バングラデシュ:ロヒンギャ難民キャンプでC型肝炎が蔓延──国境なき医師団が3万人治療へ大規模キャンペーン開始
2025年05月30日
バングラデシュ南東部コックスバザールにあるロヒンギャの人びとが暮らす難民キャンプで、C型肝炎ウイルスの感染拡大が深刻だ。
国境なき医師団(MSF)は4月から、治療対策を大幅に強化し、2026年末までに3万人への医療提供を目指す大規模なキャンペーンを始めている。
成人の5人に1人が患者に
C型肝炎は治療できる感染症だが、放置すると命に関わる危険性もある。
このキャンペーンは、C型肝炎の感染状況が深刻な無国籍のロヒンギャ難民に治療を届けられるよう始まった。MSFはキャンプ内にある既存の医療施設に専門の治療センター3カ所を設置。検査と治療の両方に取り組み、C型肝炎感染者のおよそ3分の1を支援する見込みだ。
MSFは2020年10月から2024年12月の約4年間に、「丘の上の病院」とジャムトリ難民キャンプの診療所の2カ所で1万人超のC型肝炎患者を治療した。
2023年に実態調査をしたところ、推計で8万6000人の成人が慢性活動性のC型肝炎となっていることが判明。成人全体の約5人に1人が患者という計算になり、この調査結果は国際的な英医学誌「ランセット」の姉妹誌で2025年4月に発表された。現地では一刻も早い対応の強化が求められている。

「このキャンプには過去8年間に渡って100万人を超える難民が暮らしてきました。ただ、C型肝炎の治療を受けられる機会は極めて限られています」。対応に当たるMSFの副医療コーディネーター、ワシム・フィルーズ医師はこう語る。
「キャンプの医療施設には既に過重な負担がかかっていて、C型肝炎の治療にまで手が回りません。かといって人びとがキャンプを出て医療を受ける自由はなく、仮に出られたとしても治療費を払う経済的な余裕もないのです」
検査と治療、啓発──包括的な対応を
キャンプは大勢の人びとであふれ、住環境は劣悪だ。基本的な人権は厳しく制限され、医療の提供も不十分だ。こうした状況が重なり、人びとはミャンマーとバングラデシュの両国でC型肝炎などの感染症にかかりやすい状況に置かれている。
C型肝炎は血液を介して感染する。MSFの調査によれば、キャンプで長年に渡って注射器の使いまわしなどの危険な医療慣行が続いたことが、感染拡大の主な要因だった可能性がある。
今回のキャンペーンで、MSFはC型肝炎の早期発見を目指し、地域ごとの集団検診を実施している。感染初期に自覚症状が全く出ないため、まずは簡易な検査をして、続いてキャンプ内に設けた専門の治療センターで、改めて正式な検査をして診断を確定させる。
また、MSFは包括的な医療キャンペーンを展開している。治療薬の提供と、服薬指示を順守できるよう説明し納得をえること、さらには感染予防に関する情報発信をしている。
キャンプで暮らす何万もの人びとにとって、私たちの他にC型肝炎の治療を受ける選択肢がありません。MSFは2026年末までに3万人に医療を届けることを目指しており、特に若い世代への感染防止につながると信じています。
ワシム・フィルーズ医師 MSF副医療コーディネーター

医療拡充へ、継続的な連携を
キャンプの医療体制には限界があり、C型肝炎の感染状況に対応する上で大きな課題となっている。MSFはキャンペーンの一環として医療体制の課題を分析し、解決策を見出すための調査研究も実施する方針だ。
フィルーズ医師は今後の課題について「私たちは現在、他の組織と連携しながら対応を強めていますが、医療体制には依然として大きな制約があります。特に、人員や医療機器、資金といった面での不足が深刻です」と指摘。その上で、「今回の取り組みはあくまで一時的なもので、C型肝炎を根絶できるわけではありません。こうした対応はキャンペーン終了後も続けるべきです」と強調する。
他の医療・保健パートナーや国際社会に改めて呼びかけます。ロヒンギャの人びとの社会に壊滅的な影響をもたらしているC型肝炎に対し、私たちは課題としてもっと力を入れて取り組む必要があります。
ワシム・フィルーズ医師 MSF副医療コーディネーター
