11歳のナビーラさん ハエに刺されて感染 学校でからかわれ独りぼっちに

2018年12月27日掲載

目の下をハエに刺されて感染したアリさん クラスメートにからかわれたこともある © Khaula Jamil目の下をハエに刺されて感染したアリさん クラスメートにからかわれたこともある © Khaula Jamil

友人にからかわれて学校に行くのをやめた。痛みで仕事を続けられなくなった。聞きなれない皮膚の病気に、日常を奪われてしまった人びとがいる。「皮膚リーシュマニア症」は、サシチョウバエという、蚊帳も通り抜ける小さなハエに刺されて感染する。顔や体の皮膚を壊し、心にも傷を残す病気だ。国境なき医師団(MSF)がパキスタンで運営する治療センターで、患者たちの声を聞いた。 

痛い注射もがまんして—サビト・ウラー君(10歳)

頑張って治療を続けるサビト君
© Nasir Ghafoor/MSF頑張って治療を続けるサビト君
© Nasir Ghafoor/MSF

10歳のサビト君の足に最初の異変が見つかったのは1年前。皮膚リーシュマニア症は、ハイバル・パフトゥンハー州では「1年残る傷」を意味する “サール・ダナ“と呼ばれ、サビト君もみんなから、治るまで1年かかると言われていた。足の感染のせいで走ることも遊ぶこともできず、がまん強く、1年経ったら消えるのだとずっと信じていたが、そうはならなかった。

「1年で傷はなくなると思っていたのに、消えなくて…。小さくなることも何回かあって、きっと消えるんだって嬉しくなりました。でも、また大きくなっちゃうんです」

サビト君とお兄さんは隣人から、ペシャワールでMSFが運営するサール・ダナ治療センターのことを聞いた。サビト君は今、そこで治療を受けている。ゆがんでしまった患部に直に打つ注射はとても痛いが、長くがまんしてきたこの病気がいずれ治るとわかって、喜んでいる。 

早く仕事に戻りたい—サイープール・カーンさん

「早く仕事に戻りたい」と話すサイープールさん
© Nasir Ghafoor/MSF「早く仕事に戻りたい」と話すサイープールさん
© Nasir Ghafoor/MSF

サイープール・カーンさんはペシャワールのタクシー運転手。サシチョウバエに刺された足が、この数ヵ月で腫れて膨らんでしまった。痛みがひどく、タクシーの運転ができずに収入源を奪われた。

「子どもたちに食べ物を買ってやれなくなったのも、この病気のせいです。貯金はほとんど尽きてしまいました。もう何週間もタクシーを運転していません。運転できないんです。足の傷があると、ブレーキを踏むのもすごく痛みます。最初はちょっとした皮膚病だと思っていたのですが、専門的な治療がいる特殊な病気だと知りました。早く復職して、またお金を稼げるようになりたいです」

サイープールさんは友人を通じて、ペシャワールのナシーララ・ババール記念病院でMSFが皮膚リーシュマニア症の診断と治療をしていると知った。これまで繰り返し、傷が収縮したり膨れたりしてきたが、治療を受けて、どんどん小さくなっていくと期待している。 

腫れあがった鼻で結婚式に—ムハマド・ヌール・バズ・カーンさん

大切な日に苦い思いをしたヌール・バズさん
© Nasir Ghafoor MSF 大切な日に苦い思いをしたヌール・バズさん
© Nasir Ghafoor MSF

ヌール・バズさんは日雇い労働者で、建設業に携わっている。ペシャワールから車でおよそ1時間の距離にあるチャルサダ市まで出勤した時に、サシチョウバエに刺された。数日後には自分の結婚式。鼻の傷はあっという間に腫れあがり、式当日にはごまかせないほどになっていた。晴れの舞台に望ましい外見ではないけれど、招待状も全て送付済みで、中止にすることもできなかった。

「披露宴では、新郎が来賓の目の前の檀上に座るんです。私の人生の新たな幕開けを祝い、激励に歩み寄ってくれる人が皆、鼻のことを聞くんです。なかったことにしたいと心から思いました……」

「式から3ヵ月が経ち、この病気のことを人に聞いてみると、人によって違う病名が返ってきました。治らないと言っていた人もいます。ペシャワールの治療センターに来られたのは幸いでした。MSFの医師から完治できると聞いて、希望が見えました」 

学校で独りぼっちに—ナビーラさん(11歳)

治療を受けるナビーラさんと家族
© Laurie Bonnaud MSF治療を受けるナビーラさんと家族
© Laurie Bonnaud MSF

ナビーラさんは11歳。皮膚リーシュマニア症感染を機に、学校に行くのをやめた。

「他の生徒に病気をからかわれて、独りぼっちになってしまったので、休学を決めたんです。学校に行くのは試験のある時、あとは、治療が終わった後になるでしょう」と、父親は説明する。ナビーラさんは鼻を刺されたが、感染は顔の上半分をほぼ覆い尽くすまで広がってしまった。

「何人もの医師に診てもらい、何ヵ月もいろいろなことを試しました。クリーム、軟膏、注射……すべてダメでした。ある日ペシャワールから村を訪ねて来た医師が、MSFの治療センターに連れて行くといいと勧めてくれたんです」

ナビーラさんの弟と姉も皮膚リーシュマニア症に感染している。ただ、治療センターは自宅から約2時間かかるため、父親が公共交通機関を使って毎日3人の子どもを連れて来るのは大変だ。父親は、「まずナビーラが良くなったら、上の娘を連れて来るつもり」と語る。

ナビーラさん自身は希望を持っている。「治療センターには同じ病気の人がたくさんいて、その人たちがよくなっているのも見ました。私も治ってきているので、きっとよくなると思っています」 

 皮膚リーシュマニア症は、サシチョウバエが媒介する寄生原虫が原因の皮膚感染症。パキスタンでよく見られ、顔や身体の表面が変形していくのが特徴だ。注射薬で簡単に治療できるが、患者の大部分が貧しい地域の住民で治療費が払えず、公衆衛生における優先事項とも見なされていないため、治療薬自体も供給が少なくいつも手に入るとは限らない。

患者の少女に話しかけるMSFのカウンセラー
© Khaula Jamil患者の少女に話しかけるMSFのカウンセラー
© Khaula Jamil

パキスタンでは公衆衛生の上で深刻な「顧みられない熱帯病」の1つとされている。時に引き起こされる身体の著しい変形は偏見や差別も招くが、国内の感染者数に関する公式なデータはない。

MSFは専門の治療施設を運営し、安全で効果的な薬の安定供給、心理面のケアを支援するとともに、治療と予防の周知活動をして患者を援助している。現在はバロチスタン州のクエッタとクチュラク、ハイバル・パフトゥンハー州のペシャワールで専門プロジェクトを展開している。2017年に治療した患者は約4000人、治癒率は99%に到達した。2018年に治療した患者は5000人を超える見通し。