国連安保理で国境なき医師団が報告 「スーダンでは壊滅的な“人びとへの戦争”が起きている」

2025年03月21日
国連安保理でスーダンについて報告する、MSFインターナショナル事務局長のロックイヤー Ⓒ UN Web TV
国連安保理でスーダンについて報告する、MSFインターナショナル事務局長のロックイヤー Ⓒ UN Web TV

国境なき医師団(MSF)インターナショナル事務局長のクリストファー・ロックイヤーは3月13日、国連安全保障理事会(以下、安保理)において、スーダンで内戦により人道上の大惨事が起きていると報告し、市民に対する暴力の停止と、救命援助の提供に向けた新たな取り組みの必要性を訴えた。

「人びとに対する戦争」

スーダンの内戦は、何よりも「人びとに対する戦争 」であるとロックイヤーは言う。スーダン軍(SAF)は、人びとが密集する地域に繰り返し無差別な爆撃を行ってきた。準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」およびその支援組織は、組織的な性暴力、拉致、大量殺りく、人道援助物資の略奪、医療施設の占拠といった非道な作戦を繰り広げてきた。双方とも街を包囲し、重要な民間インフラを破壊し、人道援助を妨害している。

MSFはスーダンの11州において、両勢力の支配地域で人道主義の原則に従って医療を提供している。スーダンのMSFチームは、多くの地域で憂慮すべきレベルの栄養失調がまん延しており、感染症やワクチンで予防可能な病気も増加していると警告。これから雨期を迎えるにあたり、紛争地域の人びとに食料と医薬品を確実に届けることが緊急の課題であることは明白だ。

スーダン危機には根本的な転換が必要

MSFは安保理に対し、スーダンで起きている内戦は、市民の命を軽視した恥知らずなやり方で続けられてはならないと訴える。内戦が始まり2年近くが経過したが、 国際的な対応は紛争当事者による妨害と、説明責任、資金、リーダーシップの欠如により、あまりにも限定的なものとなっている。

「この場で議論が続く間も、スーダンの市民は人目に触れないまま、無防備なまま、爆撃され、包囲され、レイプされ、避難を余儀なくされ、食料も医療も尊厳も奪われたままです。人道的対応は、官僚主義、治安の悪化、ためらい、そして人道援助史上最大の資金削減となる恐れにより、機能不全に陥っています」

そうロックイヤーは語り、市民を保護し人道ニーズを満たすための新たな取り組みを求めた。

スーダンの危機には、過去の失敗からの根本的な転換が必要です。何百万人もの命がかかっています。

クリストファー・ロックイヤー MSFインターナショナル事務局長

国連安全保障理事会におけるスーダンの人道状況に関する報告全文
MSFインターナショナル事務局長 クリストファー・ロックイヤー

この2年間、非道な暴力がスーダンを苦しめてきました。2年にわたる紛争でもたらされたものは、荒廃と避難、そして死です。

何百万人もの人びとが住まいを追われ、多くの人びとが殺されました。飢きんも広がっています。

スーダンの人びとのこの2年間の苦しみは、2年間の無関心と無策によってもたらされました。

戦闘の激化により避難する北ダルフール州の人びと=2024年6月10日 Ⓒ MSF
戦闘の激化により避難する北ダルフール州の人びと=2024年6月10日 Ⓒ MSF

スーダンで起きている内戦は、人びとに対する戦争です。その事実は日ごとに明らかになっています。

即応支援部隊(RSF)、スーダン軍(SAF)、およびその他の紛争当事者は、市民の保護を怠っているだけではなく、積極的にその苦しみを増幅させています。

SAFは、人びとが密集する地域に繰り返し無差別な爆撃を行っています。準軍事組織RSFおよびその支援組織は、組織的な性暴力、拉致、大量殺りく、人道援助物資の略奪、医療施設の占拠といった非道な作戦を繰り広げています。双方とも街を包囲し、重要な民間インフラを破壊し、人道援助を妨害しているのです。

南ダルフール州ニヤラ。空爆で負傷した人が一斉に病院に運ばれた=2025年2月4日 Ⓒ MSF
南ダルフール州ニヤラ。空爆で負傷した人が一斉に病院に運ばれた=2025年2月4日 Ⓒ MSF

6週間前、私はスーダンの首都ハルツームにいました。MSFが支援するオムドゥルマンのアル・ナオ病院に到着したのは、RSFがサブリーン市場を砲撃した直後でした。

病院はまるで大虐殺の現場のようでした。大けがを負った患者が端から端まで、救急処置室を埋め尽くしているのです。

男性、女性、そして子どもたちの命が、目の前で引き裂かれていきました。アル・ナオ病院は、この地域でまだ稼働している数少ない病院の一つで、過去2年間に何度も空爆を受けてきました。

交通事故に遭い、MSFの支援するアル・ナオ病院で治療を受ける親子=2025年3月9日 Ⓒ Tom Casey/MSF
交通事故に遭い、MSFの支援するアル・ナオ病院で治療を受ける親子=2025年3月9日 Ⓒ Tom Casey/MSF

同じ週、SAFは南ダルフール州の州都ニヤラで食用油工場と住宅地を攻撃し、MSFの支援するニヤラ教育病院は死傷者で埋め尽くされました。

また北ダルフール州のザムザム・キャンプでは、数カ月にわたる包囲と飢餓がまん延した末に、RSFが押し寄せました。MSFが支援する小児・産科医療専門の仮設病院では、139人の負傷者を受け入れました。しかし、攻撃によりMSFはすべての活動を停止せざるを得なくなり、包囲され飢えに苦しむ人びとは残されたままです。

診察を待つザムザム・キャンプの親子たち=2024年2月15日 Ⓒ Mohamed Zakaria
診察を待つザムザム・キャンプの親子たち=2024年2月15日 Ⓒ Mohamed Zakaria

このような事実は、この内戦がどのように行われているかを示す、最新の一例に過ぎません。

内戦が始まった当初から、スーダンで繰り広げられてきた暴力は非道なものでした。

西部の西ダルフール州では、暴力は想像を絶するレベルに高まり、2023年6月から12月にかけては、コミュニティ全体を標的にした虐殺が起こりました。RSFが州都ジェネイナを占領した後、何千人ものマサリート人がそこから逃れたため、隣国のチャドにいるMSFのチームは、わずか3日間で800人以上の負傷者を治療しました。生き延びた人びとは、「マサリートのコミュニティに属しているというだけで、死刑宣告を受けるようなものだった」と語りました。
 
南ダルフール州では、2024年、MSFは385人の性暴力の生存者にケアを提供しました。多くは(5歳未満の子どもも含む)は武装した男たちにレイプされていました。半数近くが屋外で働いているときに被害に遭っています。女性と少女たちは単に保護されていないだけでなく、残酷にも、標的とされているのです。

MSFはチャド東部で行う移動診療で、健康と性暴力に関する説明を提供している=2024年1月10日 Ⓒ MSF/Giuseppe La Rosa
MSFはチャド東部で行う移動診療で、健康と性暴力に関する説明を提供している=2024年1月10日 Ⓒ MSF/Giuseppe La Rosa

MSFは、スーダン18州のうち11州において、22の病院と42の基礎医療施設で医療活動を行っています。ハルツーム州から、南コルドファン州、ダルフール全域、ゲダレフ州まで、MSFが活動するほとんどの地域で、栄養失調は深刻なレベルに達しています。栄養治療センターは、受け入れ可能な人数を超えています。また、はしか、コレラ、ジフテリアといったワクチンで予防可能な病気も急増しています。

南ダルフール州の避難民キャンプに暮らす親子。女性はMSFの栄養プログラムに参加した=2024年12月19日 © Abdoalsalam Abdallah
南ダルフール州の避難民キャンプに暮らす親子。女性はMSFの栄養プログラムに参加した=2024年12月19日 © Abdoalsalam Abdallah

人びとに対する暴力が、人道ニーズの必要性を加速させています。暴力は紛争の単なる副産物ではありません。

民間人に対する暴力こそが、スーダン全土でこの紛争がどのように行われているのかを示すものであり、この紛争を外部から支えています。

その壊滅的な影響は、人道アクセスが制限されることによりさらに深刻化しています。人道アクセスの制限は、意図的にあるいは官僚システムの機能不全や治安の悪化、統治と調整の崩壊の結果として起きています。

MSFが支援する医療施設で破壊された救急車=2024年7月9日 Ⓒ MSF
MSFが支援する医療施設で破壊された救急車=2024年7月9日 Ⓒ MSF

いくつかの進展もあります。隣国チャドのアドレから国境を越えダルフール地方へと入国すること、国際派遣スタッフのビザ手続きの改善、ドンゴラとカッサラにおける人道的なフライトのための滑走路の開設などです。
 
しかし、圧倒的なニーズの規模に比べれば、達成できたものはごくわずかです。

事態の緊急性は明らかであるにもかかわらず、スーダンにおける人道援助活動は非常に複雑なままであり、意図的に複雑にされていることもあります。

移動許可の確保は依然として難しく、国境を越えたアクセスには厳しい交渉が必要です。事前の合意にもかかわらず、ダルフールにおける国連の重要な人道支援拠点はいまも封鎖されています。
 
RSFが支配する地域では、武装組織とその支援組織が恣意的に援助物資の輸送を遅らせています。遅れは時に数週間にも及び、不当な通行料や税金も課しています。チャドのンジャメナから北ダルフール州のタウィラまで、60トンの人道援助物資を輸送するためには、1万8000ドルという途方もない費用がかかります。

またRSFは、「スーダン救援人道活動機関(The Sudanese Agency for Relief and Humanitarian Operations : SARHO)」を通じて官僚主義的なハードルを課しています。RSFの支配地域で援助を届けようとする援助団体は、不可能な選択に直面しています。SARHOの要求に応じて、SARHOとRSFの存在を正式に認め、ポートスーダン当局から追放されるリスクを負うか、拒否してSARHOに活動を停止させられるかです。いずれにせよ、人命を守るための活動が危機に瀕しています。

主権の主張を武器に、援助の流れを制限し続けることはできません。 また、正当性を得るために、人道援助と援助機関を利用し続けてはいけません。

南ダルフール州の避難民キャンプで食料配給の準備を進めるMSFスタッフ=2025年1月5日 © Abdoalsalam Abdallah
南ダルフール州の避難民キャンプで食料配給の準備を進めるMSFスタッフ=2025年1月5日 © Abdoalsalam Abdallah

スーダン国内および世界各国から集まった、人道援助従事者の勇気と献身にもかかわらず、その対応は依然として十分ではありません。人道援助を取り巻く仕組みは、戦術的思考から抜け出せないまま、危機の規模に真に見合った対応を推進するべきなのに、狭い例外を交渉し続けています。 

アドレ国境について考えてみましょう。

6カ月の間、国境を越えた人道援助物資の輸送が可能でしたが、ダルフールに到着したトラックはわずか1100台でした。ダルフール地方全体では1日わずか6台になります。私たちの試算では、北ダルフール州のザムザム・キャンプの栄養ニーズを満たすだけでも、1日あたり13台のトラックが必要なのです。

チャド、アドレの一時滞在キャンプ=2024年7月31日 Ⓒ Ante Bussmann/MSF
チャド、アドレの一時滞在キャンプ=2024年7月31日 Ⓒ Ante Bussmann/MSF

もう一つの例は、西ダルフール州から中央および南ダルフール州への援助物資を運ぶ際の主要ルートだったモルネイ橋です。この橋は2024年8月に崩壊しました。217日がたった今も修復されておらず、何百万人もの人びとが援助から遮断されています。

人道援助に対するこのような根本的な障害が、いまだに解決されていないのはなぜなのでしょうか?

安保理は繰り返し、紛争の終結、国際人道法の遵守、民間人の保護、制限のない人道援助の提供を求めてきました。

しかし、それらの声は空しく響くだけです。

この場で議論が続く間も、スーダンの人びとは人目に触れないまま、無防備なまま、爆撃され、包囲され、レイプされ、避難を余儀なくされ、食料も医療も尊厳も奪われたままです。

人道的対応は、官僚主義、治安の悪化、ためらい、そして人道援助史上最大の資金削減となる恐れにより、機能不全に陥っています。

安保理が自らの要求を行動に移せないこと。それは、ハルツームやタウィラ、ニヤラにいる私たちの同僚、そしてスーダン全土の患者たちにとっては、スーダンで起きている暴力と収奪を見捨てたかのように感じられるでしょう。

チャド、アドレのMSF栄養治療センターで診療を待つ患者=2023年8月2日 Ⓒ MSF
チャド、アドレのMSF栄養治療センターで診療を待つ患者=2023年8月2日 Ⓒ MSF

安保理がたびたび引用している「スーダンの民間人を保護するためのジッダ宣言」は、重要な分岐点になるべきものでした。

しかし、監視もなく、説明責任もリーダーシップもないままでは、この合意は責任と影響力を持つ人びとの行動を免除しながらも懸念を示すために発せられた、便利なうわべだけの言葉の盾にすぎません。

いま必要なのは新たな合意です。それは民間人の保護に対する共通の取り組みに基づいたものであり、援助団体が必要とする活動スペースを確保し、援助へのすべての制限を停止するものであり、政治的干渉を受けない、そういう合意です。

人道アクセスを制限する今の仕組みを、スーダンの人びとの生存と尊厳を守るものに変えなければいけません。

ハルツームのオムドゥルマンでMSFの支援する栄養治療センターに入院する3歳の男の子=2025年3月9日 Ⓒ Tom Casey/MSF
ハルツームのオムドゥルマンでMSFの支援する栄養治療センターに入院する3歳の男の子=2025年3月9日 Ⓒ Tom Casey/MSF

このような合意には、政治的な意志と、紛争当事者を人道的な要請に沿わせることのできるリーダーシップが求められます。またこの合意は独立した立場から監視され、すべての紛争当事者がその約束を守るための、強固な説明責任のシステムが必要です。

しかし、資金拠出国の全面的な関与と、国連によるより積極的なアプローチがなければ、どんなに強固な合意であっても頓挫してしまうでしょう。

加盟国の皆様に伝えたいのは、資金を増額し持続的に提供することで、対応を強化しなければならないということです。また、国連事務総長へ伝えたいのです。ダルフールおよびスーダン全土において、国連の人道援助機関の全面的な再配置を義務づけなければなりません。

雨期が迫っています。飢餓はより一層広まるでしょう。
 
スーダンの危機には、過去の失敗からの根本的な転換が必要です。

何百万人もの命がかかっています。

食料を受け取った家族。雨期には物資の輸送が困難になる=2025年1月5日 Ⓒ Abdoalsalam Abdallah
食料を受け取った家族。雨期には物資の輸送が困難になる=2025年1月5日 Ⓒ Abdoalsalam Abdallah

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