致死率が極めて高い「髄膜炎」 ナイジェリアでの流行に歯止めをかけた迅速な治療と予防接種

2025年06月10日
髄膜炎に感染し、国境なき医師団(MSF)が支援するナイジェリア・ケビ州の病院で治療を受ける生後10カ月のシャヤウちゃん=2025年4月20日 ©  Teresa Krug/MSF
髄膜炎に感染し、国境なき医師団(MSF)が支援するナイジェリア・ケビ州の病院で治療を受ける生後10カ月のシャヤウちゃん=2025年4月20日 © Teresa Krug/MSF

2025年2月初旬、ナイジェリア北西部は髄膜炎の流行に見舞われた。

髄膜炎は、脳や脊髄を包む髄膜に炎症が生じる感染症で、激しい頭痛や発熱、吐き気、嘔吐(おうと)、光をまぶしがる、首のこわばりなどの症状を起こす。症状が現れてから数時間で命を落とすこともある恐ろしい病気だ。

国境なき医師団(MSF)は、この地域で数百人もの患者の救命治療を行い、大規模な集団予防接種を支援した。その結果、多くの命が守られ、感染者数も大幅に減少、流行は終息へと向かっている。 

多くの人が突如、重篤な症状に

ナイジェリア北西部で2月初め、子どもを含む多くの人びとが突如、重篤な症状に陥った。けいれんを起こしたり、意識を失ったりした人もいたが、原因はすぐには特定されなかった。
 
「ある朝、目が覚めると、首に痛みがあり、片足がこわばっていて、背中にも痛みがありました」と語るのは、26歳のアイシャ・ファルクさん。

その後、学校に行ったことはぼんやりと覚えていますが、そこで意識を失いました。目が覚めたときには、ここにいました。

アイシャ・ファルクさん 髄膜炎を患った女性

アイシャさんは、ナイジェリア最北西部ケビ州のグワンドゥ地方行政区にある、MSFが支援する総合病院で治療を受けており、現在は回復に向かっている。
 
病院が患者でいっぱいとなるなか、MSFの健康教育の担当者は、被害の最も大きいコミュニティと連携し、住民への意識を高める活動を行い、MSFが支援する医療施設への誘導を行った。
 
「当初、人びとは発熱や頭痛の症状から、マラリアにかかったと思っていました」と、グワンドゥのMSF地域健康教育担当者であるデビット・ムサは話す。 

しかし、首のこわばりや乳児の脳の腫れといった特徴的な症状から、医療従事者たちは別の病気の可能性が高いと判断しました。

デビット・ムサ グワンドゥのMSF地域健康教育担当者

ほどなくして、それが髄膜炎であることが判明した。それが、ケビ州、そしてソコト州で医療施設への入院患者が急増した理由だったのだ。 

MSFが支援するケビ州の病院で1週間の治療を終え、退院の準備をするアイシャさん=2025年4月22日 © Teresa Krug/MSF
MSFが支援するケビ州の病院で1週間の治療を終え、退院の準備をするアイシャさん=2025年4月22日 © Teresa Krug/MSF

12日間で500人以上 患者でいっぱいの病院

髄膜炎は、世界的にも健康上の重大な脅威とされている。医学誌『ランセット』に掲載の2021年のデータを基にした研究によると、世界では毎年200万人以上の髄膜炎の症例が発生し、そのうち20万人以上が死亡していると推定されている。
 
セネガルからエチオピアにかけて広がるアフリカの広大な地域は、通称「髄膜炎ベルト」と呼ばれ、繰り返し流行が発生している。適切な医療措置が迅速に行われなかった場合、50~80パーセントが死に至る可能性があるという研究もあり、極めて致死率が高いとされている。
 
髄膜炎はウイルスや細菌の感染によって引き起こされ、飛沫、喉の分泌物、糞便による汚染などによって、人から人へと感染する。ナイジェリアでよく見られる細菌性髄膜炎は、最も重篤なタイプの髄膜炎であり、脳や脊髄を囲む組織が炎症を起こす可能性がある。
 
この極めて危険な病気の流行に対応するため、ケビ州とソコト州のMSFチームは、スタッフの派遣や医療物資の配布、複数の医療施設での増床、州保健省の医療スタッフの研修、啓発活動の立ち上げなど、被害が深刻な地域に迅速な支援を提供した。
 
「最も多くの症例が報告されたケビ州では、グワンドゥ、ジェガ、アリエロの各地方行政区において、活動開始から最初の12日間で500人以上の患者を受け入れました」と、ケビ州のMSF緊急対応コーディネーターであるシャマウン・アブバカール医師は語る。 

ベッドを増設したものの、それ以上の患者が入院し、床にマットレスを敷いて対応せざるを得ませんでした。

シャマウン・アブバカール医師 ケビ州のMSF緊急対応コーディネーター

ケビ州に届いた髄膜炎のワクチン。適正な温度で保管、管理されている=2025年4月23日 © Teresa Krug/MSF
ケビ州に届いた髄膜炎のワクチン。適正な温度で保管、管理されている=2025年4月23日 © Teresa Krug/MSF

患者の大部分は子ども 回復後も後遺症の恐れ

ケビ州では、MSFが支援する医療施設に入院した髄膜炎患者が、9週間で2095人に上った。
 
また、隣接するソコト州では、MSFはタンブワル 地方行政区にある5つの基礎医療センターと2つの総合病院で、症例管理(遠隔支援を含む)、研修、医療物資の供給を支援した。そして、5月初旬までに、MSFが支援する医療施設で880人の髄膜炎患者の治療を行った。
 
「髄膜炎はあらゆる年齢層が罹患する可能性がありますが、報告されている症例の大部分は1歳から15歳の子どもです」とアブバカール医師は言う。 

「5歳未満の子どもは免疫力が低いため、特に死亡のリスクが高くなります」

そして残念ながら、回復しても長期的な神経障害や認知機能障害を発症する恐れがあり、視覚障害、聴力障害、けいれん、頭蓋内圧の上昇などに苦しむ可能性もあります。

シャマウン・アブバカール医師 ケビ州のMSF緊急対応コーディネーター

髄膜炎の我が子に寄り添うサラトゥさん © Teresa Krug/MSF
髄膜炎の我が子に寄り添うサラトゥさん © Teresa Krug/MSF
「また、生存者の多くが、脳卒中のリスクも抱えることになります」

生後10カ月のシャヤウちゃんは、4月下旬に脳浮腫など複数の症状でジェガ総合病院に入院した。数日後には退院できたが、神経学的合併症の可能性を調べるため、専門医の診察を受けるよう勧められた。
 
「シャヤウの兄も、髄膜炎で数週間前に入院したんです」と、母親のサラトゥ・ハムザさんは言う。
 
「でも、耳が聞こえなくなってしまいました」

流行対策に不可欠な集団予防接種

迅速な治療は死亡や長期的な後遺症を防ぐうえで重要だが、髄膜炎と闘うには、できるだけ多くの人びとに予防接種を行い、感染の連鎖を断ち切ることが不可欠だ。 

集団予防接種は非常に重要です。ワクチンは5年から8年にわたって免疫が持続するので、次の流行が発生しても感染のリスクを大幅に減らすことができます。

シャマウン・アブバカール医師 ケビ州のMSF緊急対応コーディネーター

ケビ州では、MSFはユニセフおよび世界保健機関(WHO)と連携し、州保健省による集団予防接種を支援した。1週間で約50万人が予防接種を受け、その3分の2は15歳未満の子どもだった。
 
公式の数字は集計中だが、ナイジェリア疾病対策センター(NCDC)は2月初旬から5月初旬にかけて、全国で4000件以上の髄膜炎の症例を確認している。そのうち70パーセントの患者が、ケビ州とソコト州のMSF施設で治療を受けた。
 
MSFの迅速かつ効果的な対応が功を奏し、現在、両州での症例数は減少している。MSFのチームは緊急対応を徐々に縮小し、通常の治療と定期的な医療活動へと移行しているが、引き続き保健省のスタッフへの支援は継続していく。 

集団予防接種に集まる子どもたち。MSF、ユニセフ、WHOが連携し、1週間で約50万人にワクチン接種を行った=2025年4月22日 © Teresa Krug/MSF
集団予防接種に集まる子どもたち。MSF、ユニセフ、WHOが連携し、1週間で約50万人にワクチン接種を行った=2025年4月22日 © Teresa Krug/MSF

この記事のタグ

関連記事

活動ニュースを選ぶ