「エボラ流行」の陰で…はしか疑い10万件超、コレラ疑い3万5000件以上──コンゴを脅かす命の危機

2026年08月18日
嘔吐(おうと)と下痢の症状が数日間にわたって続いた息子を診療所に連れてきた29歳の母親。その症状はコレラに似ていた=コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部・北キブ州ゴマで2026年7月8日 © MSF
嘔吐(おうと)と下痢の症状が数日間にわたって続いた息子を診療所に連れてきた29歳の母親。その症状はコレラに似ていた=コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部・北キブ州ゴマで2026年7月8日 © MSF

エボラ病(エボラ出血熱)が流行しているコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の東部では、その他の保健・人道危機も深刻となっている。

東部にある南キブ州と北キブ州では、コレラはしかマラリアに加えて、紛争に伴う暴力が数千人の命を脅かしている。しかし、現在はエボラ対応に多くの人や資源が割かれている状況だ。

国境なき医師団(MSF)は、人道状況のさらなる悪化を防ぐため、エボラ病以外の危機についても十分な支援を続ける必要があると訴える。

紛争下で重なる命の危機

「エボラ流行は重大な緊急事態ですが、危機はそれだけではありません」

こう語るのは、南キブ州でMSFの活動責任者を務めるジョシュア・エクリー。MSFは毎日、エボラ以外にもさまざまな病気の患者、戦闘による負傷者、性暴力の被害に遭った人びとを受け入れている。

国境なき医師団(MSF)は、エボラ病の流行に対応しながら、その他の保健・人道危機にも取り組んでいる=コンゴ・北キブ州ゴマで2026年7月8日 © MSF
国境なき医師団(MSF)は、エボラ病の流行に対応しながら、その他の保健・人道危機にも取り組んでいる=コンゴ・北キブ州ゴマで2026年7月8日 © MSF


今回のエボラ流行は、すでに複数の保健・人道危機を抱える地域で発生した。南北キブ州では武力紛争が続き、度重なる衝突によって人びとは避難を余儀なくされている。予防接種活動は中断し、安全な飲み水の確保や医療機関の受診も難しくなっている。

また、2026年5月にエボラ流行が宣言されて以降、メディアの関心と支援資源の多くが、エボラ対応に集中してきた。流行を封じ込めるための動員は不可欠だが、地域で続く他の保健・人道危機への対応が犠牲になってはならない。

さらに、エボラへの恐怖が医療へのアクセスを一層妨げている。流行の影響を受ける州では、ブンディブギョ・ウイルスへの感染を恐れ、医療施設の受診をためらう患者もいる。その結果、一般的な病気であっても治療が遅れ、本来なら救えるはずの命が失われる恐れが生じている。

MSFが支援するコレラ治療センターの看護師(左)が、病院の隔離病棟でコレラ患者のもとを訪れた=コンゴ・北キブ州ゴマで2026年7月8日 © MSF
MSFが支援するコレラ治療センターの看護師(左)が、病院の隔離病棟でコレラ患者のもとを訪れた=コンゴ・北キブ州ゴマで2026年7月8日 © MSF


エクリーは、あらゆる危機に同時に対応する必要性を訴える。

地域の人びとにとって、これらの緊急事態はすべて同時に起きています。基礎医療が途絶えれば、本来なら防げる病気で命を落とす人が増えかねません。他のあらゆる疾患を治療するためにも、継続的な医療提供と基礎医療へのアクセスを守ることが不可欠です。

MSFの南キブ州活動責任者 ジョシュア・エクリー

エボラの陰で拡大する、はしかとコレラ

一方で、コンゴでは、はしかやコレラも拡大している。

公式データによると、2026年1月から7月19日までに、全国で10万8643件を超えるはしかの疑い例が報告され、1394人が死亡した。疑い例の半数近い5万件超が、南北キブ州に集中している。

はしかの流行を受けて、MSFは両州で計6回の緊急対応を実施した。直近に開始した南キブ州シャブンダと北キブ州ワリカレでの活動は、現在も続いている。一連の活動を通じて、1万2050人を超える患者を治療し、28万3150人以上の子どもたちに予防接種をした。

また、コレラの感染状況も深刻だ。全国で既に3万5464件を超える疑い例と、1051人を超える死亡が報告されている。このうち、南北キブ州の疑い例は1万4819件に上る。

南キブ州では、2025年にコレラの感染者が急増したことを受け、MSFがブカブとシャブンダで患者の治療を続けている。ゴマでも、2026年5~8月上旬にかけてコレラ流行への対応にあたった。MSFが支援する医療施設では、これまでに計2410人を超えるコレラ患者を治療した。

MSFが支援する給水地点の一つ。水を塩素消毒しており、安全な飲み水を供給するとともに、コレラの感染拡大を防いでいる=コンゴ東部で2026年7月15日 © MSF
MSFが支援する給水地点の一つ。水を塩素消毒しており、安全な飲み水を供給するとともに、コレラの感染拡大を防いでいる=コンゴ東部で2026年7月15日 © MSF


MSFのゴマ副医療コーディネーター、イバン・ムバンギ医師は、どの病気による死も等しく防がなければならないと強調する。

私たちが支援する家族にとって、危機に優先順位はありません。子どもの命を奪うのがはしかやマラリアであろうと、誰かがコレラやエボラで亡くなろうと、一人一人の命が大切なのです。

MSFのゴマ副医療コーディネーター イバン・ムバンギ医師

MSFは、これらの感染症への対応に加え、北キブ州のマシシ、ムウェソ、ワリカレ、バンボ、キビリジ、キロチェ、ゴマ、ルチュルと、南キブ州のミノバ、ブニャキリ、ウビラで、地域住民に欠かせない医療を提供し続けている。

しかし、その対応規模は、膨大なニーズに遠く及ばない。最も弱い立場に置かれた人びとが医療を受けられるようにするには、保健当局と人道援助団体による一層の取り組みが必要だ。

コレラの感染拡大を防ぐため、水をきれいにする塩素消毒設備が設置された川で遊ぶ子どもたち=コンゴ東部で2026年7月15日 © MSF
コレラの感染拡大を防ぐため、水をきれいにする塩素消毒設備が設置された川で遊ぶ子どもたち=コンゴ東部で2026年7月15日 © MSF

増える人道ニーズ、減る援助資金

さらに、人道援助の資金が減少している問題にも直面している。

とりわけ懸念されるのは、低・中所得国の感染症対策に資金を提供する「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」(本部・スイス)による、今後3年間のマラリア対策支援の対象から北キブ州が外される可能性があることだ。

マラリアは、コンゴでいまも最も多くの人がかかる病気だ。戦闘によって避難を余儀なくされた多くの家族は、森林や人里離れた地域に身を寄せている。そうした場所では蚊に刺される危険性が高い一方、医療を受けられる機会は極めて限られる。

コンゴ東部・南キブ州の州都ブカブを見下ろす丘陵地帯と川の光景。MSFはこの地域で活動している=2026年7月15日 © MSF
コンゴ東部・南キブ州の州都ブカブを見下ろす丘陵地帯と川の光景。MSFはこの地域で活動している=2026年7月15日 © MSF


ムバンギ医師は、マラリア対策の縮小がもたらす危険をこう訴える。

この地域で最も多くの命を奪っている病気への対策が縮小する恐れがあります。エボラ流行への対応に多くの資源を投入する一方で、エボラよりもはるかに多くの命を日々奪っているマラリアへの対応を弱めるとすれば、本末転倒になってしまいます。

MSFのゴマ副医療コーディネーター イバン・ムバンギ医師

南北キブ州の保健医療体制は、すでに深刻な状況にある。長年にわたる紛争と慢性的な治安悪化、大規模な住民避難に、人道援助資金の大幅な削減が重なり、医療を提供する力が著しく損なわれている。

多くの病院や診療所は、人手や医薬品、医療機器が不足し、限られた体制での運営を余儀なくされている。そのうえ、暴力のために活動を止めた施設もある。一部の地域では、いまも数十万人が安定して医療を受けられずにいる。

エクリーは、特定の危機だけに対応を集中させてはならないと強調する。

コンゴ東部では医療・人道ニーズが拡大しています。私たちは当局、資金拠出者、すべての人道援助団体に対し、人びとの幅広いニーズに応える支援を続け、さらに強化するよう求めます。あらゆる緊急事態に同時に対応することが極めて重要なのです。

MSFの南キブ州活動責任者 ジョシュア・エクリー

コンゴ・南キブ州における感染症流行への対応を強化するため、新たに設置されたコレラ治療センター=2026年7月14日 © MSF
コンゴ・南キブ州における感染症流行への対応を強化するため、新たに設置されたコレラ治療センター=2026年7月14日 © MSF

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