故郷を破壊され、取り残されたままの人びと──内戦後も深まるシリアの人道危機

2026年02月18日
シリアの避難民キャンプで生まれ育った6歳の男の子。国境なき医師団(MSF)から受け取った暖房用資材の上に座り、家族の待つテントへ運ぶための手段を待っている=2026年1月20日 © Abdulrahman Sadeq/MSF
シリアの避難民キャンプで生まれ育った6歳の男の子。国境なき医師団(MSF)から受け取った暖房用資材の上に座り、家族の待つテントへ運ぶための手段を待っている=2026年1月20日 © Abdulrahman Sadeq/MSF

シリアでは内戦が終結した今も、14年にも及んだ凄惨な争いの深い爪痕が人びとの暮らしに重くのしかかっている。

シリア北西部のホムス、ハマ、アレッポ、イドリブ各県の農村部を含む地域では、長年にわたる空爆と戦闘によって家屋や重要インフラが破壊され、多くの人びとが故郷を追われた。

彼らの多くは山間部に避難したが、そこでは厳しい冬の寒さが日々の苦難にさらなる追い打ちをかけている。ありあわせの素材で急きょつくられたキャンプは、時が経つにつれて、ぜい弱で不安定な長期の生活拠点へと変わっていった。

内戦の終結後、数百万人が故郷に戻ることができた一方で、多くの人びとは今も避難民キャンプでの生活を余儀なくされている。暮らしを立て直すための経済力がないためだ。

彼らの故郷の家々は破壊され、基本的なサービスは途絶えたままで、生計手段もほとんどない。その結果、人びとは人道援助に頼らざるを得ない状況が続いているが、その支援もこの数年で減少を続けている。

シリアでは今も膨大なニーズがあるにもかかわらず、人道援助の資金は減少傾向にある。国境なき医師団(MSF)は、今も避難生活を強いられ、生きるために苦悩している人びとへの支援を含め、人道援助機関に対応を強化するよう呼びかけている。

イドリブ県の避難民キャンプに物資を運び込むMSFスタッフら=2026年1月19日 © Abdulrahman Sadeq/MSF
イドリブ県の避難民キャンプに物資を運び込むMSFスタッフら=2026年1月19日 © Abdulrahman Sadeq/MSF

冬は試練──避難生活を脅かす寒さと風雪

冬の数カ月はとりわけ危険であり、継続的な援助がなければ、人びとは命を脅かす状況にさらされ続けることになる。

75歳のアイマンさんは、自身のオリーブ農園が破壊されたことに深い悲しみを抱いている。

「砲撃のあと家に戻ると、家は跡形もなく崩れ落ちていました。ただ、家そのものよりも、オリーブの木を失った悲しみの方が大きかったのです。自分の土地でオリーブやオレンジを育ててきましたが、そのすべてが失われてしまいました」

ハリム山脈を越えたイドリブ県サルカンの町の周辺には、今も50を超える避難民キャンプが点在し、数千もの世帯が身を寄せている。

多くの人びとが廃材やれんがを寄せ集めて作った簡易なテントで暮らしているが、冬に嵐が来ると雨水が内部に染み込み、テントの合間には雪が積もり、人びとは暖を取るのに苦悩する。

気温が下がると、暖房は「快適さのため」ではなく「生き残るため」に欠かせないものとなる。粗末な屋根は雪や雨には耐えられず、凍えるような寒さからはほとんど身を守ることができない。

3人の子どもを育てるアリさんは、アル・ファルダン避難民キャンプで暮らしている。

「雪が降り始めたとき、ビニールシートの屋根が崩れてしまいました。山間部に住んでいるので、雪かきすらできなかったんです」

暴風雪に見舞われたイドリブ県の避難民キャンプの様子=2026年1月25日 © Abdulrahman Sadeq/MSF
暴風雪に見舞われたイドリブ県の避難民キャンプの様子=2026年1月25日 © Abdulrahman Sadeq/MSF


シリアで内戦が激化していった当時は、さまざまな人道援助機関が緊急支援を提供したが、時間の経過とともにその量は減少していった。

現在では、多くの避難民がわずかな援助しか受けられないまま、ほぼ自力で生活を支えざるを得ない状況に置かれている。簡易な住居は季節を重ねるごとに劣化し、人びとは住まいを維持するため、手に入る限りの材料をかき集めなければならない。

「最後に人道援助団体から支援を受けたときから、1年と数カ月が経ちました」と、キャンプで暮らすムーサさんは話す。

それ以降、このキャンプで暮らす私たちには、誰からも一切、援助が届いていません。

ムーサさん

厳しい寒さの中、MSFから受け取った暖房用資材をテントまで運ぼうとする子どもたち。山の斜面に点在するテントまでは道が整備されておらず、運搬手段もないため、たどり着くのは容易ではない=2026年1月20日 © Abdulrahman Sadeq/MSF
厳しい寒さの中、MSFから受け取った暖房用資材をテントまで運ぼうとする子どもたち。山の斜面に点在するテントまでは道が整備されておらず、運搬手段もないため、たどり着くのは容易ではない=2026年1月20日 © Abdulrahman Sadeq/MSF

埋まらないニーズ 求められる支援の強化

人道援助のニーズは膨大で、今も増え続けている。食料、医療、冬用の衣類、毛布、薬品といった生活に欠かせないものでさえ、容易には入手できない。

一部のキャンプには小さな診療所があるが、物資は限られているうえにサービスは有料で、医療は多くの人びとにとって手の届かないものとなっている。

MSFはイドリブ県で避難している人びとへの支援を続けている。2025年12月から2026年2月にかけて、MSFは21のキャンプで2000世帯に対し、暖房用燃料(約600トンの薪)やビニールシートを配布した。さらに、サルカン周辺やハリム山間部のキャンプでは、700世帯にマットレス1400枚、毛布4200枚、衛生キットや調理用キットを提供。イドリブ県郊外のアルマナズでは150世帯にテントを配布した。

こうした援助は、厳しい冬を乗り越え、寒さによる差し迫った危険を軽減することが目的だ。それでも、必要とされる援助と実際に届けられている援助の間には、依然として大きな隔たりがある。

「人びとは極めて貧弱な仮住まいに身を寄せています」とMSFのロジスティクス・マネージャー、オサマ・ジョウハダルは話す。

毎年冬になると、寒さや風、雪にさらされ、生き延びるだけで精一杯です。私たちは、人びとがこの寒い季節を乗り越えられるよう、規模は小さくても欠かすことのできない基本的な援助を届けようと尽力しています。

オサマ・ジョウハダル MSFロジスティクス・マネージャー

MSFが配布用に用意したヒーター=2026年2月5日 © MSF
MSFが配布用に用意したヒーター=2026年2月5日 © MSF


2025年11月から2026年2月にかけて、MSFはシリア南部のダルアー県とダマスカス郊外県で、約3000台のヒーターのほかマットレスや毛布を配布し、過酷な天候や危険な環境で長いこと不安定な状況にさらされている人びとを支援した。

また、北東部のカーミシュリーやデリク/アル・マリキヤでは、激しい雨と寒さの中、タブカ、ラッカ、ハサカから避難を余儀なくされた人びとのニーズに対応した。

シリアで避難生活を続ける人びとの苦悩は、紛争が報道の見出しからは消えゆく中、忘れ去られつつある。しかし、その人道的な影響は今なお深刻で、解決にはほど遠い現実が続いている。

援助物資を受け取りに来た人びと=2026年2月5日 © MSF
援助物資を受け取りに来た人びと=2026年2月5日 © MSF

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