虫に刺された顔や手足が黒くゆがんでいく 放置された皮膚の感染、治療するには?

2018年12月25日

4歳のバフトちゃんは父親と3人の兄弟とクチュラクの治療センターに通院している © Khaula Jamil4歳のバフトちゃんは父親と3人の兄弟とクチュラクの治療センターに通院している © Khaula Jamil

虫に刺され、顔が変わるほどひどくなってしまったら……。「皮膚リーシュマニア症」は、サシチョウバエという虫に刺されると感染する。命にはかかわらないものの、痛みがあり、皮膚がゆがんでしまうため患者は差別されることが多い。時には日常生活が送れなくなったり、その結果、心の状態が不安定になったりする。国境なき医師団(MSF)はパキスタンのペシャワール市で、皮膚リーシュマニア症の患者を治療している。 

数少ない皮膚リーシュマニア症の治療センター

ペシャワールの治療センターには多くの患者が訪れている © Laurie Bonnaud/MSFペシャワールの治療センターには多くの患者が訪れている © Laurie Bonnaud/MSF

皮膚リーシュマニア症は顧みられない熱帯病の1つで、パキスタンで流行を繰り返している風土病だ。MSFは2018年5月、パキスタン北部のカイバル・パクトゥンクワ州の州都ペシャワール市に皮膚リーシュマニア症治療センターを開設した。ここは国内で4つ目のセンターだ。開設から約半年で800人余りの患者を受け入れ、南部にあるバルチスタン州クエッタの2施設、クチュラクの1施設とともに、現在もフル稼働している。

バルチスタン州では、MSFが最大の治療提供者で、カイバル・パクトゥンクワ州でもペシャワールのMSFセンターが地域で唯一、皮膚リーシュマニア症の診療を無償で行う主要施設となっている。
 

一家全員が感染し、闇市で薬を買った

ペシャワールの治療センターで治療を待つタジ・ビビさんと家族 © Laurie Bonnaud/MSFペシャワールの治療センターで治療を待つタジ・ビビさんと家族 © Laurie Bonnaud/MSF

ペシャワールの治療センターの待合室に腰を下ろしたタジ・ビビさんの家族は、サシチョウバエに刺され、全員が感染してしまった。患部が瞬く間に黒くなり、腫れ上がると熱も出て、全身に痛みが広がった。タジ・ビビさんと18歳の息子アテフさんは手と脚と顔、7歳の娘ゼナさんと8歳の娘アスマさんは顔を刺された。毎週、住まいから50kmのペシャワールまで公共交通機関を使って注射を受けに来る。

「夫と4人の息子、上の娘は皆、レンガ工場で働いている時に刺されたんです。私と下の娘のゼナは自宅で刺されました。私たちの住んでいるところは衛生施設がなく、清潔ではありません。近所の人やその子どもたちも大勢感染しています」

サシチョウバエはよどんだ水たまりに生息することが多い。皮膚リーシュマニア症の主な感染者は地方の農村に暮らしており、生活環境が貧しく、清潔な水や衛生施設もほとんどないような地域の人びとだ。そのため、公衆衛生上すぐに取り組むべき課題として重視されない。 

ペシャワールのMSFセンターで注射治療を受ける少年 © Nasir Ghafoor/MSFペシャワールのMSFセンターで注射治療を受ける少年 © Nasir Ghafoor/MSF

治療薬が普及していないことも大きな課題だ。薬は輸入頼みで、足りなくなるリスクが常にある。タジ・ビビさんも、地元の医師から初めて診断を受けた時、パキスタンには治療薬がないと言われていた。だが、闇市場で手に入る薬は質が悪かったり、使用期限が切れていたりして効果がない。苦痛と不安は増すばかりだ。

「闇市場に薬が流通していると聞いて、そちらで注射薬を買うようになりました。15回打っても何も変化はなく、そうこうするうちに家族が感染していったんです。MSF治療センターを紹介されたのは、1年が経った後のことでした。また刺されないように、うちでは今後、防虫剤を使うつもりです。一家全員、回復に向かっています。ここで無事に治療ができて嬉しいですし、ありがたいです」 

患者の治療を進めるには多くの課題が

感染で手がひどく腫れ皮膚がゆがんでしまった女性 © Nasir Ghafoor MSF感染で手がひどく腫れ皮膚がゆがんでしまった女性 © Nasir Ghafoor MSF

薬が普及していないことは、患者にとって、またMSFのような治療施設にとって大きな脅威となる。現在、皮膚リーシュマニア症の治療に使える唯一の薬、アンチモン酸メグルミンは、20~25日間、病気の重さに応じて筋肉か患部に直に注射しなければならない。だが、患者の多くが治療薬を自費で払うことができずにいる。

また、皮膚が醜く変形してしまうことで患者は心にも傷を負う。周囲から蔑まれ、学校に通えなくなったり仕事を失ったりすることもある。MSFの治療センターには、そんな多くの患者が皮膚リーシュマニア症の治療を求めてやってきている。

一般的にどんな病気なのかよく知られておらず、対応の仕方を学んだ医療従事者もごく少なく、有病率に関する全国レベルのデータも収集されていない皮膚リーシュマニア症。パキスタンでこの病気を制御していくためには、まだ大きな課題が残っている。 

MSFはパキスタンで皮膚リーシュマニア症の専門治療施設を運営し、安全で効果的な薬の安定供給、心理面のケアを支援するとともに、治療と予防の周知活動をして患者を援助している。現在はバルチスタン州のクエッタとクチュラク、カイバル・パクトゥンクワ州のペシャワールで専門プロジェクトを展開している。2017年に治療した患者は約4000人、治癒率は99%に到達した。2018年に治療した患者は5000人を超える見通し。 

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