パキスタン:結核との闘い──地域密着のワンストップ医療が切り拓く未来
2025年12月18日
近くでは、6歳の息子ムスタファくんが木製のベンチに腰掛け、足をぶらぶらさせている。少しずれたマスクの奥から、恥ずかしそうな笑みがうかがえる。
ムスタファくんは治療を終えてまだ2週間だが、すでに元気を取り戻しつつある。カラチで日雇い労働者として働きながら、2人の子どもを育てるラヒムさんは、病院を転々とした数カ月間の不安な日々を振り返った。
でも、良くならなかったんです。2日ほど良くなっても、また同じ症状──疲労感、発汗、そして体のだるさが戻ってしまいました。
ムハンマド・ラヒムさん 結核を患った息子を持つ父親
こうした苦労は、カラチの7地区の中でも結核の発見率が最も低い地区内にあり、人口密集地域でもあるバルディアでは珍しいことではない。
広がる脅威──望まれる検査と早期診断
パキスタンは世界でも結核患者数が多い上位5つの国の1つであり、2024年には推定67万件の新規症例が報告された。これは世界全体の約6.3%に相当する。
特に子どもはリスクが高く、2023年には約6万7000件の小児結核症例が確認され、全症例の約14%を占めた。さらに、診断を受けていない患者もたくさんいるとみられる。
MSFは2025年初めにバルディアで結核治療サービスの支援を開始し、検査や早期診断へのアクセスを強化した。これにより、人びとは遠くの大病院まで移動することなく診察が受けられるようになった。
MSFはまた、アウトリーチ活動の一環として移動式の検診所「胸部キャンプ」を運営している。医療施設に行かずとも無料で結核のスクリーニングを受けられる仕組みで、特に子どもを含む、通常なら医療を受けない可能性のある人びとに手を差し伸べることが目的だ。
ラヒムさんはこれまでの経験から、あまり期待せずにムスタファくんを検診に連れてきた。しかし、ここでの検査で結核と判明したのだ。
私と妻、もう一人の息子もスクリーニングを受けました。幸い、誰も陽性ではありませんでした。それからムスタファの治療を始め、今ではすっかり元気です。
ムハンマド・ラヒムさん 結核を患った息子を持つ父親
地域に根差した診療体制で拡大する医療アクセス
バルディアで結核治療へのアクセスを改善するため、MSFは地域保健センターで診察、健康推進セッション、胸部X線、便や喀痰を用いたGeneXpert(※)検査、さらにC型肝炎やHIVなど他の疾患のスクリーニングを含む、必要なすべてのサービスを提供している。
これにより、人びとは長距離の移動や複雑な手続きに悩まされず、自宅近くで診断から治療までワンストップで受けることができる。
このプロジェクトの開始以来、約200万人が暮らすバルディアでは、MSFの診療所が欠かせない存在となっている。最初の10カ月間で、MSFは218人の患者を登録し、2235件の診察を実施した。また、「胸部キャンプ」では2904人にスクリーニングを行った。
さらに、結核患者の家庭内接触者372人を追跡し、そのうち174人に予防治療を開始した。こうした取り組みにより、結核の早期発見とケアの改善が進んでいる。
- ※GeneXpert:結核の診断に使われる自動遺伝子解析装置
「学校に戻って、またクリケットをやりたいと言っています。将来は医者になって、ここで治療を受けて回復したように、他の人も助けてほしいと思います」
しっかり勉強すれば、結核はこうすれば治ると、皆に伝えられるようになるはずですから──。
ムハンマド・ラヒムさん 結核を患った息子を持つ父親




