治療か、食べ物か──結核患者を追い詰める飢餓:ソマリア

2026年03月24日
ソマリア・ムドゥグ地域にある結核病院の中庭に集まる患者たち=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF
ソマリア・ムドゥグ地域にある結核病院の中庭に集まる患者たち=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF

3月24日は世界結核デー。結核は今も世界の多くの地域で深刻な脅威となっている。

中でもソマリアは、結核および薬剤耐性結核の罹患(りかん)率が高く、ワクチンの接種率も低い。また、まん延する栄養失調が発症のリスクを押し上げ、治療の継続を一層難しくしている。

ソマリア中央部のムドゥグ地域では、結核と飢餓という二重の苦難が続いている。現地から報告する。

空腹が服薬を困難に

ソマリア・ガルカヨにあるムドゥグ地域病院の結核病棟で、ファドゥモさん(仮名)はベッドに腰掛け、膝の上で両手を固く組んでいた。日は傾き、薄暗くなり始めている。彼女は前日から何も食べていなかった。

看護師がやって来て、錠剤を手渡した。ファドゥモさんは一瞬ためらいながらも、水でそれを飲み込む。他に口にできるものは何もない。

28歳のファドゥモさんは、ガルカヨから数時間離れたハラルデレ出身だ。3カ月にわたって咳やろっ骨の痛み、発熱、体重減少が続いたため、なんとか工面した 30 ドル(約4800円)を交通費にあて、一晩かけて病院にたどり着いた。移動を決意したときには、干ばつの影響で家族の家畜はすでに死に絶えており、収入はほぼゼロになっていた。

「体に十分な栄養がなければ、感染症と闘うことはできません」と、ソマリアで国境なき医師団(MSF)の医療コーディネーターを務めるヤルミラ・クレスチコヴァ医師は話す。

「結核患者にとって、食べ物はぜいたく品ではなく、治療の一部です」

それにもかかわらず、私たちはファドゥモさんのように、ほとんど何も口にできない人びとにも、結核治療の全過程をやり遂げるよう求めざるを得ないのです。

ヤルミラ・クレスチコヴァ医師 ソマリアのMSF医療コーディネーター

結核の治療を受けるファドゥモさん=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF
結核の治療を受けるファドゥモさん=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF

結核治療を阻む「飢え」

ソマリアでは、結核は今も深刻な公衆衛生上の脅威となっている。長年にわたる干ばつや紛争避難の影響によって、牧畜を中心とした生計手段は大きく損なわれてきた。70%以上の世帯が雨水に依存した遊牧生活を送っており、水源が枯れ、家畜が減ると、人びとは収入と食料の両方を失ってしまう。

食料不安は危機的な水準に達している。ソマリアの約半数の世帯が、十分な栄養のとれる食事を確保できていない。そのため、2025年8月から2026年7月の間に、生後6〜59カ月の子ども185万人が急性栄養失調に陥ると予測されている。さらに最近の報告では、ソマリア全土で 650 万人が深刻な飢餓に直面していると指摘されている。

ファドゥモさんのような人びとにとって、これは結核と切り離すことのできない危機だ。栄養失調は免疫力を弱め、結核菌に触れたときに発病へとつながりやすくなるうえ、すでに結核を患っている人びとの予後を悪化させる。

また、しばしば「眠っている結核」とも呼ばれる潜在性結核感染も、体が十分に抵抗できなくなると抑え込みがきかなくなり、活動性結核へと進行してしまうリスクが高まる。

「今、私たちが目にしているのは、さまざまな悪条件が危険な形で重なり合っている状況です」とクレスチコヴァ医師は言う。

飢餓は、単に患者を増やすだけではありません。治療の効果を弱め、薬剤耐性結核の症例を増やすことにもつながりかねないのです。

ヤルミラ・クレスチコヴァ医師 ソマリアのMSF医療コーディネーター

こうした事態は、より強い副作用を伴う薬を使わざるを得ない状況を招き、最悪の場合、患者に治療の選択肢がほとんどなくなってしまう恐れがある。

結核を患った21歳の男性。6時間かけてムドゥグ地域病院にたどり着いた=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF
結核を患った21歳の男性。6時間かけてムドゥグ地域病院にたどり着いた=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF

栄養不足のまま続く、過酷な薬の服用

結核治療薬の服用には、細心の注意が必要だ。適切に吸収されるため空腹時に服用する錠剤もあれば、副作用を抑え吸収を良くするために、軽食と一緒に服用した方が安全で効果的な薬もある。だがムドゥグ地域では、多くの患者にその選択肢がそもそもない。

深刻な資金不足により、ソマリアでの食料支援は大幅に削減されている。緊急食料援助を受けられる人びとは、2024年の220万人から、2025年末には35万人へと激減した。配給は家族が必要とする量のほんの一部に縮小され、多くの人びとは1日1回のわずかな食事だけで生き延びている。

「患者からは、『食事を取っていないと副作用に耐えられないため、服薬を飛ばしてしまう』という声が聞かれます」とクレスチコヴァ医師は話す。

「また、錠剤を吐いてしまい、もう一度飲む気力を失ってしまう人もいます」

服薬を一度でも欠かすと、治療が失敗するリスクが高まり、結核菌が薬剤に対して耐性を獲得してしまう危険性も増してしまうのです。

ヤルミラ・クレスチコヴァ医師 ソマリアのMSF医療コーディネーター

現在、ムドゥグでは結核患者を対象とした継続的な食料支援は行われていない。MSFは、重度の栄養失調に陥った一部の患者に少量の栄養食を提供して対応しているが、結核治療の期間や負荷に見合う定期的な食料配給には程遠い。

食べ物が不足している中で、つらい副作用に耐えるか、治療を受けるために移動するか、子どもたちに食べさせるか──患者はそのいずれかを選ばざるを得なくなる。こうした状況では、服薬の継続は困難になり、治療失敗の可能性も高まる。

ムドゥグ地域病院で結核の診察を受ける赤ちゃん=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF
ムドゥグ地域病院で結核の診察を受ける赤ちゃん=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF

遠い医療への道 たどり着けない患者たち

MSFは2000年代の初めから、ムドゥグ地域で結核患者の治療にあたっている。ガルカヨでは、ムドゥグ地域病院において結核および薬剤耐性結核の治療を支援するとともに、避難民のコミュニティを訪問し、診断や専門医療への紹介につなげるための移動診療も実施している。
 
2023年から2025年にかけて、MSFはガルカヨで1160人の結核患者を治療し、そのうち約924人が治療を無事に完了した。治療成功率は80%に達している。これらの数字は、患者が治療を開始し、継続することができれば、成果につながることを示している。

しかし、特に薬剤耐性結核では、医療へのアクセスはいまだ不安定だ。治療を受けられる施設はごく限られており、ムドゥグで治療を始めるためには、患者は時に数日をかけて移動しなければならない。

感染拡大を抑え、重症化を防ぐには、早期発見と予防ケアが不可欠だが、この長距離移動の負担が、濃厚接触者の追跡や家族へのスクリーニングをはるかに難しくしている。

「この病院まで来られるのは、お金と時間、そして移動の安全を確保できた人だけです」とクレスチコヴァ医師は言う。

多くの人はその途中で断念せざるを得ません。それによって診断が遅れたり、そもそも診断に至らなかったりする人が大勢いるのです。

ヤルミラ・クレスチコヴァ医師 ソマリアのMSF医療コーディネーター

ガルカヨにある結核病院で診察を受ける男性=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF
ガルカヨにある結核病院で診察を受ける男性=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF

治るかどうかは、食べ物次第──早急な食料支援を

ムドゥグでファドゥモさんのような患者の事例が示しているのは、ひとつの揺るぎない現実だ。食料は結核治療に不可欠な「医療の一部」であり、人道援助の「付け足し」ではない。十分な栄養がなければ、副作用は強まり、薬の吸収率は低下し、治療の継続は難しくなる。さらに、薬剤耐性が生じる危険性も大きくなる。

クレスチコヴァ医師は次のように訴える。

援助団体や当局は、食料支援を早急に再開し、結核患者が確実にその対象に含まれるようにしなければなりません。

ヤルミラ・クレスチコヴァ医師 ソマリアのMSF医療コーディネーター

人道援助団体や医療関係者は、結核治療に栄養支援を組み込むことに加え、人びとが生活する場所の近くで薬剤耐性結核の診断と治療ができる体制を強化することが必要だ。そうした環境が整って初めて、多くの人が長距離移動を強いられることなく治療を始められるようになる。

結核病棟で、ファドゥモさんは椅子にもたれ、目を閉じたまま、飲み込んだ錠剤が体に留まってくれることをじっと待っている。彼女の治療は少なくとも6カ月は続く。十分な食べ物がなければ、毎回の服薬が耐久試験のようになってしまう。それは、ムドゥグ全域の多くの患者にとっても同じだ。

治るかどうかを左右するのは、薬そのものではない。食べるものを確保できるかどうかにかかっているのだ。

エチオピアから8時間かけてガルカヨの病院にたどり着いた男性。結核と栄養失調を患っている=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF
エチオピアから8時間かけてガルカヨの病院にたどり着いた男性。結核と栄養失調を患っている=2026年3月10日 © Mohamed Abdirahman/MSF

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