ダマスカス近郊に24時間体制の救急治療室を開設──国境なき医師団、シリアでの活動を拡大

2025年04月17日
破壊されたダラヤの路上で遊ぶ子どもたち=2025年3月26日 © Al Baraa Haddad/MSF
破壊されたダラヤの路上で遊ぶ子どもたち=2025年3月26日 © Al Baraa Haddad/MSF

14年にわたる内戦の末、2024年12月8日にバシャール・アサド政権が崩壊したシリア。大規模な戦闘は終結したものの、シリアは広範囲に及ぶ破壊、続く避難生活、経済的困難、そして、医療を含む基本的なサービスの不足に直面している。

国境なき医師団(MSF)は、これまで活動できなかった地域、特に大都市や医療が行き届いていない農村部で活動を始めている。これらの地域は、人道ニーズが深刻でありながら、しばしば見過ごされてきた。首都ダマスカス南西部のダラヤも、その一つだ。MSFはダラヤで基礎診療所を支援し、24時間体制の救急治療室を開設した。

ダラヤの診療所の開設式に集まったMSFと保健局のメンバー=2025年3月26日 © Al Baraa Haddad/MSF
ダラヤの診療所の開設式に集まったMSFと保健局のメンバー=2025年3月26日 © Al Baraa Haddad/MSF

地域全体が更地に 病院も甚大な被害

「私たちのチームが訪れたほぼすべての場所で、内戦の爪痕が明らかでした。地域全体が破壊され、再建への取り組みはほとんど行われず、基本的なサービスの復旧への投資も最小限にとどまっていました」と、ダマスカスのMSFプロジェクト・コーディネーターであるムスタファ・ハタブは語る。

「特に、ダマスカス近郊のダラヤは際立っていました。広範囲にわたる破壊により、地域全体が更地になっているのです」

しかし、人びとは戻ってきて、暮らしを立て直そうと決意しています。

ダマスカスのMSFプロジェクト・コーディネーター ムスタファ・ハタブ

2024年12月に旧政権が崩壊した後、多くの人びとが故郷に戻ったが、残された武器や爆発物による土地の汚染、雇用の不足、経済的苦境、清潔な水や医療サービスへのアクセスの欠如など、多くの課題に直面しているとハタブは言う。

「例えば、ダラヤの病院は甚大な被害を受けており、修復には多額の投資が必要ですが、近い将来に修復が実現する可能性は低いでしょう。 つまり、救急医療と二次医療の唯一の現実的な選択肢はダマスカス中心部の医療施設となりますが、そこはすでに大きな負担がかかっています」

ダラヤで唯一機能している診療所も、予防接種、栄養失調の治療、慢性疾患に対する基礎的な医薬品の提供のみという、非常に限られた運営となっています。

ダラヤの診療所を訪れた人びと=2025年3月26日 © Al Baraa Haddad/MSF
ダラヤの診療所を訪れた人びと=2025年3月26日 © Al Baraa Haddad/MSF

24時間体制の医療サービスを無償で提供

これを受けて、MSFは地元の保健局と連携し、3月からダラヤでの活動を始めた。診療所を改修した後、医師と助産師が中心となって外来診療、心のケア、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)を含む基礎的な医療を提供している。 
 
また、MSFと保健局は、外傷患者への緊急の基礎医療を提供するために24時間体制の救急治療室を開設。より専門的な治療が必要な患者のために、ダマスカスの病院への紹介システムも確立した。 MSFはこれらのサービスをすべて無料で提供している。

MSFが3月に支援を始めてから、診療所の診療件数は着実に増加しており、外来患者数は1000人を超えている。また、ダラヤではこれまで非常に限られていた、リプロダクティブ・ヘルスケアに関する医療サービスを求めて訪れる患者も増えている。

救急治療室では、医療チームが2週間で308件の診療を行い、24人の患者を専門家の治療に紹介した。

「ダラヤの救急治療室の開設は、人びとにとって、医療へのアクセスにおける決定的な転換点となるでしょう」と、MSFの医療チームリーダーであるジェスロ・ゲリーナは言う。
 
「ある男性が、自宅で事故に遭って、頭部を6針縫うことになった息子を連れてきました。私たちが治療費を払う必要はないと伝えると、彼は安堵の涙を流したのです」とゲリーナは振り返る。 

彼はこう言いました。「治療費を払わずに済んだことなんて、これまで一度もない」と。

MSF医療チームリーダー ジェスロ・ゲリーナ

ダラヤの診療所の小児科で診察を受ける子ども=2025年3月26日 © Al Baraa Haddad/MSF
ダラヤの診療所の小児科で診察を受ける子ども=2025年3月26日 © Al Baraa Haddad/MSF

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