援助削減で医療崩壊の危機──国境なき医師団が地元NGOと切り拓く支援の突破口:スーダン

2026年01月27日
国境なき医師団(MSF)が支援するスーダン・西ダルフール州のジェネイナ教育病院で、診察を待つ親子。ジェネイナ教育病院は、深刻な医療危機が続くこの地域で、機能している数少ない公立病院のひとつだ=2025年7月29日 © Moises Saman/Magnum Photos
国境なき医師団(MSF)が支援するスーダン・西ダルフール州のジェネイナ教育病院で、診察を待つ親子。ジェネイナ教育病院は、深刻な医療危機が続くこの地域で、機能している数少ない公立病院のひとつだ=2025年7月29日 © Moises Saman/Magnum Photos

米トランプ政権が国際援助の削減にかじを切ってから1年。その潮流は欧州にも広がり、各国が相次いで援助削減を推し進める中、多くの人道援助団体が深刻な資金不足に陥り、活動の撤退や縮小に追い込まれている。その影響は、最も弱い立場にある国々の医療や基本的なサービスを直撃している。

国境なき医師団(MSF)は、こうした一連の援助削減による直接的な影響は受けていないものの、さまざまな保健組織や人道援助機関と連携してサービスを提供しているため、多くのプログラムが中断や縮小を余儀なくされている。

内戦下のスーダンもその例外ではない。しかしスーダンのMSFチームは、急速に変化する人道状況の中でも医療を継続するため、地元NGO「スーダン家族計画協会(SFPA)」に資金提供を行うことを決め、新たなパートナーシップを構築して活動を維持している。

MSFオペレーション・ディレクターのケネス・ラベル、およびSFPA事務局長のアスマー・フセイン・アルタイシ氏がその実情を伝える。

援助削減によって引き起こされる“避けられたはずの死”

MSFオペレーション・ディレクター、ケネス・ラベルの報告

ケネス・ラベル © MSF
ケネス・ラベル © MSF
国際援助の削減は、スーダンの人びとに壊滅的な影響を与えています。
 
たとえ銃弾を逃れたとしても、多くの人が病気や感染症の流行、そして必要な医療が受けられないことによって命を落としています。援助削減は、こうした避けられたはずの死をさらに増やしているのです。

2023年4月にスーダン軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の間で勃発した内戦は、西ダルフール州の一部住民に対する民族浄化へとエスカレートしました。残念ながら、これは過去20年以上にわたり繰り返されてきた傾向の再現でもあります。


公衆衛生サービスがほぼ完全に崩壊し、二次医療へのアクセスも極めて限られる中、MSFは西ダルフール州都ジェネイナにおける救命医療の継続を最優先としました。最も弱い立場にある人びとに向け、小児医療、栄養治療、そして救急医療の提供に重点を置いて活動してきました。 

2023年、西ダルフール州で激化した暴力から逃れ、MSFの病院に集まってきた人びと=2023年6月16日 © Mohammad Ghannam/MSF
2023年、西ダルフール州で激化した暴力から逃れ、MSFの病院に集まってきた人びと=2023年6月16日 © Mohammad Ghannam/MSF


これらに加え、私たちは妊産婦ケアも緊急の課題と位置づけました。妊産婦の死亡率は驚くほど高く、2025年には月平均1人以上が命を落としており、安全な分娩サービスへのアクセスはほとんどないのです。

多くの女性は、十分な訓練を受けていない伝統的分娩介助者を頼りに自宅で出産せざるを得ず、適切な設備も不足しているため、母子ともに重大なリスクにさらされています。

ジェネイナ教育病院で死産したあとに妊娠合併症の手術を受け、ベッドの上で家族とともに過ごす女性=2025年8月1日 © Moises Saman/Magnum Photos
ジェネイナ教育病院で死産したあとに妊娠合併症の手術を受け、ベッドの上で家族とともに過ごす女性=2025年8月1日 © Moises Saman/Magnum Photos


このような不安定な状況は、米国政府などによる国際援助への資金削減が発表されたことで、さらに悪化しました。
 
MSFが産科医療に関する協力を約束していた人道援助団体が、援助削減により資金源を失い、妊産婦向けの活動が突然、停止しかねない危機に直面したのです。
 
この空白を埋めるため、MSFはジェネイナで保健省を支援しているNGO「スーダン家族計画協会(SFPA)」とのパートナーシップを立ち上げました。

MSFはSFPAに資金提供を行い、ジェネイナ教育病院で合併症のない出産に対する無料の妊産婦ケアを継続できるよう支援しています。一方で、MSFは同じ病院内で合併症を伴う出産への対応に専念しています。
 
2025年6月以降、私たちはSFPAと共に1300件以上の出産を支援し、多くの母親と新生児に安全な医療ケアを届けています。

このようにMSFは現在、地元NGOへ資金提供を行っていますが、問題は「費用」ではありません。「多くの命が、日々危険にさらされている」という現実です。

スーダンで保健体制を維持するのに必要な資金は、2025年8月の時点で、わずか24%しか集まっていません。

MSFは援助国および政治的影響力を持つ関係者に対し、直ちに行動を起こすよう改めて呼びかけます。今こそ約束を実行に移し、責任を果たすときです。

マラリアを患い、西ダルフール州の病院に入院中の4歳の男の子=2025年7月29日 © Moises Saman/Magnum Photos
マラリアを患い、西ダルフール州の病院に入院中の4歳の男の子=2025年7月29日 © Moises Saman/Magnum Photos

MSFの支援により包括的なケアの継続が可能に

スーダン家族計画協会(SFPA)事務局長、アスマー・フセイン・アルタイシ氏の報告

アスマー・フセイン・アルタイシ氏 © MSF
アスマー・フセイン・アルタイシ氏 © MSF
ジェネイナにおける女性のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)のサービスは非常に限られており、簡単には利用できない状況にあります。

私たちは地域の団体として、西ダルフール州で家族計画に加え、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)、保護サービス、アドボカシー活動、乳がん啓発、健康推進活動など、必要なサービスを幅広く提供しています。
 
これらを通じて妊産婦の死亡を減らし、女性が統合的で質の高いケアにアクセスできるよう支援しています。


2023年4月に内戦が始まってから数カ月後、私たちの協会は国際家族計画連盟(IPPF)から6カ月間の資金援助を受け、同年11月にジェネイナの事務所を拠点として西ダルフールでの活動を再開しました。

この期間、移動診療所の運営やリプロダクティブ・ヘルスのサービスの提供、そして母親たちへの家族計画手法の普及に重点を置いて活動しました。

資金援助が2024年6月に終了すると、診療所と事務所への支援は途絶えました。それでも、私たちは活動を止めませんでした。

女性向けサービスに深刻な空白が生じている状況の中、スーダンの女性である私たち自身の決意と使命感に突き動かされ、家族計画、リプロダクティブ・ヘルスケア、そして地域での啓発活動を続けてきたのです。

ジェネイナ教育病院で2026年元日に元気な男の子を出産した女性 © MSF
ジェネイナ教育病院で2026年元日に元気な男の子を出産した女性 © MSF
先日、MSFがリプロダクティブ・ヘルスへの資金援助に踏み出してくれたことで、私たちは母子保健センター内にあった旧診療所を再び稼働させることができました。
 
MSFとのパートナーシップは大きな変化をもたらしており、深く感謝しています。

内戦と深刻な経済危機に苦しむ地域社会にとって、この支援は欠かせません。多くの家庭が、出産や基本的な医療にかかる費用さえ負担できない状況に置かれているのです。

MSFの協力により、私たちは検査や医薬品も含む安全な分娩サービスを、すべて無料で提供しています。

この援助のおかげで、センターを通じて保健教育、栄養カウンセリング、母乳育児支援など、包括的なケアを届けることが可能になりました。

ジェネイナ教育病院の小児病棟で、MSF主催の心のケアのセッションに参加する親子。人びとが内戦による恐怖や喪失、混乱に対処できるよう支援している=2025年7月29日 © Moises Saman/Magnum Photos
ジェネイナ教育病院の小児病棟で、MSF主催の心のケアのセッションに参加する親子。人びとが内戦による恐怖や喪失、混乱に対処できるよう支援している=2025年7月29日 © Moises Saman/Magnum Photos

【スーダン家族計画協会(SFPA)への資金提供の背景】

2025年初め、MSFは西ダルフール州ジェネイナ教育病院で妊産婦医療に大きな空白があることを確認した。安全な出産サービスはほぼなく、機能する公立病院は2つのみで、私立病院は高額なうえ、農村部には救急体制もなかった。

この状況を受け、MSFは産科を担う予定だった国際援助団体と合意していたが、USAIDの援助停止により同団体が撤退。妊産婦ケアの空白が残され、MSFは緊急に代替策を探る必要に迫られた。

同年3月、MSFは地元NGO「スーダン家族計画協会(SFPA)」と連携を開始。SFPAが合併症のない出産を、MSFが合併症のある出産をそれぞれ担当する体制を構築することで、妊産婦ケアの継続を確保した。

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