【動画】スーダン:避難の10万人超どこへ──州都制圧から1カ月、遮断された人道援助
2025年12月05日脱出した住民の一部は、避難民キャンプがある西部のタウィラに逃れて治療を受けている。
ただ、人びとはエル・ファシールからやって来るまでに集団殺害、拷問、身代金目的の誘拐などの被害に遭ったと証言。行方不明の住民の深刻な状況が浮き彫りとなっている。
国境なき医師団(MSF)はタウィラでの援助活動を強化している。手術をはじめとする治療を続けているほか、病院の収容能力は計220床にまで増やし、 避難民キャンプでの給水支援も展開している。
妻と娘を奪われて
最愛の家族2人を突然奪われたAMさん(仮名、44歳)。なおも危険な状況が続いていたエル・ファシールを10月27日に離れ、西に約60キロ離れたタウィラへ向かうことを決断した。
歩いて4日間の過酷な旅。道中では、同行した残りの家族と共に拷問や暴行、強奪を受け続けた。
エル・ファシールの北西に位置するガルニ村では、一緒にいためいが飢えと疲労によって命を落とし、その場で埋葬せざるを得なかった。
それでもAMさんは、生き残った子どもたち、兄、さらに途中で出会った孤児たちも連れて前に進み続けた。
しかし、ようやくタウィラに到達したと思ったのもつかの間、彼らを待っていたのは絶望だった。水は足りず、食料は足りず、住居もトイレもなかったのだ。
めいは長距離を歩き続けることに耐えられず、亡くなりました。この旅は非常に過酷だったうえに、私たちはいまも極度の苦境にあるのです。
妻と娘を亡くした避難民 AMさん(仮名、44歳)
取り残された人びと──エル・ファシール
ノルウェー難民評議会(NRC)によると、AMさんのように集団殺害から生き延びた約1万人がタウィラの避難民キャンプへと逃れている。
だが、たくさんの人が身を寄せたことでキャンプは過密状態となり、現地は劣悪な環境だ。
さらに、注意するべき点がある。
国連によると、8月末時点で約26万人がエル・ファシールにとどまっていたと推定されるが、タウィラに逃れたという「1万人」はそれに比べて 非常に少ない数字だ。
MSFを含めて、いかなる国際的な人道援助団体もエル・ファシールへたどり着けていない。それでもMSFは、医療援助を必要としている生存者を各地で探し続けている。
北ダルフール州では数カ所の地域を訪れたが、新しい避難民は多くなく、過去3週間で数百人規模にとどまっていた。そこでは複数の重症患者を見つけたため、タウィラ病院へと搬送した。
こうした状況は、南ダルフール州、中央ダルフール州の一部地域でも同様だった。
また、MSFは西の隣国・チャドへの脱出ルート上にある数カ所でも医療活動をしているが、大規模な流入はここでも見られていない。
タウィラ病院のMSF医療チームリーダー、ムナ・ハネバリ医師は人びとの避難状況についてこう説明する。
エル・ファシールが制圧される1週間前から、避難民の流入が始まりました。最初は疲れ果てて、栄養失調となり、脱水状態の女性と子どもが多く、トラックで運ばれてきました。制圧後は、外傷や銃創などの深刻なけがをして、歩いて逃げてきた男性たちも到着しました。しかし、今ではこのルートを通って来る人数はさらに減っています。一部は別の方面から到着していますが、人数は依然として少ないです。
タウィラ病院のMSF医療チームリーダー ムナ・ハネバリ医師
MSFが聴き取った避難者の証言や、米エール大学による衛星分析などの外部情報を総合すると、エル・ファシールにいた大勢の市民が現地で殺され、拘束され、いまも包囲の中で支援も逃げ場もないまま取り残されている実態が明らかとなっている。
ひっ迫する避難民キャンプ──タウィラ
このうち 38万人近くは、2025年4月にRSFがエル・ファシール近郊のザムザム・キャンプを攻撃してから来た新規の到着者で、受け入れ態勢はすでに限界を超えている。
ダルフールのMSF緊急コーディネーター、ミリアム・ラールッシはこう指摘する。
タウィラのキャンプ全域で生活環境はとても不安定です。傷つき、疲れ切った人びとが、基本的なニーズすら満たせない場所に到着しています。木材と布切れで作られた 簡易テントで眠り、食料支援は優先対象者向けの1日1食のみに限られています。
ダルフールのMSF緊急コーディネーター ミリアム・ラールッシ
MSFがキャンプの2カ所で実施した調査では、1人1日わずか平均1.5リットルの水しか確保できていない。人道基準の最低値である15リットルを大きく下回っている状況だ。
「持っていたものはすべて奪われました」
2人の子どもとビニールシートの簡易テントに座り、こう嘆くのは30歳ほどの母親IOさん(仮名)。
3人はエル・ファシールから3日にわたって歩き続け、現在21万人がいるタウィラ最大のダバ・ネイラ避難民キャンプにたどり着いた。
夫はエル・ファシールで食料を探しに外へ出たとき、攻撃に巻き込まれて死亡した。彼女が10月25日に子どもたちと逃げることを決めた際、道端で夫の遺体を見つけたという。
IOさんはうなだれる。
いま残っているのは布1枚だけで、これを地面に敷いて子どもたちと寝ています。子どもたちには服が必要です。靴は1足しかなく、トイレに行く人が 順番に履いて使っています。 基本的な物資はまだまだ足りていません。
子どもたちとタウィラに逃れてきた母親 IOさん(仮名)
また、ダバ・ネイラ避難民キャンプでは野外排せつが一般的となっていて、コレラなどの感染症リスクが高まっている。
さらに、寒期が迫る中、多くの避難民が十分な防寒具や毛布を得られずに不安を募らせている。
避難民たちの証言
州都が制圧される前日に勃発した銃撃戦で脚を撃たれ、脛骨(けいこつ)が砕けた。
その後、 IAさんは3日にわたって道なき道を移動し続け、タウィラの病院にようやくたどり着いたという。しかし必死の努力も及ばず、脚の一部を切断せざるを得なかった。
IAさんはこう話す。
傷口からは大量に出血したので、兄が段ボールで止血帯を作り、巻いてくれました。その後、私をロバ車に乗せてここまで運んでくれたのです。この痛みを想像できますか? 本当に耐え難いものでした。まずは早く回復し、子どもたちが教育を続けられる安全な場所を見つけたいと願っています。
脚を撃たれて切断した警備員の避難民 IAさん(仮名)
生存者たちは、砲撃や銃撃から逃れ、3~5日にわたって夜間に歩き続けたと証言する。拘束や攻撃を避けるため、昼間は身を隠していたという。
人びとはすさまじい暴力を経験した。集団殺害や民族を理由とした残虐行為に遭い、道中では無数の遺体を見かけた。そのうえ拷問や身代金目的の誘拐、性暴力を受け、所持品をすべて奪われた。
さらに、患者たちは「エル・ファシール北部のガルニ村などで若い男性を中心に大勢が拘束され、女性と子どもから強制的に引き離された」とも話している。
FIさん(仮名、50歳)は、疲れ果てた様子で自身が受けた暴力を証言する。
拘束されたのは10日間。殴られたり、首にロープを巻かれたりするなど、言葉では言い表せないほど壮絶な暴力を受けた。
あいつらは酒に酔い、私たちを砂漠へ連れて行きました。茂みの中に私たちを横たわらせると、殴り、ひどく侮辱したうえに、「殺す」と脅して実弾を何発も打ち込んできたのです。
10日にわたって拘束されて拷問を受けた避難民 FIさん(仮名、50歳)
最終的には、重度の感染症でFIさんの傷が悪化し始めたため、50万スーダンポンド(約200米ドル/約3万円)を差し出すことで解放された。
MSFが治療した患者たちによると、ガルニ村やエル・ファシール周辺の町では、いまも多くの市民が身代金目的で拘束されている。
そしてRSFとその同盟勢力によって、タウィラのような安全な地域へ避難することを妨げられているという。
FIさんはこう警告する。
行方が分からなくなった人びとは、まだ後方に取り残されたままです。そしてあいつらが人びとを解放することは決してないでしょう。
10日にわたって拘束されて拷問を受けた避難民 FIさん(仮名、50歳)
ラールッシは現地の状況についてこう語る。
極度の暴力を生き延びた人びとは、エル・ファシール市内外でいまも深刻な危険にさらされています。人道援助は遮断され、生存者は 閉じ込められたまま動くこともできません。現地で具体的に何が起きているのかについて、直接的な情報はほとんど得られていません。
ダルフールのMSF緊急コーディネーター ミリアム・ラールッシ
タウィラにおけるMSFの対応
医療活動の拡大
例えば、タウィラに避難してくる人びとの主な到着地点の入口に、簡易診療所を設置した。ここでは外傷の処置や外来診療をして、重症患者の容体を安定させたうえで、救急車でタウィラ病院へ搬送できるよう手配している。
またMSFは、現地で心のケアのニーズが非常に高いことを確認しており、今後数週間の優先課題として取り組む方針だ。
さらに、タウィラ病院では、エル・ファシールからの避難者を受け入れるための救急エリアを8月中旬につくり、負傷者や外傷患者のためのベッドを24床から100床以上へと大幅に増やした。
この病院の医療チームリーダー、ムナ・ハネバリ医師はひっ迫した状況をこう語る。
手術件数は急増しており、現在は1日約20件に達しています。先月は1日当たり7件でした。
タウィラ病院の医療チームリーダー ムナ・ハネバリ医師
また、深刻な栄養失調の患者を治療することも多い。これは、エル・ファシールで人びとが長期にわたって包囲されていたことを示している。
給水支援、トイレの設置も
そして、最近では一部のキャンプで給水活動や仮設トイレの設置も始めた。
現在は、チャド国境に近い北ダルフール州の地域やチャド国内でも、医療へのアクセスを回復・拡充するための活動に取り組んでいる。
MSFは、RSFとその同盟勢力に対して強く求める。負傷者や病人を含むすべての市民が安全な地域へ避難できるよう、安全で自由な通行をすぐに確保すること。そして、ガルニ村やエル・ファシールをはじめ、生存者がいる地域への人道アクセスを確保することを。
さらに、タウィラで急増している医療、保護、食料、水・衛生のニーズに応えるため、支援者や援助団体に対して支援の拡大を呼びかけている。




