はじめは小さな吹き出物 寄生虫が肌を壊す「皮膚リーシュマニア症」

2019年01月08日掲載

バスで3時間かけて皮膚リーシュマニア症の治療センターへ来た少年 © Khaula Jamilバスで3時間かけて皮膚リーシュマニア症の治療センターへ来た少年 © Khaula Jamil

「皮膚リーシュマニア症」という病気を聞いたことがあるだろうか?サシチョウバエが媒介する皮膚の感染症で、刺されると皮膚が変形してしまう。サシチョウバエは肉眼では見えないほど小さく、蚊帳もすり抜ける。南アジアの国、パキスタンで流行を繰り返しているが、診療は簡単ではない。国境なき医師団(MSF)の熱帯病専門家スゼッテ・ケミンクが、パキスタンでこの病気の難しさについて説明する。 

皮膚リーシュマニア症とは?

熱帯病専門家スゼッテ・ケミンク © Khaula Jamil 熱帯病専門家スゼッテ・ケミンク © Khaula Jamil

リーシュマニア症は寄生原虫による熱帯感染症で、サシチョウバエに刺されることで感染します。内臓リーシュマニア、粘膜リーシュマニア、播種性皮膚リーシュマニア、そして皮膚リーシュマニアという種類があり、内臓リーシュマニア症はカラアザールとも呼ばれ、時に命に関わります。その他のリーシュマニア症は、皮膚や粘膜に症状が出ますが、命に別状はありません。 

皮膚リーシュマニア症は最もよく見られるリーシュマニア症で、パキスタンの風土病です。通常、吹き出物や腫れ物、こぶから少しずつ潰瘍に進行します。命の危険はないものの、皮膚に重いゆがみが生じます。

原因となる寄生原虫は、リーシュマニア・メジャーとリーシュマニア・トロピカの2種類。メジャーはパキスタン南東部のシンド州とパンジャーブ州、それからバロチスタン州とハイバル・パフトゥンハー州の農村地域でまん延しており、自然治癒には8ヵ月ほどかかります。トロピカはバロチスタン州とハイバル・パフトゥンハー州の都市部でまん延しており、メジャーよりも治りにくく、慢性化する傾向があります。

感染経路は?

サシチョウバエは一般的な蚊よりも小さく、刺されると寄生原虫が人の皮膚に注入されます。寄生原虫は細胞内に侵入して増殖し、細胞を占領しながら、皮膚にダメージを与えます。人体の免疫系が寄生原虫を根絶しても、しばしば大きな病変が残り、治療しても陥没した傷痕が残ります。 

治療法は?

治療に来た11歳の少年と © Khaula Jamil治療に来た11歳の少年と © Khaula Jamil

第1選択薬はアンチモン酸メグルミンという薬です。ただ、パキスタン国内では生産されておらず、輸入しなければなりません。

治療薬はパキスタン全土で十分に供給されておらず、大半の公立病院には備えがありません。そのため、診断を受けた患者は大抵、薬を闇市場で手に入れるしかないのです。闇市場に流れている薬は品質が保証されておらず、患者にとって危険だったり、効果がなかったりします。

5ml容器1つで時に1000パキスタン・ルピー(約820円)にも上り、法外な値段です。治療には、成人患者1人あたりに1日20mlを投与し、それを2~3週間続けることもあるため、薬があっても費用が6万~8万パキスタン・ルピー(約4万9000~6万5000円)もかかり、多くの人が負担できません。 

パキスタンではよく知られている?

この病気は医師の間でさえ、あまり知られていません。診断には専門的な知識と技能が必要です。バロチスタン州とハイバル・パフトゥンハー州では、「サール・ダナ」とか「カール・ダナ」と呼ばれています。「1年残る傷」といったような意味です。

患部が変形するため、患者はよく偏見にあいます。がんや、不治の病、接触感染する病気と勘違いされることもよくあります。若い女性患者とそのご家族にとっては、顔が歪んでしまうと結婚相手が見つからないのではないかと心配します。そうして患者の心にも大きな傷を残すのです。

個人でできる予防法は?

現地スタッフの看護師と治療について話す © Khaula Jamil現地スタッフの看護師と治療について話す © Khaula Jamil

 個人でできる唯一の予防法は、サシチョウバエに刺されないようにすることです。サシチョウバエは半湿潤・乾燥に分類される気候環境で生息・繁殖します。目で見えないほど小さく、蚊と違って飛んでいても羽音がしません。一般的な蚊帳の網の目は通り抜けてしまいます。身を守るには、殺虫剤に浸した蚊帳を吊って寝る必要があります。サシチョウバエに刺されやすいのは、未明から明け方にかけてです。地上1メートルより高く飛べないため、ベッドを底上げするだけでも刺されにくくなります。

公衆衛生上の対策は?

認知度の向上が鍵となります。予防や識別の方法、そして早期の診療など、この病気に関する公衆衛生推進策がもっと必要です。診断と治療が早ければ早いほど、皮膚の損傷も治療費も少なく済みます。まずは治療が受けられ、費用がかかり過ぎず、その地域の人びとのニーズに合った形でなければなりません。これまでの治療とは別の、より効果的な治療法の研究も求められます。 

MSFの取り組みは?

MSFはパキスタンで、患者に専門的な治療をし、安全で効果のある薬を安定供給するほか、患者の心の健康のための支援と、予防・治療法に関する健康教育活動も行っています。皮膚リーシュマニア症に関する活動は、バロチスタン州のクエッタとクチュラク、ハイバル・パフトゥンハー州のペシャワールで行っています。2017年には約4000人の患者を治療し、2018年は5000人を超える見込みです。 

皮膚リーシュマニア症は命に関わることはないが、リーシュマニア症のなかには治療を受けなければ死に至る内臓リーシュマニア症もある。カラアザールと呼ばれるこの病気は、インドやバングラデシュなどの南アジア、スーダン、南スーダンなどのアフリカで流行している。 ⇒ カラアザールについて 

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