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【報告】日本超音波医学会第98回学術集会/世界超音波医学生物学学術連合第20回国際会議で、国境なき医師団がランチョンセミナー「The usage of Ultrasonic in the project of Médecins Sans Frontières (MSF)」を開催

2025年06月12日
ランチョンセミナー登壇者。左から久留宮医師、塚本医師、岡田医師 © MSF
ランチョンセミナー登壇者。左から久留宮医師、塚本医師、岡田医師 © MSF

2025年5月30日~6月1日に京都で開催された日本超音波医学会第98回学術集会/世界超音波医学生物学学術連合第20回国際会議(WFUMB2025)で国境なき医師団(MSF)がランチョンセミナーを開催しました。

座長を務める岡田医師 © MSF
座長を務める岡田医師 © MSF
本セミナーでは「The usage of Ultrasonic in the project of Médecins Sans Frontières (MSF)」として、MSFの岡田まゆみ医師(救急医)が座長を務め、久留宮隆医師(外科医)、塚本裕医師(内科医)がそれぞれの活動地における超音波機器の使用について語りました。
講演する塚本医師 © MSF
講演する塚本医師 © MSF
一人目の登壇者である塚本医師は、ケニアバングラデシュにおける活動について報告しました。ケニアでは、HIV結核をはじめ、糖尿病や高血圧といったさまざまな疾患の診察にあたりました。CTやMRIの装置はあったものの、緊急での撮影ができない、経済的な理由により検査費用を負担できないため検査ができないなど、十分に活用することができない状況でした。

バングラデシュではミャンマーからの避難民に対する医療援助活動を行い、レントゲンが使用できない状況で、肺炎、デング熱、C型肝炎や肝硬変、脳卒中などの診察にあたりました。この活動においては、エコーが貴重な画像診断検査であり、非常に有用であったことが症例を用いて報告されました。

いずれの活動においても、医療資源が限られているなかで超音波診断を用いることは非常に重要であると伝えました。
講演する久留宮医師 © MSF
講演する久留宮医師 © MSF
外科医として数多くの医療援助活動に参加している久留宮医師は、外科医からみた超音波診断の有用性について報告しました。
 
MSFの医療援助活動の現場は、資源に乏しい環境であることがほとんどで、豊富な医療機器による高度な診断・治療環境を期待することはできません。この状況下でPOCUS (ポイントオブケア超音波)の重要性とそのトレーニングと効果について話しました。POCUSは、MSFのような現場では迅速に診断を絞り込みやすくすることができ、治療までの時間を短縮し、コスト削減にもつながるため、有益であることを伝えました。
 
また、2024年12月から2025年1月に活動した南スーダンにおける実際のPOCUSによる診察について、銃撃により負傷した症例などを紹介しながら報告し、超音波検査が医療援助活動で手術を実施する際に非常に有用であったことを伝えました。
質疑応答の様子 © MSF
質疑応答の様子 © MSF
質疑応答では、ケニアの医療体制についての質問があがり、塚本医師はケニアの人びとは基本的な診療・治療費は支払うことができるが、CTやMRIといった精密検査の費用の支払いは難しいと伝えました。ケニアの保険制度は非常に複雑で困難な状況であり、まだ多くをカバーできていないと、ケニア出身の参加者からのコメントもありました。
 
また、「リソースが限られている中で、初めて超音波を用いるようになった状況はどのようなものだったか」という質問に対し、久留宮医師は自身が医療援助活動を開始した当初は画像検査も採血検査もなく、ほぼフィジカルアセスメントのみで診断する必要があり、これまでの医師としての経験が活きたと回答しました。その後、レントゲン検査ができるようになり、さらに近年ようやく超音波検査も実施できるようになってきたと回答しました。
 
また、「現地のコメディカルスタッフに対するPOCUSトレーニングには、検査技師や医療エンジニアなども含まれるのか」という質問に対しては、久留宮医師は通常、他の国では日本の規制とは異なるため、検査技師でなくても超音波検査が可能であり、Clinical Officer*が対応することが多いと回答しました。
 
会場には医師、検査技師、超音波診断士、医療機器メーカーの方など、さまざまなバックグラウンドの方が参加してくださり、満席となりました。多くの方がMSFにおける超音波の使用について関心が高いことがうかがえました。
 
また、アンケートではほぼ全員が内容について「良かった」と答え、医療資源の限られた現場での超音波使用については「理解が深まった」と回答。「自分もぜひ参加したい」「POCUSのトレーニングを現地の医療スタッフに実施することは素晴らしい活動だと思う」などの言葉が寄せられました。
 
*Clinical Officer:医師に準じた医療行為ができる医療職

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