人道危機の最前線に立ち続ける 写真で振り返る2020年【前編】
2020年12月28日
2020年、国境なき医師団(MSF)は紛争、貧困、自然災害に苦しむ人びとへの援助といった従来の活動に加え、新型コロナウイルス感染症にも対応し、命の危機に瀕している人びとのもとへ医療を届けてきた。
「一人でも多くの人を助けたい」。その思いを胸にMSFが世界各地で行った今年1年間の活動の軌跡を、2回にわたり写真とともに振り返る。
新型コロナウイルス感染症 混乱の渦に巻き込まれた世界
MSFは1月香港での活動を皮切りに、世界各地で新型コロナウイルスに対応。劣悪な環境で暮らす難民・避難民や、医療へアクセスしづらいへき地の住民など、健康リスクの高い人びとを中心に医療サービスを届けている。また現地の医療機関、保健省とも連携し、患者の治療にあたったほか、感染の予防や制御に関する研修、コロナ専門の治療センターの設置など、さまざまな活動を行った。

イエメン、イッブ県のアル・サフル病院内の新型コロナウイルス感染症治療センターで、酸素ボンベを集中治療室に運ぶスタッフ。中等度から重度の患者は1日に約6本のボンベを必要とする。(2020年7月)





イエメン、イッブ県でMSFが支援するアル・サフル新型コロナウイルス感染症治療センター。2週間の入院生活を終えて退院する男性を、医療チームが温かい拍手で見送る。 (2020年6月)
無残にも奪われた命──アフガニスタン産科病院襲撃
2020年5月12日、アフガニスタンの首都カブールで、MSFが支援するダシュ・バルチ病院の産科病棟が襲撃され、多くの命が奪われた。この襲撃で、病院にいた16人の女性、2人の子ども、現場に居合わせた6人の人びと、またMSFの現地スタッフが殺害された。中には出産を終えたばかりの母親たちもいたという。
医療施設が狙われたこの事件を受け、MSFはダシュ・バルチ産科病棟での活動中止を余儀なくされた。

襲撃を受けた産科病棟のベッドと床に残る血痕(2020年5月)

外壁やドアに刻まれた無数の銃弾の痕が、銃撃の激しさを物語っている。(2020年5月)
安全と尊厳を求めて 命がけの航海
暴力や貧困から逃れ、中東・アフリカ諸国から大勢の人が欧州を目指して地中海を渡る。しかしその航海は極めて危険であり、今年だけでも数百人以上が命を落とした。MSFは市民団体やNGOと捜索救助船を共同で運行し、海上で難民を救助する活動を続けてきた。
しかしイタリアをはじめとした欧州各国政府は、新型コロナウイルス感染対策を口実に海難者の上陸を拒否したり、些細な不備を列挙したりして救助船の出航差し止めを命じるなど、救命活動を妨害。地中海中央部における活動は危機に直面している。

民間団体が運航する救助船「ルイーズ・ミシェル号」に救助された約150人が、MSFとドイツのNGOシーウォッチが共同で運行する「シーウォッチ4号」に移送された。(2020年8月)


手漕ぎ船で川を渡り、ロバに乗って 道なき道を行く
MSFが活動を行う地域は、ジャングルの奥地や山岳地帯など都市部から遠く離れた地であることも少なくない。何日も車を走らせ、カヌーを乗り継ぎ、時にはロバに乗って移動することも。十分な医療が届きにくいへき地に住む人びとのもとへと向かう。

ブラジル、アマゾン川流域で小型船に乗り医療を届けるMSFと地元保健局のスタッフ。活動地に到着するまで数日かかることも。(2020年7月)



マリ北部のニジェール川を渡る船は、MSFのスタッフを乗せてはしかの集団予防接種会場へ向かう。(2020年9月)