パレスチナのいまを伝える“五つのポイント”──子どもが週に1人殺害され、爆撃、銃撃が日常に…活動地から最新報告

2026年05月26日
わずかでも配給を受け取るために、攻撃される危険を冒して移動するパレスチナ・ガザ地区の人びと=2025年7月25日 © MSF
わずかでも配給を受け取るために、攻撃される危険を冒して移動するパレスチナ・ガザ地区の人びと=2025年7月25日 © MSF

いま、パレスチナで何が起きているのか──。

ガザ地区では「停戦」という言葉とは裏腹に、イスラエル軍による攻撃が日常化。子どもたちが爆発や銃撃で傷つき、水、食料、医療物資などの必需品も十分に届いていない。

ヨルダン川西岸地区ではイスラエル軍や入植者による暴力が激しさを増し、ほぼ週に1人のペースで子どもが殺害されてきた。住民は攻撃におびえ、外出さえためらうなかで心の健康がむしばまれている。

パレスチナでいま、人びとの命と暮らしを脅かしているものは何か。国境なき医師団(MSF)が活動する現場から、五つのポイントに整理して伝える。

1.攻撃が日常化するガザ地区で、子どもたちが深刻な被害を受けている

ガザでは、ほぼ毎日のようにどこかで攻撃が起きている。ガザ保健省によると、いわゆる「停戦」が発効して以降、イスラエルによって870人以上が殺害され、2600人以上が負傷した。

子どもたちも例外ではない。MSFは2025年10月10日~2026年5月11日の7カ月間に、ガザ中部デールバラハの仮設病院で、攻撃に巻き込まれてけがをした子ども243人を受け入れた。これは、この病院で治療した暴力関連の負傷者のうち約12%を占める。

ガザ市の自宅で空爆に巻き込まれた負傷した当時8歳の男の子(右)。ガザ北部のシファ病院で治療を受け、酸素マスクを着けている=2025年6月28日 © Nour Alsaqqa/MSF
ガザ市の自宅で空爆に巻き込まれた負傷した当時8歳の男の子(右)。ガザ北部のシファ病院で治療を受け、酸素マスクを着けている=2025年6月28日 © Nour Alsaqqa/MSF


こうした子どもたちのほとんどは、爆発によってけがをしていた。その中には5歳未満の子ども37人が含まれており、12人は銃創の治療を受けた。

また、ガザ南部ナセル病院でも2026年1~4月の間、MSF外傷部門に入院した15歳未満の子どもが196人に上った。これは負傷患者全体の5人に1人の割合だ。

さらに、同じ4カ月間、ガザ市内にある別のMSFの診療所では、負傷した子ども113人が治療を受け、そのおよそ96%が爆撃による爆発や銃撃で負傷していた。

医療物資が不足しているため、ガザ南部のアル・アクサ病院へ家族と搬送される子どもたち=2025年7月29日 © Ahmed Seyam/MSF
医療物資が不足しているため、ガザ南部のアル・アクサ病院へ家族と搬送される子どもたち=2025年7月29日 © Ahmed Seyam/MSF


こうした問題が続く背景の一つには、停戦合意以降、ガザを分断してきた「イエローライン」がある。

このラインはイスラエル軍が指定・管理する区域だが、境界線は曖昧で、その範囲は少しずつ拡大している。現在、ガザの約58%がイスラエル軍の管理下に置かれている。

MSFは「イエローライン」の周辺地域から搬送される、攻撃を受けて負傷した患者の治療を続けている。けがの種別は、爆発による外傷、破片による傷、爆風に伴う打撲や骨折、銃創などさまざまだ。

2.ヨルダン川西岸地区では、イスラエル人入植者による暴力がかつてないほど激しくなっている

ガザで紛争が激化した2023年10月以降、ヨルダン川西岸でもパレスチナ人に対し、イスラエル入植者による暴力、軍事作戦、あらゆる制限がいっそう強まっている。

パレスチナ人は、自宅、土地、学校などあらゆる場所で攻撃を受けている。2026年3月には、過去20年間で最も多くのパレスチナ人が入植者による暴力で負傷した。

2025年5月に破壊された自宅の前で立ち尽くす、パレスチナ・ヨルダン川西岸地区の住民男性。「人生のすべてをこの家につぎ込んできましたが、いまはもう何もありません」と嘆く=同年8月3日 © MSF
2025年5月に破壊された自宅の前で立ち尽くす、パレスチナ・ヨルダン川西岸地区の住民男性。「人生のすべてをこの家につぎ込んできましたが、いまはもう何もありません」と嘆く=同年8月3日 © MSF


子どもに対する暴力も増えている。

2025年1月以降、東エルサレムを含むヨルダン川西岸で、少なくとも70人のパレスチナ人の子どもが殺害された。平均するとほぼ1週間に1人の子どもが殺されてきた計算になる。

その一方で、加害者はなんの責任も問われていない。今世紀に入ってから、ヨルダン川西岸でパレスチナ人の民間人を殺害したとして起訴されたイスラエル兵、警察官、入植者は存在しない。

2026年だけでも、すでに16人のパレスチナ人が入植者によって殺害されているにもかかわらずだ。

イスラエル側による暴力におびえるヨルダン川西岸の人びとのため、難民キャンプを訪れて心のケアをするMSFスタッフら=2024年9月12日 © Alexandre Marcou/MSF
イスラエル側による暴力におびえるヨルダン川西岸の人びとのため、難民キャンプを訪れて心のケアをするMSFスタッフら=2024年9月12日 © Alexandre Marcou/MSF


こうした状況を受け、人びとの心の健康も脅かされている。

住民たちは外を移動するだけでも、道中でイスラエルの入植者や軍、行政当局に見つかることを恐れている。「家を離れれば取り壊されるかもしれない」という恐怖から、外出自体をためらう人もいる。

MSFはヨルダン川西岸地区で心のケアを続けている。

現地でパレスチナ人に接していると、感じているストレスが一過性のものではないことが分かる。恐怖や不安、睡眠障害、状況の不安定さ、自由に日常生活を送れない制約。このようなあらゆる負の感情が、人びとの心の健康をすり減らしているのだ。

ヨルダン川西岸南部のマサーフェルヤッタ地域で女性患者(中央奥)に心のケアをするMSFの移動診療=2025年5月13日 © MSF
ヨルダン川西岸南部のマサーフェルヤッタ地域で女性患者(中央奥)に心のケアをするMSFの移動診療=2025年5月13日 © MSF


2026年1月1日~4月30日の間に、MSFはヨルダン川西岸・北部のナブルスで心のケアの個別相談983件を実施した。ほとんどの患者が、現地の状況に関連した重いトラウマ、不安、抑うつ症状を訴えるか、すでにその治療を受けていた。

3.イスラエル軍による必需品の搬入制限が、ガザ地区での暮らしと命を脅かす

ガザの物流において特に深刻なのは、低温管理が必要な医薬品の輸送だ。イスラエル当局は、インスリンやワクチンなど温度管理を誤れば劣化する物資についても、冷蔵トラックでの輸送を認めていない。

そのため、MSFが提供できる医療の質が損なわれ、患者の命が直接危険にさらされている。

さらに、発電機や車両を動かし続けるために欠かせない燃料も尽きかけている。

燃料がなければ、病院や給水設備、救急搬送、物資輸送などが止まってしまう。発電機で動く保育器のなかで命をつないでいる乳児を含め、多くの人びとの命が危険にさらされる。

燃料で動く設備の点検をするMSFスタッフ=ガザで2026年4月 © MSF
燃料で動く設備の点検をするMSFスタッフ=ガザで2026年4月 © MSF


MSFは、パレスチナで活動する団体としての登録をイスラエルによって取り消された後、1月1日からガザに物資を直接搬入できていない。それでもガザ地区各地で活動を続けており、これからも可能な限り続けていく。

イスラエル当局に対し、燃料を含む十分な量の人道物資を直ちに搬入できるようにすることを強く求める。人びとの命がかかっているためだ。

4.水を奪われたガザ地区で、防げるはずの病気が広がっている

イスラエルは、ガザにある水・衛生インフラ約90%の一部または全てを破壊した。そこには、海水を淡水化する施設や井戸、水道、下水設備が含まれる。

MSFは、イスラエル軍が給水車だと明らかにわかる車両を銃撃したり、数万人が使っていた井戸を壊したりした事例を記録している。こうした暴力的な事案は、水の配布時に起きることも多く、パレスチナ人や援助従事者が被害を受け、機材も損傷している。

ガザ市にある逆浸透膜を使った浄水施設では、4基で1日あたり計45万リットルの飲料水を生産できていた=2025年12月23日 © Craig Kenzie/MSF
ガザ市にある逆浸透膜を使った浄水施設では、4基で1日あたり計45万リットルの飲料水を生産できていた=2025年12月23日 © Craig Kenzie/MSF


水を使えない影響は、人びとの健康被害や衛生状態の悪化にとどまらない。

特に、女性や障害のある人びとへの影響は大きい。水に加えて、石けん、おむつ、生理用品など、身の回りの衛生に必要な最低限のものさえ手に入れづらくなっている。

ガザ南部ラファの路上で積み上がったごみ。ガザ全域から人びとが避難しに来たことで、安全な水が不足するなど生活環境が劣悪になっている=2024年1月18日 © MSF
ガザ南部ラファの路上で積み上がったごみ。ガザ全域から人びとが避難しに来たことで、安全な水が不足するなど生活環境が劣悪になっている=2024年1月18日 © MSF


また、人びとは地面に穴を掘ってトイレ代わりにするしかなく、そこから汚物があふれ、周辺の環境や地下水を汚染している。

さらに、過密なテントや仮設の避難場所での劣悪な生活環境は、病気の増加につながっている。特にMSFの基礎医療センターでは呼吸器感染症、皮膚疾患、下痢性疾患などが多く見られる。

5.依然として深刻なガザ地区の栄養失調

ガザでは、栄養失調がいまも深刻な問題だ。

2026年1~3月には、MSFの外来栄養治療センターで計383人の子どもを受け入れた。このうち35%は重度の急性栄養失調だった。

また、同じ期間にナセル病院と北部アルヘロウ病院では、妊婦5996人のうち4人1人が栄養失調の影響を受けていると確認された。いったん回復しても、再び栄養失調に陥る患者も出ている。

栄養失調の診察のため、ガザ市内の診療所で待つ1歳の男の子と母親(中央左)。妊娠8カ月の母親も栄養失調を患っている=2025年6月4日 © Nour Alsaqqa/MSF
栄養失調の診察のため、ガザ市内の診療所で待つ1歳の男の子と母親(中央左)。妊娠8カ月の母親も栄養失調を患っている=2025年6月4日 © Nour Alsaqqa/MSF


飢饉(ききん)は、食料が戻れば解決するものではない。ガザでは2025年、紛争による治安悪化とイスラエルの意図的な封鎖で食料を奪われた。その影響がいまも人びとの体に栄養失調という形で表れているのだ。

人びとの回復を妨げる要因も重なった。国連によると、ガザにおける失業率は80%に達し、食料価格の多くは2倍に高騰した。そのため、新鮮な食品やたんぱく源は多くの家庭にとって手の届かないものになってしまった。

人びとは日々の炊き出しに頼らざるを得ない。OCHAによると、いまも5世帯に1世帯は1日1食しか食べられていないという。

ガザに入るトラックは増えているものの、そのほとんどは商業用であり、人道援助のためではない。

ガザ北部の炊き出しに集まった人びと。深刻な食料不足が続いている=2025年2月1日 © Nour Alsaqqa/MSF
ガザ北部の炊き出しに集まった人びと。深刻な食料不足が続いている=2025年2月1日 © Nour Alsaqqa/MSF

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