スーダンから隣国チャドへ──戦火を逃れた8万人、過密キャンプで続く苦難
2025年07月11日
チャド東部でスーダン難民を受け入れるキャンプ2カ所では、食料や水、医療の提供が不十分で、人びとは厳しい生活を余儀なくされている。
国境なき医師団(MSF)はキャンプの支援を強化しているが、現地のニーズには到底足りない状況だ。担当者は「これからは雨季が始まり、環境はさらに悪化する。他の援助団体との連携も含めた大規模な支援が急務だ」と警鐘を鳴らす。
父を亡くし、左手を失った男の子
チャド東部ティネの一時滞在キャンプにある、MSFの簡易診療所。黒いマットレスのベッドに、一人の男児(11)が腰を掛けていた。男児は左手を失っていた。
「マハナットの左手は爆弾の破片で吹き飛ばされました」
付き添う母親は当時の状況をこう振り返った。
4月11日、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」がスーダン・北ダルフール州の国内避難民キャンプ「ザムザム・キャンプ」に大規模な地上攻撃を始めた。国連によると、4月だけで数百人が犠牲になり、このキャンプからは誰もいなくなったという。
診療所で検査すると、放置されていた左手の傷口の状態は悪く、 顔面にも金属片とみられる異物が埋まっていることが分かった。スーダンで左手の切断手術は受けたが、本来は取り除かれるべき骨が残されたままで、傷が治りにくい状態になっていた。

治療について同僚に電話で意見を求めた=2025年6月11日
Ⓒ Julie David de Lossy/MSF
マハナットさんはいま、より高度な治療ができる医療機関での受け入れを待っているところだ。

10日間の過酷な旅路
およそ8万人──。これは4月末以降、スーダンの北ダルフール州から国境を越え、チャド東部のワジ・フィラ州と東エネディ州に到着、または通過したと推計される人数だ。
その多くは女性と子どもが占め、RSFが攻撃した州都エル・ファシールと周辺のキャンプから逃れてきた。

難民にとって、エル・ファシールからチャドまでは命がけの逃避行だ。10日間ほどかかるその旅路は、暴力と苦難の連続だった。
いずれのキャンプの難民も、北ダルフール州や道中で体験した凄惨な出来事を証言している。
男性や少年の多くは殴られ、傷つき、殺された人もいた。女性や少女の多くは性暴力を受けていた。中には水を得られず脱水症状で、命を落とした人もいたという。
人でいっぱいのキャンプ
チャド東部でスーダン難民を受け入れているティネとウレ・カッソーニのキャンプ。MSFは130キロ離れたこの2カ所で、必要とされる医療が少しでも届くよう支援を拡充している。
キャンプでは銃撃や爆弾、地雷によって傷ついた人びとを治療する。手足を失った患者には、痛みを和らげる治療や、傷口を清潔に保つ処置を通じて感染を防ぐ支援を続けている。最近ではティネの現場に心のケア支援も加え、患者の回復を後押ししている。

両キャンプともに今のところは安全だ。だがキャンプは人でいっぱいで、最低限の医療すら満足に受けられない課題が生じている。
MSFは4月にティネにおける活動を拡充。それでもなお、あまりに多くの人びとが助けを必要としていて状況は変わっていない。
「食料、住まい、衛生、医療、そして心のケア・・・・・・。人びとに必要な支援は山ほどあります。現在の対応では全く足りていません」
MSFのスーダン緊急対応コーディネーター、クレア・サン・フィリポはこう強調する。
その上で、「国連や資金の拠出者・組織、人道援助団体の皆さんに、今こそ本格的な支援の開始と拡充を強く求めます」と訴える。
はしかの感染拡大を防ぐため、これまで5755人の子どもに予防接種もした。

身を寄せている=2025年6月12日 Ⓒ Julie David de Lossy/MSF
また、水問題も深刻だ。これまでは最低限の水は確保できていたが、避難民は急増するばかりで必要量は膨れ上がっている。このキャンプで水を供給する団体はMSFだけで、対応が追い付いていない。

現地では安全な水が不足している=2025年6月12日
Ⓒ Julie David de Lossy/MSF
援助団体の連携強化を
ウレ・カッソーニのキャンプでは、急増する人びとのニーズを緊急調査した。
また、最低限の生活設備も不十分だ。元々は5万6000人が暮らすキャンプだったが、4月に4万人が新たに押し寄せた。避難民らはありあわせの物だけで暮らしており、住まいは粗末な仮設の小屋で、トイレなども不足している。

しているのか調査した=2025年6月12日 Ⓒ Julie David de Lossy/MSF
サン・フィリポは「国境からは今後も数週間にわたって大勢の人びとが押し寄せる見通しです。これから雨季が始まると状況はさらに悪化し、感染症の拡大や食料不足、衛生環境の崩壊に拍車をかける恐れがあります」と指摘し、こう呼びかけた。
ティネとウレ・カッソーニの両キャンプの過酷な状況に、私たちは強い危機感を抱いています。このままだと事態はますます悪くなる一方です。一刻も早い大規模な人道援助が求められています。
クレア・サン・フィリポ MSFのスーダン緊急対応コーディネーター
