地中海を越えて──マルセイユにたどり着いた10代たちの“居場所”
2025年06月23日
フランス南部の港湾都市マルセイユ。地中海沿岸にあるこの街には、紛争や貧困を逃れた多くの移民・難民がアフリカなどからたどり着く。
その中には、家族を伴わずに一人でやって来る若者も少なくない。ここまでの過酷な旅の途中で家族とはぐれた人も、家族が亡くなってしまった人も、最初から単独という人もいる。
しかし、フランスの行政当局から「未成年」という認定を得られないと、未成年のためにある制度的な保護を受けられない。認定を求めて裁判所に訴えることはできるが、結果が出るまで1年以上かかることもある。
国境なき医師団(MSF)などの援助団体は、路上生活などを余儀なくされる彼らを支援するため、受け入れ施設の共同運営を始めた。開設から1年がたった今、その場所は彼らが安心して過ごし、自分自身を取り戻すための「居場所」になっている。
その中には、家族を伴わずに一人でやって来る若者も少なくない。ここまでの過酷な旅の途中で家族とはぐれた人も、家族が亡くなってしまった人も、最初から単独という人もいる。
しかし、フランスの行政当局から「未成年」という認定を得られないと、未成年のためにある制度的な保護を受けられない。認定を求めて裁判所に訴えることはできるが、結果が出るまで1年以上かかることもある。
国境なき医師団(MSF)などの援助団体は、路上生活などを余儀なくされる彼らを支援するため、受け入れ施設の共同運営を始めた。開設から1年がたった今、その場所は彼らが安心して過ごし、自分自身を取り戻すための「居場所」になっている。
行き場のない若者
マルセイユのサッカースタジアム近くにある、かつての物流センターの中庭。ある日の午前10時ごろ、ここに国外からやって来た多くの若者たちが集まり、食事の準備を手伝ったり、お茶やホットチョコレートを飲んだりと、思い思いの時間を過ごしていた。
ここは「GR1」と呼ばれる施設だ。行き場のない移民・難民の若者たちを日中に受け入れている。

「若者たちが路上で過ごす時間を減らすだけでなく、人生を立て直すチャンスにもつながるのです」。MSFのプロジェクトコーディネーター、ピエール・バグランはGR1の意義をこう強調する。
GR1は2024年4月に開設された。MSFなどの複数の団体が共同で運営しており、1日平均で約40人の若者が利用している。施設では若者に法的な助言のほか、フランス語の授業やレクリエーション活動、心のケアといった幅広い支援を提供する。
「大事なのはダンスだけじゃない。教えてくれる人の存在も大切なんです」。そう声を弾ませるのは、コートジボワール出身のバカリ(仮名、17歳)だ。
バカリは母親を幼いころに亡くし、父親に見捨てられ、数カ月前に故郷からマルセイユに逃れてきた。今はGR1でダンスの授業を受けており、ボランティア講師に指導を受けて体を動かす時間が楽しいという。
「先生が僕の動きを見て喜んでくれると、自信がついてうれしくなるんです」と目を輝かせる。
「先生が僕の動きを見て喜んでくれると、自信がついてうれしくなるんです」と目を輝かせる。

過酷な旅路の果てに
GR1に通う若者たちは、壮絶な過去を背負っている。
彼らの多くは母国で、頼れる家族を失ったり、家庭内暴力を受けたり、路上で暮らしたりしていた。こうした苦しい境遇から逃れるため、母国を離れる決断をした。
旅の道中でも、アフリカ北部のリビアを経由した際に人身売買されて拷問を受けたり、チュニジアから命がけで地中海を渡ったりと、過酷な体験を重ねてきた。
彼らの多くは母国で、頼れる家族を失ったり、家庭内暴力を受けたり、路上で暮らしたりしていた。こうした苦しい境遇から逃れるため、母国を離れる決断をした。
旅の道中でも、アフリカ北部のリビアを経由した際に人身売買されて拷問を受けたり、チュニジアから命がけで地中海を渡ったりと、過酷な体験を重ねてきた。

MSFの心理士、レア・ジャンヴィエは「旅の途中で家族や友人を失った子もいます。自身も死に直面した記憶を抱えて生きているのです」と明かす。
その上で、「うつや不眠、自殺願望など共通する症状が見られます。アイデンティティを築く大切な思春期に支援を受けなければ、その後の人生にも大きな影響を与えます」と懸念する。
終わらない試練
やっとの思いでマルセイユに着いても、安心はできない。
「確かに1番大変な時期は終わりました。でも、また別の困難があることに気づかされたのです」。そううなだれるのは、バカリと同じコートジボワール出身のスレイマヌ(仮名、17歳)だ。
マルセイユでは現在、未成年の認定を得られなかった10代の若者たち約300人が同国の裁判所に認定を求めて訴えている。
裁判の結果までに1年以上かかる場合もあるが、その間は行政の支援を受けることはできない。
「確かに1番大変な時期は終わりました。でも、また別の困難があることに気づかされたのです」。そううなだれるのは、バカリと同じコートジボワール出身のスレイマヌ(仮名、17歳)だ。
マルセイユでは現在、未成年の認定を得られなかった10代の若者たち約300人が同国の裁判所に認定を求めて訴えている。
裁判の結果までに1年以上かかる場合もあるが、その間は行政の支援を受けることはできない。

スレイマヌによると、認定審査の面接官が若者たちを未成年かどうか判断する基準は曖昧という。「自分は顔つきや体の大きさが『大人っぽい』と面接官に指摘されましたが、僕より体格の良い年下もたくさんいます」と主張する。
「行政が何を基準に未成年かどうかの判断をしているか分かりません。最終的な判断は彼らにあり、僕たちにできるのは裁判所に訴えて結果を待つことだけです」
笑顔になれる場所
裁判の結果が出るまでの間、GR1は若者たちの生活を支える。
バグランは「制度的な支援を受けられない間、弱い立場にある彼らは犯罪グループや暴力に巻き込まれる危険性もあります」と保護の必要性を訴える。
GR1を運営する団体の一つ「イエス・ウィー・キャンプ」の食事コーディネーター、ナディア・カルキキは「最初は内向的でキッチンにずっといた子も、少しずつ外に出るようになります。同じ言語を話す仲間を見つけたり、関係を深めたりすることで、これまでの苦しい体験からわずかでも解放されるのです」と前向きな変化を感じている。
GR1を運営する団体の一つ「イエス・ウィー・キャンプ」の食事コーディネーター、ナディア・カルキキは「最初は内向的でキッチンにずっといた子も、少しずつ外に出るようになります。同じ言語を話す仲間を見つけたり、関係を深めたりすることで、これまでの苦しい体験からわずかでも解放されるのです」と前向きな変化を感じている。

スレイマヌは力を込める。
「みんな温かく迎えてくれて、家族の一員になれたような気がします。他にも母国出身の仲間と出会えたり、旅で支え合った人と再会したり。ここは私たちにとって少しでも笑顔になれる、大切な場所なんです」
