気候変動が人道危機を悪化させる 国境なき医師団が医学誌『ランセット』で警告

2021年11月04日掲載

2020年11月、大型サイクロンがソマリア北東部の都市ボサソを襲った © MSF2020年11月、大型サイクロンがソマリア北東部の都市ボサソを襲った © MSF

「私たちは医療・人道援助従事者であって、気候変動の研究者ではありません。しかし、さまざまな活動地で、気候変動が健康・人道危機を悪化させる様子を目の当たりにして、声を上げずにはいられなかったのです」。こう話すのは、国境なき医師団(MSF)の「Humanitarian Action on Climate & Environment(気候と環境に関する人道的行動)」プロジェクトでリーダーを務めるキャロル・ディバインだ。

MSFは世界各地で紛争、災害、疾病、強制移住など、多くの深刻な危機に対応する中で、気候変動とそれに伴う環境の悪化が、弱い立場に置かれた人びとにとってさらなる脅威となることを目にしてきた。

MSFが医学誌『ランセット』の年間報告書『The 2021 report of the Lancet Countdown on health and climate change(健康と気候変動カウントダウン2021年報告書)』に寄せた新しい人道問題に関する概要書では、マラリア・デング熱・コレラなどの感染症の拡大や、水不足と食料不安による栄養失調、酷暑による急性脱水症、異常気象が心の健康に与える影響など、気候変動が健康問題や人道危機の悪化にどのような影響を及ぼしているかを、スタッフが自らの経験を交えて伝えている。

※以下、『ランセット 健康と気候変動カウントダウン2021年報告書』に掲載されたMSFの概要書から、一部抜粋・再編集

ソマリアの気候変動、政情不安、栄養不良

ソマリア南部では、干ばつや豪雨による洪水の影響で
子どもの栄養状態が悪化している © MSFソマリア南部では、干ばつや豪雨による洪水の影響で
子どもの栄養状態が悪化している © MSF

20年以上も続く紛争、政情不安と極端な気候条件によって長期にわたる人道危機に直面しているソマリア。頻繁に発生する激しい洪水、干ばつ、虫害が重なって食料が不足すると、わずかな資源を巡る争いが増加し、大勢の人びとがその煽りを受けている。

気候変動がもたらす影響は、子どもの栄養不良という形で特に顕著に表れる。MSFは、気候変動が予測されている通りに続けば、穀物の生産量が減少し、栄養の質も低下して、栄養不良のリスクが高まりかねないと警鐘を鳴らしている。

MSFは対策として、積極的な疫学調査・スクリーニング検査・外来治療によって農閑期の急性栄養失調を予防・処置する対応プログラムを南部で展開。ゲド地方とジュバ川下流地方で、重度栄養失調児の治療と、深刻な水不足に取り組む3つの緊急援助を開始した。

「食べ物と水を求めて移動する人が増えていますが、新型コロナウイルスの感染リスクは払しょくされていませんし、はしかが猛威を振るっている地域もあります。水不足で家畜を失い、牧畜を生業とする人びとも打撃を受けています(2021年4月時点)」──モハメド・アハメド(MSFジュバランドプロジェクト・コーディネーター)

気候災害によって壊滅的な被害を受けたホンジュラスの保健医療

2020年後半、中央アメリカを立て続けに襲った2つのハリケーン「エタ」と「イオタ」は、ホンジュラスで120余りの診療所を破壊。200万人もの人びとが、全く医療を受けられない、もしくは医療にアクセスしづらい状況に陥った。

ハリケーン以前から、ホンジュラスの保健医療体制には相当の負荷がかかっていた。新型コロナウイルス患者のための療養施設確保に苦労するかたわら、他の感染症抑止策がおろそかになり、殺虫剤の効かない蚊が広げるデング熱が流行し始めていた。

MSFは保健医療の負担を増やす集団感染を予防するため、ホンジュラスの保健医療体制を強化し、感染を媒介する生物の駆除や、デング熱の疫学的調査監視を行っている。

「コアツァコアルコス市の保護施設は閉鎖していたので、空腹に耐えながら野宿しました。路上で寝泊りするのは何が起こるか分からないので不安です。寝ている間に息子をさらわれてしまうのではないかと心配で、夜は眠らずに見張っています」──キンバリーさん(ハリケーンで家と仕事を失い、家族とともにアメリカを目指してメキシコを北上するホンジュラス人女性)

ホンジュラスを襲った2度のハリケーンによって、壊滅的な被害を受けた村=2020年 © MSF/DEIBY YANESホンジュラスを襲った2度のハリケーンによって、壊滅的な被害を受けた村=2020年 © MSF/DEIBY YANES

パキスタン・バロチスタン州の太陽光エネルギー電力

MSF医療ディレクター モニカ・ルル医師 © MSFMSF医療ディレクター モニカ・ルル医師 © MSF

MSFがパキスタン・バロチスタン州の4つの地区で支援する保健医療施設は、年間1万2000人以上の妊婦と、約1万人の栄養失調児に対応している。しかし頻繁に起きる停電に加え、時に摂氏50度を超える夏の暑さのなか、患者と医療従事者そして備蓄医薬品のために、涼しい環境を維持するのは容易ではない。

そこでMSFは、デーラ・ムラド・ジャマリ、チャマン、クチュラクという3区の支援先施設に太陽光パネル装置を導入。発電所や発電機の電力との併用により、照明、空調、扇風機、揚水、冷却のための電源を維持するとともに、二酸化炭素の排出量を年間5万キログラム以上削減している。

「医療に携わる私たちの務めは治療にとどまらず、今後の病気を未然に防ぐことにあります。今日の健康問題を解決しようとして、明日の健康問題を引き起こすようなことがあってはならないのです」──モニカ・ルル医師(MSF医療ディレクター)

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