再生可能エネルギーは医療現場をどう変えるか──ナイジェリア 気候変動と人びとの健康
2025年06月02日
「酸素ボンベが必要な患者もいます」。スタッフの一人が、事態の深刻さをエンジニアへと伝える。しかし、すぐにその懸念は安堵へと変わる。移行はスムーズに進み、電力は一日中安定を保った。そして翌日も変わることはなかった。
国境なき医師団(MSF)はナイジェリアで、病院への電力供給に太陽エネルギーを活用するプロジェクトに取り組んでいる。高価な燃料を大量に消費する発電機から、再生可能エネルギーの活用へ──。電力の移行により、人びとはより良い医療を持続的な形で受けることができるようになったという。北部ザムファラ州にあるズルミ総合病院からMSFの取り組みを伝える。
安定したエネルギー供給が可能に
「以前は本当に大変でした」。そう語るのは、このプロジェクトに5カ月間従事した、エネルギー担当マネジャーのイスラエル・ムショレだ。
「患者の手術中にも、停電が発生するリスクが常にありました。太陽光発電を導入したことで、今は安定したエネルギーを確保できています」
イスラエル・ムショレ エネルギー担当マネジャー

医療の質も向上

同時に、再生可能エネルギーの導入により、病院は長期的に一貫した質の高い医療を提供できるようになった。調達、輸送、保管、支払いといった業務に必要なインフラが改善され、より信頼性が高く、切れ目のない医療の提供が可能となったのだ。産科病棟や新生児集中治療室、コレラ病棟の患者たちは、医療の質の向上を感じているという。
また、太陽光はよりクリーンなエネルギーのため、環境への負荷も少なく気候危機への影響も減る。気候危機は、MSFが援助を提供する人びとにすでに大きな影響を及ぼしている。
栄養失調、マラリア──気候変動の影響とは
干ばつや洪水といった気候に関連した災害が、農業生産に与える影響は深刻だ。牧畜や農業に携わる人びとの土地へのアクセスは妨げられ、資源をめぐる争いを引き起こしている。これは暴力の発生や避難民の増加を助長し、結果として地域全体に食料不安や栄養失調をもたらすことになる。
MSFが長期にわたり活動するナイジェリア北部の8州(ズルミ総合病院のあるザムファラ州を含む)では、命に関わる合併症を伴う重度栄養失調児が増加している。2024年、MSFは30万人以上の子どもを治療したが、その数は 2023年から25%も増えており、そのうち7万5000人以上が入院治療を必要としていた。2025年、MSFは栄養失調の患者数はさらに増えると予想し、一部の病院で病床を増やす準備を進めている。

またMSFのチームは、気温の上昇や降雨量の変動を含む気候の変化によって、より急速に新たな地域で蚊が繁殖し、ナイジェリアの人びとがマラリアに感染するケースが増えていることも注視している。
世界保健機関(WHO)が発表した2023年の最新データによると、ナイジェリアは世界全体で2億6300万人というマラリア感染症例の26%を占めており、2018年から2023年には推定680万人という大幅な増加が見込まれていた。
「私たちは毎日、気候変動が人びとの健康に与える影響を目の当たりにしています」と先ほどのムハンマド・アリは語る。
異常気象の発生頻度の増加から、干ばつに見舞われた農地で起こる土地をめぐる激しい争いまで──。気候と人びとの健康は密接に結びついています。
アブドゥラヒ・ムハンマド・アリ MSFの現地活動責任者
気候変動の影響を緩和するために
それでも、太陽光発電への切り替えは、患者と地域社会に利益をもたらし、より持続可能な解決策を生み出しています。
アブドゥラヒ・ムハンマド・アリ MSFの現地活動責任者
