「家では子どもたちがお腹を空かせている」──栄養失調の我が子を見守る母親たちの不安と葛藤:ナイジェリア
2026年09月01日
子どもたちの泣き声が病棟に響く。看護師たちはベッドの間を忙しく行き来しながら、子どもたちの容態を確認し、治療用ミルクを与え、不安を抱える保護者に声をかける。
ナイジェリア北東部ボルノ州マイドゥグリにある国境なき医師団(MSF)の栄養治療施設「ニレファ・キジ」では、重度の急性栄養失調に苦しむ子どもたちが治療を受けている。しかし、この病と闘っているのは子どもたちだけではない。ベッドサイドで我が子を見守る保護者たちもまた、回復への願いと不安の狭間で、長い日々を過ごしている。
我が子の回復と引き換えに
急性栄養失調の治療には、1週間から1カ月ほどを要する。その間、付き添いの保護者、主に母親は病院に寝泊まりしながら子どもを見守る。しかしその陰で、母親たちが抱える苦悩に目が向けられることは少ない。
彼女たちは子どもの容態を案じながら、先の見えない日々への不安や家族との離別、自宅に残してきた子どもや暮らしへの心配、そして我が子を失うかもしれないという恐怖と向き合っている。
ファティマ・イブラヒムさんの23カ月の娘アイシャちゃんは、髄膜炎と繰り返すけいれんに苦しんだ末、ニレファ・キジ栄養治療施設に入院した。
約3週間の入院生活の中で、ファティマさんは複雑な思いを抱え続けていた。娘が回復していくことに安堵する一方で、自宅に残してきた8人の子どもたちのことが頭から離れなかった。
「子どもたちのことが心配です」とファティマさんは語る。
家には子どもたちの世話をしてくれる人が誰もいません。夫は家を離れてしまっていて、子どもたちには食べ物も飲み物もないのです。
ファティマさん 栄養失調の我が子とともに入院する母親
帰りたい、でも帰れない──
「子どもたちが病気になる前はよく眠れていましたが、今はほとんど眠れず、この2日間は体調も優れません」とハリマさんは話す。
「医療スタッフに、娘を退院させてほしいとお願いしました。逃げ出そうとしたわけではありません。娘は良くなっていると思ったからです。でも、まだ状態が安定していないため、自己判断での退院は控えるよう言われました」
ラティファト・アブドゥルカリームさんもまた、娘の入院中につらい葛藤に直面した。ある日、長男が病院を訪ねてきたという。
長男に聞かれました。「いつ家に帰ってくるの? お母さんがいないから、みんなお腹を空かせているよ」と──。
ラティファトさん 栄養失調の我が子とともに入院する母親
母親たちを追い詰める現実
「ある女性は、夫から『子どもたちの世話に疲れた』と電話で告げられ、夫は子どもたちを近所の人に預けて出て行ってしまったそうです」とケスラは振り返る。
彼女は病院で食事を受け取るたびに、涙を流していました。家にいる子どもたちは、食べ物すら十分にないかもしれないと考えていたからです。
ケスラ・ジョン MSFカウンセラー兼教育担当者
絶望を乗り越えて
娘は高熱や嘔吐、下痢に苦しみ、いくつもの医療施設を受診したものの、改善しないままMSFの病院にたどり着いた。その間、マリヤさんは「娘を失うかもしれない」という恐怖を抱え続けていた。
しかし、治療を続けるうちに娘の容態は目に見えて改善していった。自力で体を起こし、遊び、母親の顔を見つめて言葉を交わせるようになったのだ。そのどれもが、入院当初には見られなかった姿だった。
「急いで退院しようとは思いません」とマリヤさんは言う。
娘が日に日に回復していく様子を目の当たりにし、必要な治療を受けられているという安心感を得たことで、マリヤさん自身もようやく心の落ち着きを取り戻していった。
保護者を支えることは、子どもを支えること
この課題に対応するため、MSFはニレファ・キジ栄養治療施設の栄養失調プログラムに、心のケアと心理社会的支援を組み込んでいる。
家族との連絡が途絶えてしまった保護者には、カウンセラーが電話で連絡を取る手助けを行う。必要に応じて、保護者が一時的に帰宅し、家族の状況を確認できるよう支援することもある。その後、保護者は病院に戻り、子どもの治療が終わるまで入院生活を続ける。
ケスラによると、多くの保護者は子どもが回復していく姿を目の当たりにするなかで、少しずつ希望を取り戻していくという。退院後、元気になった我が子を見せるために病院を訪れる家族もいる。
私たちにとってそうした瞬間は、保護者を支えることもまた、子どもを支えることの一部だと実感させてくれるのです。
ケスラ・ジョン MSFカウンセラー兼教育担当者
ナイジェリアにおけるMSFの活動
MSFはザムファラ州、カツィナ州、ケッビ州、ボルノ州、バウチ州、ソコト州、カノ州の各州保健省と協力し、栄養失調に苦しむ子どもたちへの医療を提供している。2025年にはナイジェリア北部全域で42万5634人の急性栄養失調の子どもを治療した。この数は2024年と比べて41.8%増加しており、栄養危機が深刻化している現状を浮き彫りにしている。




