差別、家族からの離縁、深まる孤独……性暴力の見えない影響
2021年08月03日「性暴力の被害者は、病気がなくても『体中が痛い』とよく訴えます。私たちはこの訴えをきっかけに、心のケアを開始します」
こう話すのは、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)にある国境なき医師団(MSF)の診療所で、心のケア活動を率いるコルネイユ・カンガンギラ。「性暴力が与える影響は身体的なものにとどまりません。それは目に見えない痛みなのです。レイプだけでなく、周りの人からの拒絶も加わると、さらに大きなトラウマ(心の傷)を抱えることになります」
衝撃的な数の性暴力被害
1万810人──2020年にコンゴで性暴力に遭い、MSFの治療を受けた患者の数だ。その大部分は女性で、未成年者は2割近くを占める。ただこの衝撃的な数字でさえ、氷山の一角に過ぎないだろう。助けを求めることも、誰かにも打ち明けることもできず一人で苦しんでいる人が、あとどれくらいいるかは知れないからだ。
MSFが出会った患者は皆、毎日悲しみに耐えていた。この国でまん延する性暴力を受けた被害者は、心身の傷と、さらに社会的差別や経済面での排除という、何重もの苦しみを味わうからだ。辛い日々を生き延びてきた人たちに話を聞いた。
家族の目の前でレイプされ…/レオニーさん(仮名、40歳)
生き延びるために道は一つしかなかった/フェリシテさん(仮名、19歳)
幼い我が子から引き離された/ジャンヌさん(仮名、28歳)
田舎にいる年老いた両親は助けが必要です。私は食べ物を持って、両親のところへ出かけました。その道中で武装した5人の男に捕まり、地面に投げつけられました。2人が私をレイプし、残りの3人は終わるまで見張っていました。彼らは、私が持っていたもの全てと、わずかなお金も奪っていきました。
できる限り身づくろいをしてから家に戻りましたが、体は痛いところだらけでした。家に帰ってから夫にこの出来事を話すと、夫は私を追い出し、3人の子どもたちとも引き離しました。子どもたちは叔母に預けられてしまった上に、面会も許されていません。2歳から6歳の、まだとても小さな子どもなのです。