プレスリリース
スーダン:北ダルフールで民間人の集団虐殺──国際社会は紛争当事者への圧力を
2025年07月07日
国境なき医師団(MSF)は、スーダンの北ダルフール州で集団虐殺が進行していると警告する報告書を発表した。州都エル・ファシールの数十万人が襲撃の脅威にさらされており、さらなる流血の事態が懸念される。MSFは、紛争当事者に対し、特定の民族への攻撃を即時停止すること、また大規模な人道援助を速やかに促進するよう求めている。
民間人を襲う暴力と飢餓
2024年5月から紛争が激化した北ダルフールで、最も多く犠牲となっているのは民間人だ。MSFの報告書『包囲、攻撃、飢餓:スーダン、エル・ファシールとザムザムにおける集団虐殺(Besieged, Attacked, Starved: Mass atrocities in El Fasher and Zamzam, Sudan)』(英文)は、エル・ファシールと周辺地域における民間人の絶望的な状況を伝えている。
MSF緊急活動責任者のミシェル・オリビエ・ラシャリテはこう述べる。
人びとは準軍事組織『即応支援部隊(RSF)』とスーダン国軍、そしてそれぞれの支援勢力による無差別な戦闘に巻き込まれるだけでなく、民族的出自を理由にRSF側の標的とされています。
報告書は、2024年5月から2025年5月にかけて集められたMSFのデータ、スタッフの証言、エル・ファシールや近隣のザムザム・キャンプからの避難民に対する80件以上の聞き取り調査に基づくもので、現地で起きている略奪、集団殺害、性暴力、拉致、飢餓、そして医療施設や市場など民間インフラへの攻撃など、組織的な暴力の実態を明らかにしている。
MSF人道問題顧問のマチルド・シモンはこう話す。
「患者や住民は、自らの苦しみを語り、声を上げてほしいと訴えます。しかし、その声はほとんど国際的な注目を集めず、無関心と無策のまま1年が過ぎました。だから今、数え切れない命を奪ってきた暴力の実態を記録しなければならないのです」
「患者や住民は、自らの苦しみを語り、声を上げてほしいと訴えます。しかし、その声はほとんど国際的な注目を集めず、無関心と無策のまま1年が過ぎました。だから今、数え切れない命を奪ってきた暴力の実態を記録しなければならないのです」
避難民キャンプへの攻撃の実態
この報告書では、RSFとその支援勢力が4月にエル・ファシール郊外のザムザム避難民キャンプでどのように大規模な地上攻撃を行ったかについても詳述している。この時、3週間足らずの間に推定40万人もの人びとが過酷な状況の中を逃げ惑った。人びとは包囲され、人道援助が届かないまま、攻撃と暴力にさらされ続けた。さらに数万人が、約60キロ離れたタウィラや、チャド国境を越えたキャンプに逃れた。MSFによるケアを受けた暴力の被害者は数百人に上った。
シモンはこう話す。
2023年6月に西ダルフールでマサリート人の集団虐殺が起きたことと、北ダルフールのザムザム・キャンプでの殺りくを考えると、同じ事態がエル・ファシールで繰り返されるのではと危惧されます。このような暴力は止めなければなりません。
人道問題顧問 マチルド・シモン
RSFの兵士らがエル・ファシールの非アラブ系住民を「一掃」する計画について話していたと証言する人びともいる。2024年5月以来、RSFとこれを支援する勢力は、エル・ファシール、ザムザム・キャンプ、その他の周辺地域を包囲し、住民から食料、水、医療を遮断してきた。このことが飢餓を広めると同時に援助を届かなくしている。
医療施設への度重なる攻撃により、MSFは2024年8月にエル・ファシールでの医療活動を、2025年2月にはザムザム・キャンプでの医療活動をそれぞれ中止せざるを得なくなった。2024年5月だけでも、エル・ファシールでMSFが支援する医療施設は、少なくとも7件の砲撃、爆撃、銃撃を受けた。これには全ての紛争当事者が関わっている。
「スーダン国軍は私たちの居住地を誤爆した後、謝罪に来ました。スーダン国軍の飛行機は、RSFがいない民間地域を爆撃することもありました」と、50歳の女性はスーダン国軍による無差別攻撃について語った。

被害を証言する人びと
エル・ファシールとザムザムから外へ通じる道路では、極めて深刻な暴力が繰り広げられており、多くの人びとが避難の際に、閉じ込められるか、命の危険にさらされている。男性や少年は殺害や拉致の対象となり、女性や少女は性暴力の被害を受けている。
また、目撃者の多くは、ザガワ人に対するリスクが特に高まっていると証言している。ある避難民の女性は、「ザガワ人だと言おうものなら、誰もエル・ファシールを出ることができませんでした」と語った。また別の男性はこう証言した。
RSFとそれを支援する勢力は、人びとにザガワ人かどうかを尋ね、そうであれば殺していました。
ある女性はチャド東部への避難をこう振り返る。
「5歳以下の子どもを連れた母親しか避難させてくれませんでした。他の子どもや成人男性は通してもらえないのです。15歳を超えた男性で国境を越えてチャドへ行けた人はまずいなかったでしょう。RSFはこの人たちを連れて行くか、集団から引き離しました。その後銃声が聞こえて、殺害されたと分かるのです。私は50世帯ほどの家族と共に行動していましたけれど、そのなかに15歳以上の男性は一人もいませんでした」
包囲が強まるにつれて栄養状態は悪化を続け、ある避難民の女性はこう話した。
子どもたちは栄養失調で死んでいきました。私たちは皆、普段は家畜のえさにしているアンバズ(ピーナッツを油用に挽いた残りかす)を食べていました。
これ以上の暴力を防ぐために
MSFは紛争当事者に対し、民間人を標的にしないという国際人道法上の義務を順守するよう求める。RSFとその支援勢力は、非アラブ系住民に対する攻撃を直ちに止め、エル・ファシールの封鎖を解除し、暴力から逃れる民間人に安全な経路を示さなければならない。
必要な支援を届けるためには、人道援助機関がエル・ファシールおよびその周辺地域に安全かつ無制限にアクセスできる許可が与えなければならない。また、国連機関や加盟国を含む国際社会、そして紛争当事者を支援している国々は、これ以上の集団暴力を防ぎ、緊急援助物資の輸送を可能にするために、紛争当事者へ今すぐに圧力をかける必要がある。
なお、最近一方的に発表された現地での停戦の可能性は、いまだ具体的な変化にはつながっておらず、時間切れが迫っている状況だ。
