地中海:救助船の出港差し止めで、遭難者が命の危機に

2020年09月29日
出港差し止めを受けたシーウォッチ4号 © Hannah Wallace Bowman/MSF
出港差し止めを受けたシーウォッチ4号 © Hannah Wallace Bowman/MSF

迫害や極度の貧困から逃れ、中東・アフリカ諸国から欧州を目指し命がけで地中海を渡ろうとする人びと。彼らを海上で救助する活動が危機に直面している。国境なき医師団(MSF)と独NGO「シーウォッチ」が共同で運航する救助船「シーウォッチ4号」が、イタリア港湾当局から出港差し止めに遭っているのだ。 

化学やけど、中毒症状……船上で500件以上の診療

シーウォッチ4号は、今年8月からの初航海で354人を救出。このうち227人が男性、98人が付き添いのいない10代の少年少女で、その他に独り身の女性、障がい者、妊婦、子どももおり、最年少は2歳にも満たなかった。

シーウォッチ4号に搭乗したMSF医療チームは、これまでに551件の診療を行った。遭難したボートの燃料であるガソリンから発生した煙や、そのガソリンと海水の混ざった腐食性の液体が原因のけがと中毒症状の患者が多い。10代の若者の1人は化学やけどがひどく、海上から緊急搬送された。

シーウォッチ4号でMSF医療プロジェクト・コーディネーターを務めるバーバラ・デックはこう話す。

「私たちの治療した遭難者の傷は、彼らが逃れてきた暴力的な環境と、安全を求めてやむなく踏み切った危険な旅の証です。武装した男たちに頭部を殴打され聴力を失った少年にも、リビアでプラスチックを素肌に焼き付けられた痕の残る父親にも、苦境から立ち直ろうとする強さを感じます。

このように追い詰められた人びとへの救命援助を、欧州各国の政府があらゆる手で阻んでいると思うととてもやり切れません」 

船内の診察室で診療にあたるMSFの医療スタッフ © MSF/Hannah Wallace Bowman
船内の診察室で診療にあたるMSFの医療スタッフ © MSF/Hannah Wallace Bowman

妨害される人命救助

世界で最も死の危険の大きい海洋国境線でありながら、地中海中央部では各国主導の捜索・救助活動が展開されていない。そのため、MSFや他のNGOは欧州諸国不在の致命的な穴を埋めるべく尽力している。8月は死者・行方不明者合わせて111人が報告され、9月15日には消息の分からない20人余りが死亡と推定された。今年の死者・行方不明者は379人に上る。

MSF捜索・救助オペレーション・マネジャーのエレン・ファン・デル・フェルデンはこう語る。

「イタリア当局は海事法に基づく措置を悪用しています。NGO船舶に対する検査と称し、捜索・救助活動を妨害しているのです。イタリア領内の港に入った救助船は、長時間の執拗な検査を受けた末、とるに足らない違反を指摘されることになります。シーウォッチ4号が受けた検査では、11時間もかけて、パレルモ港からの出航を差し止めるための違反項目がこじつけられました。

私たちは『組織ぐるみで』人を救い出しているととがめられ、救命胴衣の保有数が多すぎると責められたり、排水設備を細かく見られたりしたのです。その一方で、遭難した船に手を差し伸べるという、全ての船舶に課せられた義務については全くなおざりでした。国際海事法に則り海上で人命救助を行う人道援助団体に、イタリア当局は罪を着せ、妨害しようとしています。そして、率先して遭難船の救助にあたるべき自らの法的義務を放棄しています。EU諸国はこれを全面的には支持しないとしても、承知はしているのです」 

地中海を漂流し救助された人びと ボートには幼い子どもも乗っていた © MSF/Hannah Wallace Bowman
地中海を漂流し救助された人びと ボートには幼い子どもも乗っていた © MSF/Hannah Wallace Bowman

今すぐ出港が必要

欧州諸国は捜索・救助の手を差し伸べないだけでなく、リビア沿岸警備隊を引き入れ、地中海中央部を監視させている。2020年に入り、これまでに海上でだ捕され、リビアに強制送還された難民・移民は約8000人に上り、昨年同期に比べ約3割も多い。リビアの抑留施設で拘束される人も増加が続く。リビアが安全な場所でないことは周知の事実であるにも関わらず、これらの行為が公然と行われている。

地中海一帯における現在のEUの移民対策は、海難救助の妨害やギリシャ・レスボス島のモリア難民キャンプへの意図的な抑留など、人びとの足止め、追い返し、置き去りを組織的に行うものだ。

EU加盟国は人命救助という法的・倫理的義務を軽視し、救助船の活動を妨害している。地中海中央部の捜索・救助活動をさらに縮小させれば、いっそうの人命の喪失は招かれないだろう。

この海域で人命のために捜索・救助活動を再開できるよう、シーウォッチ4号は今すぐにも出港しなければならない。そして、窮地の人びとの救援に努めるNGOの活動が、これ以上妨害されることがあってはならない。 

救助され、シーウォッチ4号の船上から地中海を見つめる男性 © Hannah Wallace Bowman/MSF
救助され、シーウォッチ4号の船上から地中海を見つめる男性 © Hannah Wallace Bowman/MSF

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