デモ激化で医療体制崩壊の危機 MSFのスタッフも患者の搬送中に銃を向けられた

2019年07月25日

中南米の国、ハイチが今、大きな危機に瀕している。政治的また、社会経済的な問題によって、暴動が急増しているためだ。これにより、わずか数ヵ月で通貨下落と燃料価格の高騰により、人びとの購買力は減少した。一方、公的医療機関も、暴動などによって増え続ける患者の受け入れが十分にできていない状況が続いている。国境なき医師団(MSF)が救急診療所を運営し、人びとの医療ニーズに対応している。だが、MSFの救急診療所では対応できない重症患者を治療できる搬送先の病院を探すのが難しいという課題にも直面している。 

暴力を伴うデモが急増

6月に起きたデモの様子 © Jeanty Junior Augustin/MSF6月に起きたデモの様子 © Jeanty Junior Augustin/MSF

2018年は、大規模で暴力を伴うような街頭デモが増えた。同時に、銃による暴力も急増。国境なき医師団(MSF)は2019年1月~3月の3ヵ月の間に、首都ポルトープランス市のスラム街にある救急治療センターで、銃で撃たれてけがをした237人の患者を治療した。治療件数は、前年同期比のほぼ2倍となった。

2019年6月9日以降には緊張が高まり、ポルトープランス市、レカイ市、ゴナイブ市を含めた複数の都市で、毎日のように街頭デモと暴動が起きた。2週間で49人が銃で撃たれてけがをしたため、MSFのマルティッサン・センターに搬送された。このうち9人は重傷だった。

「銃による暴力と、路上での衝突が激しくなってきています」とハイチでMSFの活動責任者を務めるリンディス・フルムは話す。「市内各地と幹線道路にはバリケードが設けられました。どこにいっても、人びとの怒り、恐怖、絶望が渦巻いています。普段は渋滞しているポルトープランス市内の道路もガラガラです。暴動がいつ起きるか分からないことを恐れ、人びとは道路を使いたがりません。誰一人として、安全と感じている人はいません。MSFの医療チームもこの数日間で、安全が脅かされる重大事件に遭いました」

6月23日、バリケードのところで、MSFの救急車が20人の武装集団に呼び止められた。その時、MSFの救急車は、妊娠中の女性を搬送中だった。武装集団は、搬送を担当していたMSFのチームに銃を突きつけて脅し、無理やり引き返させた。またこの日、MSFのマルティッサン・センターを退院した患者の1人が、建物を出たところで、銃で撃たれて亡くなった。正面玄関外にある金属製の門扉には、“武器の持ち込み禁止”と、はっきりと書いていたというのに。 

ハイチの医療体制にも大きな影響が…

MSFが運営する救急診療所 © Christophe Hebting/MSFMSFが運営する救急診療所 © Christophe Hebting/MSF

こうした暴動などにより、MSFの活動とハイチの公的医療体制に影響が出ている。一方、ハイチの公的医療機関では、資金・人員・設備面が十分でないため、患者に対応できていない。その上、暴動などによって、医療従事者の移動の他、医療機器、輸血用製剤や医薬品の輸送に支障が出ている。

「危機的状況が続いていることから、以前から不安定だった医療体制の状況が悪化し、死亡率が高まっています」とフルムは話す。「公的医療機関では、医師、医薬品、酸素や電気などの消耗品が不足しています。ところが、患者は増える一方です。しかも、治療費の高い私立病院には行けない患者が多くいます。現場は危機的な状況です」。 

休む間もなく稼動する診療所

診察を待つ患者たち © Samira Loulidi/MSF診察を待つ患者たち © Samira Loulidi/MSF

MSFのマルティッサン・センターは、休むことなく稼動している数少ない救急診療所の一つだ。ベッド数26床のこのセンターでは、無償で患者の容体を安定させてから、より大きな医療機関に患者を移送し、高度な手術などが受けられるようにしている。

「多くのストレスがかかる状況で、昼も夜も働いて患者の命を救っています」とMSFマルティッサン・センターで働く、コーディネーターのサミラ・ルリディは話す。「患者が着くと、容体を安定させてから応急処置をします。ただここは、救急診療所。重傷を負った多くの患者を、より高度な医療機関に搬送することが必要です」。

ただ、搬送先の病院を探すのは簡単ではない。サミラは続ける。「現在は2~3ヵ所の病院で運試しするしかない状況です。もっと多くの病院をあたらなければならないこともあります。それでもうまくいかないことがあるんです。医療スタッフだったり、輸血用製剤だったり、医薬品だったりと、いろいろなものが足りません。このような状況で、どうすれば救命医療を維持して、患者さんの命を助けられるのでしょうか」 

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