「家では子どもたちがお腹を空かせている」──栄養失調の我が子を見守る母親たちの不安と葛藤:ナイジェリア

2026年09月01日
ナイジェリア北東部ボルノ州にある国境なき医師団(MSF)の栄養治療施設で、栄養失調のため入院している生後23カ月の娘を見守るファティマ・イブラヒムさん。娘をケアするため約3週間を施設で過ごしているが、自宅には8人の子どもがおり、入院当初はそのことを思うたびに、悲しみと不安で涙が止まらなかったという=2025年11月5日 © Abba Adamu Musa/MSF
ナイジェリア北東部ボルノ州にある国境なき医師団(MSF)の栄養治療施設で、栄養失調のため入院している生後23カ月の娘を見守るファティマ・イブラヒムさん。娘をケアするため約3週間を施設で過ごしているが、自宅には8人の子どもがおり、入院当初はそのことを思うたびに、悲しみと不安で涙が止まらなかったという=2025年11月5日 © Abba Adamu Musa/MSF

子どもたちの泣き声が病棟に響く。看護師たちはベッドの間を忙しく行き来しながら、子どもたちの容態を確認し、治療用ミルクを与え、不安を抱える保護者に声をかける。

ナイジェリア北東部ボルノ州マイドゥグリにある国境なき医師団(MSF)の栄養治療施設「ニレファ・キジ」では、重度の急性栄養失調に苦しむ子どもたちが治療を受けている。しかし、この病と闘っているのは子どもたちだけではない。ベッドサイドで我が子を見守る保護者たちもまた、回復への願いと不安の狭間で、長い日々を過ごしている。

MSFの栄養治療施設「ニレファ・キジ」内の様子=2025年11月6日 © Abba Adamu Musa/MSF
MSFの栄養治療施設「ニレファ・キジ」内の様子=2025年11月6日 © Abba Adamu Musa/MSF

我が子の回復と引き換えに

ナイジェリアでは、多くの子どもたちが重度の衰弱や体重減少をともなう栄養失調に苦しんでいる。栄養失調は免疫力を低下させるため、はしか、ジフテリア、マラリアなどの感染症を併発していることも少なくない。

急性栄養失調の治療には、1週間から1カ月ほどを要する。その間、付き添いの保護者、主に母親は病院に寝泊まりしながら子どもを見守る。しかしその陰で、母親たちが抱える苦悩に目が向けられることは少ない。

彼女たちは子どもの容態を案じながら、先の見えない日々への不安や家族との離別、自宅に残してきた子どもや暮らしへの心配、そして我が子を失うかもしれないという恐怖と向き合っている。

MSFが支援するナイジェリア・カノ州の入院治療栄養センターで、栄養失調で入院中の娘に食事を与える母親=2026年6月29日 © Abba Adamu Musa/MSF
MSFが支援するナイジェリア・カノ州の入院治療栄養センターで、栄養失調で入院中の娘に食事を与える母親=2026年6月29日 © Abba Adamu Musa/MSF


ファティマ・イブラヒムさんの23カ月の娘アイシャちゃんは、髄膜炎と繰り返すけいれんに苦しんだ末、ニレファ・キジ栄養治療施設に入院した。

約3週間の入院生活の中で、ファティマさんは複雑な思いを抱え続けていた。娘が回復していくことに安堵する一方で、自宅に残してきた8人の子どもたちのことが頭から離れなかった。

「子どもたちのことが心配です」とファティマさんは語る。

家には子どもたちの世話をしてくれる人が誰もいません。夫は家を離れてしまっていて、子どもたちには食べ物も飲み物もないのです。

ファティマさん 栄養失調の我が子とともに入院する母親

ある日、残してきた子どもの一人が発熱したとの知らせを受けた。しかし、治療を受けさせるためのお金はなかった。 
 
「私は泣くことしかできず、何も食べられなくなりました。今日も午後になるまで、何も口にすることができませんでした」

栄養失調で入院中の生後7か月の子どもを診察するMSFの医師=2026年6月29日 © Abba Adamu Musa/MSF
栄養失調で入院中の生後7か月の子どもを診察するMSFの医師=2026年6月29日 © Abba Adamu Musa/MSF

帰りたい、でも帰れない──

ハリマ・ムハンマドさんは、病気の2人の子どもを連れ、45日間にわたって複数の病院を転々とするなかで、心身の疲労を抱えていた。

「子どもたちが病気になる前はよく眠れていましたが、今はほとんど眠れず、この2日間は体調も優れません」とハリマさんは話す。

「医療スタッフに、娘を退院させてほしいとお願いしました。逃げ出そうとしたわけではありません。娘は良くなっていると思ったからです。でも、まだ状態が安定していないため、自己判断での退院は控えるよう言われました」

ラティファト・アブドゥルカリームさんもまた、娘の入院中につらい葛藤に直面した。ある日、長男が病院を訪ねてきたという。

長男に聞かれました。「いつ家に帰ってくるの? お母さんがいないから、みんなお腹を空かせているよ」と──。

ラティファトさん 栄養失調の我が子とともに入院する母親

栄養失調で入院中の生後7か月の娘を見守るラティファトさん。自宅に残してきた子どもたちのことが常に心配だという=2025年11月6日 © Abba Adamu Musa/MSF
栄養失調で入院中の生後7か月の娘を見守るラティファトさん。自宅に残してきた子どもたちのことが常に心配だという=2025年11月6日 © Abba Adamu Musa/MSF

母親たちを追い詰める現実

栄養失調で入院した子どもを持つ家族を支援してきたMSFのカウンセラー兼教育担当者であるケスラ・ジョンは、自宅に残してきた子どもの状況によって、母親たちはしばしば苦しい選択を迫られ、時には夫たちが事態をさらに難しくしてしまうこともあると指摘する。

「ある女性は、夫から『子どもたちの世話に疲れた』と電話で告げられ、夫は子どもたちを近所の人に預けて出て行ってしまったそうです」とケスラは振り返る。 
 
「彼女には6人の子どもがいました。そのため、病院にとどまることができなかったのです。決して望んで帰宅したわけではありません。治療を受けている子どもは1人だけ、一方で、自宅に残してきた多くの子どもたちを放ってはおけないからです」

彼女は病院で食事を受け取るたびに、涙を流していました。家にいる子どもたちは、食べ物すら十分にないかもしれないと考えていたからです。

ケスラ・ジョン MSFカウンセラー兼教育担当者

栄養失調で入院中の子どもとその母親に寄り添うMSFカウンセラー兼教育担当者のケスラ(右)=2025年11月6日 © Abba Adamu Musa/MSF
栄養失調で入院中の子どもとその母親に寄り添うMSFカウンセラー兼教育担当者のケスラ(右)=2025年11月6日 © Abba Adamu Musa/MSF

絶望を乗り越えて

一方、マリヤ・ムフタールさんは、重い症状を抱えた娘を連れて、北部カノ州にあるMSFの病院を訪れた。それから9日後、その病院は安心して娘を託せる場所へと変わっていた。

娘は高熱や嘔吐、下痢に苦しみ、いくつもの医療施設を受診したものの、改善しないままMSFの病院にたどり着いた。その間、マリヤさんは「娘を失うかもしれない」という恐怖を抱え続けていた。

しかし、治療を続けるうちに娘の容態は目に見えて改善していった。自力で体を起こし、遊び、母親の顔を見つめて言葉を交わせるようになったのだ。そのどれもが、入院当初には見られなかった姿だった。

「急いで退院しようとは思いません」とマリヤさんは言う。

娘が日に日に回復していく様子を目の当たりにし、必要な治療を受けられているという安心感を得たことで、マリヤさん自身もようやく心の落ち着きを取り戻していった。

娘に治療用ミルクを与えるマリヤさん。MSFの施設に入院する前は娘を失うかもしれないと絶望していたが、治療によって容態は大きく改善し、安堵しているという=2026年6月25日 © Abba Adamu Musa/MSF
娘に治療用ミルクを与えるマリヤさん。MSFの施設に入院する前は娘を失うかもしれないと絶望していたが、治療によって容態は大きく改善し、安堵しているという=2026年6月25日 © Abba Adamu Musa/MSF

保護者を支えることは、子どもを支えること

こうした母親たちの声は、栄養失調がもたらす見過ごされがちな影響を浮き彫りにしている。入院患者数や回復率といったデータは治療の成果を示すことはできても、病気の子どもを支えている家族が背負っている精神的な苦しさまでは測ることができない。

この課題に対応するため、MSFはニレファ・キジ栄養治療施設の栄養失調プログラムに、心のケアと心理社会的支援を組み込んでいる。 
 
保護者は入院時に心理的応急処置を受け、その後も個別カウンセリングやグループセッションに参加できる。そこでは自身の経験や不安を共有しながら、対処法を学ぶことができる。子どもたちに対しても、回復期間中に体系的な遊びの活動を提供し、日常生活を取り戻せるよう支援を行っている。

家族との連絡が途絶えてしまった保護者には、カウンセラーが電話で連絡を取る手助けを行う。必要に応じて、保護者が一時的に帰宅し、家族の状況を確認できるよう支援することもある。その後、保護者は病院に戻り、子どもの治療が終わるまで入院生活を続ける。

ラティファトさん親子と触れ合うMSFカウンセラー兼教育担当者のマリアム・アリム(中央)=2025年11月6日 © Abba Adamu Musa/MSF
ラティファトさん親子と触れ合うMSFカウンセラー兼教育担当者のマリアム・アリム(中央)=2025年11月6日 © Abba Adamu Musa/MSF


ケスラによると、多くの保護者は子どもが回復していく姿を目の当たりにするなかで、少しずつ希望を取り戻していくという。退院後、元気になった我が子を見せるために病院を訪れる家族もいる。

私たちにとってそうした瞬間は、保護者を支えることもまた、子どもを支えることの一部だと実感させてくれるのです。

ケスラ・ジョン MSFカウンセラー兼教育担当者

保護者への支援は、単なる思いやりの行為ではない。保護者の心の健康は、治療への継続的な協力や医療スタッフの助言の実践、そして子どもの回復に欠かせない日々のケアに大きく影響する。
 
栄養失調との闘いが続くなか、子どもたちのニーズと、彼らを支える保護者のニーズを切り離して考えることはできない。回復とは、単に子どもの体重を増やすことではなく、毎日ベッドサイドで我が子を見守る人びとが、再び希望を見いだし、前を向く力を取り戻すことでもある。

双子の娘とともにMSFが支援する入院栄養治療センターに滞在する女性。双子のうちの1人が、重度の急性栄養失調を患っているが、治療を受け順調に回復しているという=2025年9月17日 © Fatuma Abdullahi/MSF
双子の娘とともにMSFが支援する入院栄養治療センターに滞在する女性。双子のうちの1人が、重度の急性栄養失調を患っているが、治療を受け順調に回復しているという=2025年9月17日 © Fatuma Abdullahi/MSF

ナイジェリアにおけるMSFの活動

MSFはザムファラ州、カツィナ州、ケッビ州、ボルノ州、バウチ州、ソコト州、カノ州の各州保健省と協力し、栄養失調に苦しむ子どもたちへの医療を提供している。2025年にはナイジェリア北部全域で42万5634人の急性栄養失調の子どもを治療した。この数は2024年と比べて41.8%増加しており、栄養危機が深刻化している現状を浮き彫りにしている。

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