プレスリリース

地中海の捜索・救助活動:行政による妨害措置から1カ月──「シーウォッチ4号」は差し止め処分解除要請へ

2020年10月26日
シーウォッチ4号には日本人のMSFスタッフも乗船。デッキ上で救助者の体温を測る助産師の小島毬奈=9月2日撮影 © MSF/Hannah Wallace Bowman
シーウォッチ4号には日本人のMSFスタッフも乗船。デッキ上で救助者の体温を測る助産師の小島毬奈=9月2日撮影 © MSF/Hannah Wallace Bowman

地中海を渡る難民や移民の捜索・救助船「シーウォッチ4号」がイタリア・シチリア島のパレルモで出港差し止めを命じられてから、1カ月余りが経過した。国境なき医師団(MSF)は行政によるこの妨害措置によって、地中海中央部での活動をいまだ再開できていない。その間にも同海域では悲惨な状況が続いており、10月の第4週だけでも子ども2人と妊婦を含む20人近くが命を落とし、さらに別の遭難では5人が死亡または行方不明とされている。同船の所有者である独NGO「シーウォッチ」は、長引く差し止めに異議を唱えるため、イタリアの行政裁判所に提訴した。

MSFはシーウォッチと共同で今年8月以降、同船で救助者の治療や人道援助を行ってきた。現在、差し止めが解除され次第すぐに人命救助活動を再開できるよう、MSFはチームを船内に待機させている。

些細な不備で拘留処分

MSFの活動責任者を務めるベアトリス・ラウはこう話す。「9月19日以来、シーウォッチ4号は出航も援助活動もできず、身動きが取れない状態です。この船が押収されて以来、少なくとも80人が地中海中央部で亡くなり、実際の数はそれを上回ると予測されています。また数百人が強制的にリビアに連れ戻され、拷問や虐待を受けている可能性があるのです」

「もちろんMSFは、海事法に不可欠な港湾の安全管理について、重要性を認識し尊重します。しかしイタリア当局の決定は、政治的な動機で救助船の活動を妨害するために、海事法と安全規制を曲解しているのではないかと危惧しています」

イタリア港湾当局は11時間かけて船内検査をした後、数個のライトが点灯しないなどの些細な不備を列挙し、シーウォッチ4号に拘留処分を下した。

「イタリア当局は海事法を救助活動を阻止する道具にしている」

他にイタリア当局が違反の一つとして指摘したのは、船上で提供された救命器具の数が、乗船者数に足りていなかったということだ。しかしシーウォッチ4号に354人が乗船していたのは、救助した人びとだけでなく、他のNGO船による救助者を受け入れたためだ。海上遭難者を救助することは船長の義務であり、イタリア当局による解釈は、海上における捜索および救助に関する国際条約の規定を無視する行為だと言える。

この解釈がさらに非難されるべきなのは、乗船者数の増加はマルタ当局の指示によるものだったからだ。マルタの捜索救助海域内にいた救助船からの支援要請を受け、同国はシーウォッチ4号にさらに多くの人を乗せるよう命じた。この時には、イタリアの沿岸警備船も現場に駆けつけて49人を避難させ、シーウォッチ4号は残りの152人を乗船させた。

シーウォッチ4号のMSFプロジェクト・コーディネーターのバーバラ・デックは、「当局に示された不備の中には、拘留を正当化するには足らないものもありましたが、私たちは協調の精神で是正に取り組みました。しかし、例えばこの船の旗国であるドイツは、イタリア当局が要求する証明書を発行していません。不備を指摘されても修正不可能なものがあるのです。こうした理由から、イタリア当局は海事法を救助活動を阻止する道具にしているのではないかと懸念するのです」と訴える。

8月 29 日、150人以上がルイーズ・ミシェル号からがシーウォッチ4号に移送された © Thomas Lohnes / Médecins Sans Frontières
8月 29 日、150人以上がルイーズ・ミシェル号からがシーウォッチ4号に移送された © Thomas Lohnes / Médecins Sans Frontières

繰り返されるNGO船への妨害措置

シーウォッチ4号の出港差し止めは、国際法および国内法を逆手に取り、NGOによる人命救助活動を妨害するという、これまで繰り返されてきた措置と同じものだ。イタリアの港で拘置されたNGOの捜索救助船は、シーウォッチ4号が5隻目。10月10日には、NGO船の「アラン・クルディ号」が、シチリア島で2度目となる半年間の拘留を受けた。10月22日には、バンクシーが資金を提供した救助船「ルイーズ・ミシェル号」も、登録に異議を申し立てられ、出港できないと発表した。

欧州連合(EU)各国は、世界で最も危険な海域における捜索・救助体制を取り払ってしまった。新たな移民協定でより人道的なアプローチを約束しつつ、こうした措置を講じることは、おおいに矛盾している。移民保護を推進するつもりがないのであれば、EU加盟国が最低限果たすべきことは、NGOの捜索救助船にその責務を委ねることではないだろうか。

シーウォッチ4号により救助され、シチリア島の海岸への下船を待つ母親と赤ちゃん=8月31日撮影 © MSF/Hannah Wallace Bowman<br>
シーウォッチ4号により救助され、シチリア島の海岸への下船を待つ母親と赤ちゃん=8月31日撮影 © MSF/Hannah Wallace Bowman

地中海で増加する死者と行方不明者

EU加盟国が人命救助という法的および道徳的な義務を何度も軽視し、援助団体に不当かつ杓子定規な行政措置を課してきたことにより、地中海中央部では最近死者が続出している。シーウォッチ4号が差し止めされて以来、リビアとイタリア沖の難破船で少なくとも80人が死亡。これとはまた別に、12人を乗せた船が10日間にわたって地中海中央部を漂流し、5人が行方不明か死亡したとみられている。だが当局が救出に乗り出したのは、遭難情報の受信から4日後だった。

また、リビアは難民・移民らにとって安全な場所ではないと認識しているにもかかわらず、EUはリビア沿岸警備隊に資金を提供し続けている。10月8日、リビア沿岸警備隊に所属する2隻の船が、イタリアとEUが費用を負担して大幅な修理を受けた後、リビアに帰還した。これらの船は、海上で人びとを捕らえ、逃げ出した場所へと連れ戻すためのものだ。

2020年に入ってから現在までに、少なくとも506人が地中海中央部で命を落とし、9000人近くがリビアに強制送還された。

シーウォッチ4号について
2020年2月、独NGO団体「シーウォッチ」と地中海における人命救助の支持者団体「ユナイテッドフォーレスキュー(United4Rescue)」は、海洋調査船を共同で購入し、捜索・救助用に改装。「United4Rescue」の支援者にはMSFドイツも名を連ねており、MSFはシーウォッチ4号で医療・人道援助活動を行っている。

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