【連載】ミャンマーに生きる──戦闘の再燃したラカイン 絶え間ない恐怖にさらされるロヒンギャの人びと
2024年09月12日
2021年に軍事政権が発足して以降、さまざまな困難に直面しているミャンマーの人びと。武装勢力間の衝突が各地で発生し、人びとの日常生活に大きな影響を与えている。
国境なき医師団(MSF)の活動現場から、ミャンマーに生きる人びとの姿を伝えるシリーズ。2回目は、昨年11月以降、ミャンマー軍とアラカン軍(AA)の間で激しい戦闘の続く西部ラカイン州から、ロヒンギャの人びとの声を届ける。彼らの命を脅かす、人道危機的な状況とは。
ラカイン州でのMSFの活動
ミャンマー西部ラカイン州の州都シットウェ。ミャンマー最大都市ヤンゴンからは、飛行機でおよそ1時間の距離に位置する。昨年11月まで、MSFのチームはここで、ラカイン人やロヒンギャ、そのほかの少数民族など、医療へのアクセスが限られている人びとに必要不可欠な医療を幅広く提供してきた。その活動は、基礎医療、性別およびジェンダーにまつわる暴力の被害者ケア、健康教育活動、心理・社会的支援活動などが含まれる。
またMSFは、より専門的なケアが必要な患者を病院へと送る、緊急搬送も実施していた。長い間迫害を受け、1982年に市民権を剥奪されて以来、無国籍となったイスラム系少数民族のロヒンギャの人びとにとって、これは特に重要な医療サービスだった。ロヒンギャは、移動の自由を含む生活のあらゆる面で制約が課せられている。移動の自由がなければ、病院にたどり着くことは非常に難しい。
MSFは、そのような医療を受けることが最も困難な人びとに医療を提供するため、州内各地を巡回する25の移動診療も行っていた。

広がる戦闘、人道アクセスへの厳しい制限も

シットウェでは、紛争のさらなる激化を恐れ、都市部の人口のおよそ70%が避難しており、そのほとんどがラカイン人だ。一方、フェンスで囲われたキャンプや村に住むロヒンギャの多くは、厳しい移動制限を課せられているため、この地域に留まることを余儀なくされている。同時に、シットウェには郡内の村からラカイン人を含む新たな避難民や、北部での暴力から逃れてきた人びとが到着している。一方、ロヒンギャに関しては、市民権を剥奪される前後に発行された国民登録証を持つ人びとだけが、シットウェに逃れることができた。
戦闘はラカイン州の大部分を巻き込み、大勢の人びとが安全を求めて故郷を離れざるを得なくなっている。
ロヒンギャの人びとが再び戦闘に巻き込まれているだけではなく、ラカインの人びとも極度の暴力にさらされています。
MSFスタッフ
暴力に巻き込まれるロヒンギャ
戦闘が激化する中、最も弱い立場に置かれているのは、逃げ場もなく暴力に巻き込まれている、無国籍のロヒンギャの人びとだ。
私は1秒たりとも自由を感じることができません。自由というものを知らないのです。
ロヒンギャの男性
「ブティドンやマウンドーで起きている戦闘や迫害がシットウェにまで広がったら──。どこかに逃げるしかないでしょう。バングラデシュでも、どこへでも。命を守るためには、どんなことでもしなければなりません」
人びとは病院や学校、警察署に避難しました。しかし、逃げたとしても、どちらか一方の勢力の支配地域に行き着くため、攻撃はまぬがれませんでした。
ロヒンギャの人びと
医療アクセスの回復が急務
しかし、いまもMSFはラカインの24カ所においては、移動診療を再開できていない。

シットウェでは、急性水様性下痢の発生も報告されており、医療活動の拡大はますますその必要性が高まっている。医療物資の供給面での課題は残るものの、MSFはシットウェでの活動を再開することができた。これ以上人びとの命が無意味に失われないよう、ラカイン州全域の最も弱い立場にある人びとへの医療アクセスを、一刻も早く回復させなくてはならない。
MSFはラカイン州における活動を継続していく。また、できるだけ早く医療活動を再開する準備もできている。MSFはすべての紛争当事者に対し、国際人道法を遵守し、人びとがより安全な地域へ避難することを認めるよう求めるとともに、医療施設、医療従事者、患者が尊重され、保護されなければならないことを改めて呼びかける。

※安全面を考慮し、写真の一部を加工しています