13歳少年が大やけど、病院まで50キロ超…船で命をつなぐ「水上の医療」──南スーダン

2026年08月31日
重度のやけどを負った13歳のマムーチさん(左)と母親のニャレウさん。専門的な治療を受けるため、親子は船で病院へと搬送された=南スーダン・上ナイル州マラカルで2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF
重度のやけどを負った13歳のマムーチさん(左)と母親のニャレウさん。専門的な治療を受けるため、親子は船で病院へと搬送された=南スーダン・上ナイル州マラカルで2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF

南スーダンには、医療を受けるために何時間、時には何十キロも移動しなければならない人びとがいる。
 
武力衝突避難、医療施設の不足が重なり、必要な治療にたどり着くこと自体が命がけになっている。道路での移動が難しい地域も多く、重症患者が専門的な治療を受けるには、川を船で何時間も移動しなければならないこともある。
 
国境なき医師団(MSF)は、川沿いの地域でアウトリーチ活動に取り組み、基礎診療所を支援するとともに、船を使って重症患者をより大きな病院へと搬送している。地域の身近な場所から専門医療まで、人びとを必要な治療につなぐ仕組みを支えている。

爆撃で失われた、身近な医療

13歳の少年マムーチさんはある晩、自宅でけいれん発作を起こし、家族が調理に使っていた火の中に倒れ込んだ。体の広範囲に重いやけどを負った。

マムーチさんが住んでいたのは、南スーダン・ジョングレイ州ランキエンの村。しかし、近くにあったMSFの病院は2026年2月に爆撃で破壊されていた。治療を受けるには、50キロ以上離れた同州チュイルにある、MSFが支援する別の医療施設まで向かわなければならなかった。

マムーチさんの症状は重く、チュイルで診察を受けた後、さらに専門的な治療が必要と判断された。そこで、上ナイル州のマラカル教育病院へ搬送されることになった。

「私たちの暮らしは本当に厳しいです」

母親のニャレウさんは話す。

この地域では、飢えで亡くなる人もいれば、野生動物に襲われたり、暴力を受けて命を落としたりする人もいます。子どもたちも連れ去られています。チュイルまでたどり着けた人たちは、生きているだけでも幸運なのです。

やけどを負った13歳の少年の母親 ニャレウさん

親子はMSFの船に乗り、7時間かけてマラカル教育病院へ向かった。道路は通行できず、とりわけ雨期には移動が難しくなるこの地域では、船が唯一の移動手段だった。

マラカルの船着き場に到着した国境なき医師団(MSF)の船=2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF
マラカルの船着き場に到着した国境なき医師団(MSF)の船=2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF

遠隔地の人びとに医療を届ける

上ナイル州とジョングレイ州の川沿いで暮らす人びとにとって、命を守るために必要な医療を受けるには、MSFのアウトリーチチームと船による活動が欠かせない。

アウトリーチとは、援助を必要としている人びとを積極的に見つけ出し、サービスを届ける活動のこと。地域との連携や健康教育を担当するMSFマネジャー、プリスカ・オコロ・オルジはこう説明する。

ソバット川流域のサウス・カナル、アコカ、バリエット方面など、さまざまな地域から多くの患者を受け入れています。基礎医療が十分に行き届いておらず、特に患者を適切な医療機関へつなぐ仕組みが不足しているためです。

地域との連携や健康教育を担当するMSFマネジャー プリスカ・オコロ・オルジ

白ナイル川沿いの村で活動を終え、迎えのMSFの船を待つアウトリーチチーム=南スーダン・上ナイル州コドクで2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF
白ナイル川沿いの村で活動を終え、迎えのMSFの船を待つアウトリーチチーム=南スーダン・上ナイル州コドクで2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF


MSFはジョングレイ州と上ナイル州で、地域に分散して医療を提供する体制を整えている。基礎診療所で必要な医療を提供できるよう支援するとともに、より専門的な治療が必要な患者をマラカルへ紹介している。

現在、MSFの地域アウトリーチチームは6カ所で計18人が活動し、およそ5万人を対象に医療を届けている。さらに8月には、上ナイル州ファショダ郡にも活動を広げるため、新たに3チームの研修を進めている。

各チームは、地域住民が選び、MSFの研修を受けた3人の地域保健担当者で構成される。内訳は、伝統的な出産介助者1人と保健スタッフ2人だ。

研修を受けるため、MSFの船でマラカルに到着した保健スタッフたち。研修後は3人1組のアウトリーチチームとして、上ナイル州を流れる三つの主要な水系沿いなどで診療や出産支援に携わる=2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF
研修を受けるため、MSFの船でマラカルに到着した保健スタッフたち。研修後は3人1組のアウトリーチチームとして、上ナイル州を流れる三つの主要な水系沿いなどで診療や出産支援に携わる=2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF


プリスカはこう説明する。

基礎診療所には、十分な対応力や医薬品がないこともあります。だからこそ、私たちはこの地域で支援を広げているのです。

地域との連携や健康教育を担当するMSFのマネジャー プリスカ・オコロ・オルジ

広大で移動の難しい地域に暮らす人びとが、誰でも必要な医療を受けられるようにするには、身近な場所に医療を届けるこの仕組みが不可欠だ。

マラカルでアウトリーチを統括するMSFの看護活動マネジャー、アリム・ハリドゥはこう話す。

町の人口の10倍に相当する診療件数になることさえあります。地元の基礎診療所には必要なものがほとんどないため、医療や薬、栄養治療食を求め、はるか遠くから人びとが訪れているということです。

マラカルでアウトリーチを統括するMSFの看護活動マネジャー アリム・ハリドゥ

地域全体で不足する外科医療

MSFは、より高度な治療が必要な患者をマラカル教育病院へ紹介している。

この病院では、MSFと南スーダン保健省が、新生児医療、小児医療、栄養治療、救急医療、慢性疾患の診療に加え、帝王切開を含む外科医療を提供している。現在、上ナイル州とジョングレイ州の広い範囲で、外科手術に対応できる二次医療機関はここしかない。

マラカル教育病院の入り口=2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF
マラカル教育病院の入り口=2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF


この病院の男性外科病棟では、患者のダックさん(仮名)が銃撃による負傷から少しずつ回復していた。

ダックさんたちは食料を求め、家族や家畜と共にランキエンからチュイルへ移ろうとしていた。森に差しかかったところで武装した男たちに襲われ、一行のうち10人が殺害された。ダックさんを含む6人が銃撃を受け、そのまま森に取り残された。さらに、襲撃者は多くの子どもを連れ去り、その中にはダックさんのおいやめい7人も含まれていた。

数日後、行方を捜しに来た家族がダックさんを見つけた。家族はダックさんを担ぎ、徒歩で7時間かけて、MSFが支援するチュイルの医療施設まで運んだ。容体が安定した後、MSFの船でマラカル教育病院へ搬送された。手術を受け、胸、脚、骨盤から銃弾が摘出された。

ダックさんはこう嘆く。

今、痛むのは上半身と心臓の辺りです。脚の感覚はなく、足の指も動かせません。

襲撃を受けて搬送された南スーダンの住民 ダックさん

今後も必要な限り、ダックさんには心のケアを含む術後の治療が続けられる。

退院後、ソバット川沿いの自宅へ戻るため迎えを待つ兄妹。妹(右)は木から落ちて腕を骨折し、手術を受けるためMSFの船でマラカルへ搬送されていた=2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF
退院後、ソバット川沿いの自宅へ戻るため迎えを待つ兄妹。妹(右)は木から落ちて腕を骨折し、手術を受けるためMSFの船でマラカルへ搬送されていた=2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF

船で人びとを医療へつなぐ

上ナイル州を流れる三つの水系では、患者を必要な医療へつなぐために船が欠かせない。MSFは、住民が基礎医療の拠点まで移動できるよう、各アウトリーチ拠点にカヌーを配備している。

こうした活動は着実に成果を上げている。アウトリーチをしている地域では亡くなる人が減り、住民の健康や医療に関する知識も広がっている。

マラカルで活動するMSFの小児科医、ジョアナ・ピレス・ボルジェスはこう話す。

MSFの小児科医ジョアナ・ピレス・ボルジェス © Joanne Lillie/MSF
MSFの小児科医ジョアナ・ピレス・ボルジェス © Joanne Lillie/MSF

地域の身近な場所で医療を提供し続けることは、本当に重要です。この活動がなければ、多くの患者は治療を受けられません。私たちはこれからも地域の人びとと協力しながら活動を進め、家族との信頼関係を築いていきます。そうすることで、医療が必要になった時に、家族が患者をアウトリーチの拠点まで連れてきてくれるようになるからです。

マラカルで活動するMSFの小児科医 ジョアナ・ピレス・ボルジェス

生後3カ月のニャワルカちゃんも、MSFの船で搬送された患者の一人だ。

ある晩、白ナイル川沿いの村で、ニャワルカちゃんは「トゥクル」と呼ばれる伝統的な草ぶきの家で眠っていたところ、ヘビにかまれた。

初めは伝統的な治療法を受けたが、翌朝になっても良くならなかったため、MSFのアウトリーチチームに連絡が入った。チームはニャワルカちゃんを迎えに行くために船を出した。

母親のニャニュエムさんは「船が来てくれて、本当にうれしかったです」と胸をなでおろす。

白ナイル川沿いの遠隔地で医療を届けるため、MSFの船で村にやってきたアウトリーチチーム=コドクで2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF
白ナイル川沿いの遠隔地で医療を届けるため、MSFの船で村にやってきたアウトリーチチーム=コドクで2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF


アウトリーチ活動と船による患者の搬送は、上ナイル州とジョングレイ州の川沿いで暮らす家族にとって命綱だ。しかし、MSFだけですべての人に医療を届けることはできない。

ジョングレイ州、上ナイル州、さらには南スーダン全土で、基礎医療を確実に機能させ、十分な支援をする必要がある。そのためには、医療従事者を十分に配置して、医薬品や栄養治療食、ワクチン、医療機器を安定して供給しなければならない。

さらに、専門的な治療が必要になった際に患者を適切な医療機関へ安全に移せるよう、紹介・搬送の仕組みを維持することも大切だ。その上、暴力や避難、飢えによって医療ニーズが高まり続ける中、二次医療や外科医療も拡充しなければならない。

人びとがより身近な場所で、手遅れになる前に命を守る治療を受けられるようにする必要がある。

白ナイル川沿いの遠隔地で医療を届けるため、コドクに到着したMSFのアウトリーチチーム=コドクで2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF
白ナイル川沿いの遠隔地で医療を届けるため、コドクに到着したMSFのアウトリーチチーム=コドクで2026年7月28日 © Joanne Lillie/MSF

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