プレスリリース
WHO推奨のアルゴリズムで小児結核治療が飛躍的に向上──今こそ、子どもの命を守る行動を
2025年11月21日
デンマーク・コペンハーゲンで開催中の「世界肺の健康会議2025」で、国境なき医師団(MSF)は活動研究データを発表し、小児結核の診断において、世界保健機関(WHO)が推奨する治療決定アルゴリズムを導入することで、命を守る治療を開始できる子どもの数をほぼ倍増させることが可能だと示した。
この治療決定アルゴリズムは、検査結果が得られない場合や陰性であっても、症状が結核を強く示唆している場合には、医師が治療を開始できるようにする仕組みだ。
MSFは、このアルゴリズムを各国のガイドラインに採用し、迅速に実施することで、より多くの子どもが命を守る診断と治療にアクセスできるよう訴えた。
結核の兆候は咳だけではない
「WHOのアルゴリズムは、咳だけに頼るべきではないことを示しています。結核には、他にも兆候があるのです。
アンジェリン・ドレ医師 ギニアのTACTiCプロジェクト責任者
必要なのは政治的意志
2024年には、推定で15歳未満の子どもや若年層約120万人が結核に罹患した。結核は治療可能であるにもかかわらず、子どもの結核は診断されないままのケースが多い。現在利用されている検査は成人向けに設計されており、子どもでは十分な精度が得られないからだ。
さらに、ほとんどの検査は喀痰(かくたん)サンプルを必要とするが、子どもは採取が難しく、採取できたとしても肺内の菌量が少ないため、検出できないことも少なくない。WHOの『世界結核報告書』によると、2024年に結核に罹患した子どもの43%が診断を受けられず、命を守る治療にアクセスできなかったとされている。
2022年、WHOは最新の科学的根拠に基づき、小児結核の診断・治療・予防に関する指針を改訂した。重要な更新の一つとして、新たなWHOのガイドラインでは、X線の有無にかかわらず、小児結核の診断に治療決定アルゴリズムを使用することを推奨している。
しかし、多くの国では依然としてこのアルゴリズムを自国のガイドラインに取り入れておらず、医療現場での実施も進んでいない。
「効果的な診断ツールがないため、結核に罹患した多くの子どもたちが見過ごされています」と、MSFが実施したTACTiC研究の主任研究者であるヘレナ・ウエルガ医師は語る。
「私たちの調査結果は、治療決定アルゴリズムが検査結果がなくても小児結核の治療を開始でき、現場で有効に機能することを示しています。導入されれば、さらに多くの子どもの命を守れる可能性があります」
科学的根拠は明確です──今、欠けているのは、それを実行に移す政治的意思です。
ヘレナ・ウエルガ医師 TACTiC研究の主任研究者
WHOアルゴリズムの迅速な導入を
世界的な援助資金の削減により、結核患者の特定と治療における格差が拡大する恐れのある中、MSFは各国政府や関係者、国際的な援助団体に対し、すべての人びと──特に結核治療へのアクセスに最も大きなギャップを抱えている幼い子どもたちのために、結核ケアへの持続的な資金提供を確保するよう呼びかけた。
「治療決定アルゴリズムの迅速な採用と実施が不可欠です」とMSFのTACTiCプロジェクトリーダー、ダニエル・マルティネス・ガルシアは言う。
加えて、各国の政策立案者、援助団体、実施機関は、結核と診断されたすべての子どもが遅滞なく治療を受けられるよう、必要な小児用治療薬の供給増加を見越した計画を立てる必要があります。
ダニエル・マルティネス・ガルシア TACTiCプロジェクトリーダー
TACTiCプロジェクトとは
「TACTiC(Test, Avoid, Cure TB in Children:子どもの結核の検査、回避、治療)」は、小児結核のケアを革新を目指すMSFのプロジェクト。最新のWHO推奨事項を実施し、その有効性・実現可能性・受容性に関するエビデンスの創出するとともに、世界および国家レベルでの導入を提唱することを目的としている。対象国は、結核負担が高く、MSFが小児結核ケアを提供している12カ国(アフガニスタン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ギニア、モザンビーク、ニジェール、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、ソマリア、南スーダン、ウガンダ)。プロジェクトの一環として実施した『TB ALGO PED』研究では、10歳未満の肺結核の子どもに対するWHO治療決定アルゴリズムの診断性能、影響、実現可能性、受容性を評価した。




