力を強化する必要性を認識し、「診断と治療へのアクセスの向上」を公約している。だが、この規定ではまだ広範すぎるため、品質が保証された微生物検査を誰もが公平に利用できるよう、後続の協定や評価の枠組みにおいて、より具体的かつ明確な規定にする必要がある。微生物検査へのアクセスは、より効果的なAMRの予防、早期発見、制御の決め手となるが、AMRの発生率が高い地域には、質の高い検査施設がないことが多い。
低・中所得国がAMR対策のための国家行動計画を実施できるようにするため、資金および技術面での国際援助を強化するという公約は、より強力で高い資金拠出目標を掲げるべきである。現状の提案では、「2030年までに60%の国がAMR対応行動計画の資金を確保するには、合計1億米ドルが必要」という見通しが立てられているが、この莫大な保健課題に対処するには不十分な金額だ。
• 抗菌薬や診断検査など、安価な医療ツールを適時かつ公平に利用できるようにするという公約は、具体的な行動に移されなければならない。こうした医療ツールへの世界的なアクセス格差の推移を追い、定量化することで、より公平な利用を実現する活動指針とし、これに従って、アクセス改善のための戦略、および抗菌薬の適正使用(スチュワードシップ)を促進する活動の両方にリソースを配分しなければならない。
さらに、新しい抗菌薬の研究開発に政府が資金援助を行う際は、公的機関や非営利団体の取り組みを優先することが望ましい。それによって公平なアクセス、スチュワードシップ、協働アプローチによる研究などが促進されるからである。また、政治宣言で求められている「プッシュ型」と「プル型」の資金援助を行う政府や機関は、その成果物として得られる医療ツールは世界規模での公平なアクセスが保証されるという条件を、取り決めに盛り込むべきである。
人道危機下や医療資源に乏しい地域の研究を最優先に
つまり、政治宣言で提案された「AMR 対策のエビデンスに関する独立パネル」は、AMRによって最も大きい影響を受けている人びと、つまり、人道危機下や医療資源に乏しい地域を対象とした研究を最優先しなければならないということです。
AMR問題を専門とする薬剤師 ドゥシャン・ヤソフスキー
「こうした地域では、行動の指針となるエビデンスが最も少ないのです。このパネルは、最も被害が甚大な地域におけるAMR対応について、有効な介入に基づいて情報を提供できる最適な立場にあります。
しかし、そのためには、パネルの運営は透明性、説明責任、公平性を確保し、高い目標を実行できる財源の裏打ちと、影響を受ける地域の人びととの緊密な連携が不可欠です」
MSFのAMRに対する取り組み
MSFは、人道危機下におけるAMRの予防、早期発見、対応を担う主要な団体であり、世界20カ国、50の活動地のさまざまな状況下で、微生物検査へのアクセスを確保しながら、感染予防、制御策、適正使用(スチュワードシップ)・イニシアチブの活動を展開している。
また、AMRに対処するための学際的なアプローチを確立しており、感染予防、制御策、抗菌薬のスチュワードシップのための専門研修や支援のほか、微生物検査による診断へのアクセス促進を支援する取り組みも行っている。