スーダン:暴力、飢餓、医療崩壊──それでも力強く生きる人びと 国境なき医師団が報告書『南ダルフールからの声』を公開

2025年06月12日
赤ちゃんを抱きながら、食料を受け取るための長い列に並ぶスーダンの女性=2025年2月14日 © Abdoalsalam Abdallah
赤ちゃんを抱きながら、食料を受け取るための長い列に並ぶスーダンの女性=2025年2月14日 © Abdoalsalam Abdallah

スーダン・南ダルフール州で人道援助活動を続ける国境なき医師団(MSF)はこのたび、報告書『南ダルフールからの声(Voices from South Darfur)』を公開した。

報告書の中でMSFは、まん延する暴力、不安定な治安、飢餓、崩壊した医療制度、そして、不十分な国際社会の対応が相まって、現地の生活がいかに限界まで追い込まれているかを、人びとの証言を通じて明らかにしている。

「人びとの声や物語からは、南ダルフール州全域に広がっている苦難や虐待、残酷さが浮き彫りになるだけでなく、人びとの忍耐力と思いやりも見えてきます」と、スーダンでMSF緊急対応マネージャーを務めるオザン・アグバスは話す。

民間人の保護が崩壊し、人道援助も依然として十分でないなかで、人びとは自分たちの声に耳を傾け、注目し、行動を起こしてほしいと訴えています。

オザン・アグバス スーダンのMSF緊急対応マネージャー

拘束、窃盗、略奪、レイプ──日常にはびこる暴力

南ダルフール州では2023年4月のスーダン内戦勃発後、激しい市街戦によって病院やインフラが破壊された。それまでは、多くの人道援助活動がこの地域で行われていたが、戦闘が激化するにつれて縮小されていった。
 
いま、地上戦は一時的に収まっているものの、治安は依然として不安定で、道路や農地、市場、そして自宅でも、人びとは恐ろしい暴力──恣意的な拘束、窃盗、略奪などにさらされている。さらに、南ダルフール州だけでなく他の地域でも、空爆やドローンによる攻撃が続いている。
 
性暴力もはびこっており、MSFは2024年1月から2025年3月までに659人の被害者に医療援助を行った。その56パーセントは、武装勢力など民間人以外から暴行を受けていた。
 
「女性がキャンプの外に出て農作業をしようとすると……、殴られ、拷問されるんです」と、避難民キャンプで暮らす南ダルフール州出身の25歳の女性は語る。
 
「外に出る方法はありません。つい6日前も……、おばの娘が6人の男たちにレイプされました」 

とても不安です。外に出れば、私もレイプされてしまうでしょう。

避難民キャンプで暮らす南ダルフール州出身の女性

人びとは、子どもたちが感じている恐怖や不安、そして、自分たちの無力さや屈辱感、閉塞感についても語っている。
 
「私たちの農場は完全に破壊され、何も残っていません。夫は4カ月前に殺されました。今、私たちには何もないのです」と、ベレイルに避難してきた21歳の女性は話す。 

ここ3日間、何も食べていません。でも外に出たら、帰り道で何が起こるか分かりません。夫を殺した人たちが、私にも同じことをするかもしれないと思うと、怖いのです──。

ベレイルに避難してきた21歳の女性

暴力により医療制度は崩壊し、さまざまな要因──施設の破壊や損傷、医療従事者の逃亡や給与の未払い、物資の不足や供給の中断など──が重なって、人びとは適切な医療を受けることができなくなっている。

また、残されたわずかな医療施設にも、人びとは交通費が工面できず、たどり着くことが難しい状況だ。

攻撃された南ダルフール州ニヤラの病院。壁に複数の銃弾の跡が残る=2024年9月5日 © Abdalla Berima/MSF
攻撃された南ダルフール州ニヤラの病院。壁に複数の銃弾の跡が残る=2024年9月5日 © Abdalla Berima/MSF

1日1食もままならない 加速する飢餓

治安の悪化は、飢餓をも引き起こしている。暴力の脅威によって、農地や収入源へのアクセスが断たれてしまっているからだ。

2024年1月から2025年3月にかけて、MSFは南ダルフール州で、5歳未満の急性栄養失調の子ども1万人以上を治療した。また、栄養失調の妊婦、授乳中の女性や少女たち数千人にも、栄養治療を提供した。
 
まもなく到来する雨期と不作期により、栄養不良の危機はさらに深刻化すると予想されている。
 
食料の価格は高騰しており、多くの家族は1日1食で生活せざるを得ず、時にはそれすらもままならない。
 
「毎日、見つけられるものだけで生き延びています」と、アル・サラム避難民キャンプに暮らす24歳の女性は言う。

何か手に入れば食べる、手に入らなければ食べない。それが私の生活です。

アル・サラム避難民キャンプに暮らす24歳の女性

南ダルフール州ニヤラで、MSFが提供する食料を待つ女性たち=2025年1月21日 © Abdoalsalam Abdallah
南ダルフール州ニヤラで、MSFが提供する食料を待つ女性たち=2025年1月21日 © Abdoalsalam Abdallah


紛争が始まって以来、南ダルフール州に対する国際機関や国連機関の対応は不十分で、一貫性がなく、援助の開始も遅かった。

2024年11月、ニヤラに住む23歳の女性はこう語った。

国際機関が人びとを助けていると聞きましたが、私たちには何も届いていません。

ニヤラに住む23歳の女性

最近は、国連機関が南ダルフール州に援助物資を届ける方法を徐々に見出しており、NGOも少しずつ活動を拡大している。

しかし、アクセスが著しく制限されているため、紛争開始から2年以上が経過した今も、国連機関は現地で援助活動を指揮・調整するための拠点を設置できておらず、NGOも慎重な対応を続けざるを得ない。

食料を受け取り、ロバが引く車で家路につく家族=2025年1月5日 © Abdoalsalam Abdallah
食料を受け取り、ロバが引く車で家路につく家族=2025年1月5日 © Abdoalsalam Abdallah

団結すれば暴力を乗り越えられる──

このような状況でも、地域コミュニティは暴力を乗り越えるため、団結してさまざまなことに取り組んでいる。例えば、住民同士は食料を分け合って互いに支え合い、若者はがれきや不発弾を撤去したり、避難民のために医薬品を購入したりしている。そして、教師らは略奪された建物で、無償で授業を行っている。
 
MSFは炊き出しや学校給食、ボランティアによる簡易診療所の運営など、地域主導の取り組みを支援している。また、医療施設や給水システムが修復されたことを受け、MSFは州内各地の6000世帯に食料を届けるプログラムも実施した。
 
こういった活動は、強い意志と創造性、そしてリスクを取る覚悟を組み合わせれば、地域主導の取り組みを支え、サービスの向上が可能だということを示していると、アグバスは説明する。

ダルフールの地域コミュニティは、必要なサービスを提供するための知識と専門性を兼ね備えています。こうした最前線で活動する人びとに、物資、資金、そして意思決定権を与えることは、人命救助に大きく貢献するでしょう。

オザン・アグバス スーダンのMSF緊急対応マネージャー

南ダルフール州ディリにある診療所。地域コミュニティとMSFが連携して運営している=2024年2月13日 © Irshad Khan/MSF
南ダルフール州ディリにある診療所。地域コミュニティとMSFが連携して運営している=2024年2月13日 © Irshad Khan/MSF

※報告書『南ダルフール州からの声』に掲載されている証言および医療データは、2024年1月から2025年3月までの活動を通じて収集したもの。

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