アフガニスタン:子どもを襲う感染症や栄養失調──命をつなぐ救急医療の最前線

2025年12月11日
国境なき医師団(MSF)が支援するアフガニスタンのアブ・アリ・シナ病院の小児集中治療室で、医師のケアを受ける子ども=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF
国境なき医師団(MSF)が支援するアフガニスタンのアブ・アリ・シナ病院の小児集中治療室で、医師のケアを受ける子ども=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF

「息子のウマルが初めてはしかにかかったとき、とても高い熱が出て、目を開けることもできず、泣き続けていました」と、アフガニスタン北部の山間部で暮らしてきたファルザナ・イスマイルさんは語る。

「症状は深刻で、発疹が出てから5日間、目を閉じたまま泣き続けていたのです。ようやくはしかが治ったと思った矢先、肺炎を発症し、さらに悪化しました」

ファルザナさんは最初、ファリヤーブ州メイマナにある病院に息子を連れて行き、6日間入院させた。しかし改善しなかったため、北部の主要都市バルフ州マザリシャリフにある私立病院に移った。ここまでの治療に、計約1万8000アフガニ(約4万2300円)を費やしたという。

でも、この国境なき医師団が支援する病院の小児病棟に連れてきてからは、すべての治療が無料です。

ファルザナ・イスマイルさん アフガニスタン北部の山間部で暮らす女性

人びとを苦しめる“医療の空白”

マザリシャリフでは、無料かつ質の高い医療へのアクセスは依然として深刻な課題となっている。

強固な医療体制が切実に求められているにもかかわらず、ファルザナさんのような地域社会に暮らす人びとは、一次医療から専門治療──例えば、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)、予防接種プログラム、心のケアや心理社会的支援、緊急の医療紹介など、あらゆるサービスを受ける上で大きな障壁に直面している。

こうした医療の空白は、人びとの健康に長期的かつ甚大な影響を及ぼす恐れがある。

国境なき医師団(MSF)は予防可能な死を減らし、人びとの健康を守るためには、医療インフラの整備や医療従事者の育成など、包括的な支援の必要性を目の当たりにしている。同時に、人びとが医療にアクセスできない原因となっている、社会的・経済的・文化的な障壁への対処も不可欠だ。

MSFが支援するアブ・アリ・シナ病院の新生児病棟で治療を受ける三つ子の赤ちゃん=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF
MSFが支援するアブ・アリ・シナ病院の新生児病棟で治療を受ける三つ子の赤ちゃん=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF

医療アクセスを阻むインフラ不足と経済的な壁

「娘のアスマを最初はダウラタバードの開業医に、その後メイマナ、さらにアンドホイへと連れて行きましたが、症状は改善しませんでした」と母親のアイシャさんは話す。

「薬を飲むと数日は良くなるのですが、またすぐに具合が悪くなるのです。ある医師は胃の問題だと言い、別の医師は貧血だと言いました。これまでに治療費として約5000〜6000アフガニ(約1万1800~1万4100円)を支払っています。最終的に、MSFが支援するアブ・アリ・シナ病院に連れてきました」

この地域全体で、多くの医療施設が資源不足と人員不足に陥り、さらに、地理的なアクセスの困難さが、特に遠隔地のコミュニティにとって大きな問題となっている。バルフ州では、機能している医療センターが限られているため患者が集中し、病棟は常に過密状態で、長い待ち時間とスタッフの過重労働を招いている。

患者で混み合うアブ・アリ・シナ病院の救急室=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF
患者で混み合うアブ・アリ・シナ病院の救急室=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF


特に深刻なのは、マザリシャリフ周辺の農村部に暮らす人びとだ。これらの地域では、資金不足により医療が停止または中断されている。

そのため、人びとは整備されていない道路を長距離移動し、わずかな収入から交通費を捻出して、機能している診療所にたどり着かなければならない。この負担は、出産を控えた女性、慢性疾患の患者、そして急性疾患を抱える子どもに、特に重くのしかかっている。

こうした患者は、迅速かつ専門的な治療を必要とすることが多いが、効率的な紹介システムが存在しないため、より高度な治療へのアクセスは困難だ。バルフ州では、患者の紹介システムがしばしば機能不全に陥っており、多くの医療従事者が患者を二次・三次医療施設へ適切に紹介するための資源や知識を持っていない。

さらに、交通の不便さや一部地域の治安悪化が問題を複雑化させ、専門施設への搬送が遅れたり妨げられたりしている。

こうした医療体制の欠陥は、予防可能な病気や死亡のリスクを増大させている。肺炎、下痢、栄養失調といった予防可能な疾患による乳幼児および5歳未満児の高い死亡率は、医療へのアクセス改善の必要性を浮き彫りにしている。

MSFが支援するアブ・アリ・シナ病院の新生児集中治療室で、我が子を抱く母親=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF
MSFが支援するアブ・アリ・シナ病院の新生児集中治療室で、我が子を抱く母親=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF

週3000人をトリアージ──子どもを守るMSFの救急医療

MSFは2023年8月、保健省と協力し、マザリシャリフのアブ・アリ・シナ病院の支援を開始した。子どもに専門的な医療を提供するため、病院の機能強化に取り組んでいる。支援の対象としているのは、小児集中治療室(PICU)、新生児集中治療室(NICU)、はしか隔離室、そして14歳までの子どもの救命治療を行う救急室だ。

こうした取り組みにより、重症および救急医療の質を向上させ、地域の子どもや新生児の死亡率を低下させることを目指している。

栄養失調の赤ちゃんを診察するMSFの医師 © Zahra Shoukat/MSF
栄養失調の赤ちゃんを診察するMSFの医師 © Zahra Shoukat/MSF
MSFはまた、PICU、NICU、新生児病棟への支援を継続しながら、緊急時の対応体制も整えている。

2025年11月3日にマザリシャリフを襲った地震では、MSFは保健省と連携し、緊急対応計画を発動した。被災地域への医療物資の提供に加え、アブ・アリ・シナ病院への重要な医療資材を寄贈し、負傷者への迅速かつ効果的な治療を確保した。

プロジェクト開始から2年間で、MSFは施設での患者数が大幅に増加していることを確認している。トリアージを受ける子どもは毎週、約3000人に上る。患者は病院に到着後、症状の重症度に応じて色分けされたトリアージシステム──赤は重症、黄は中等症、緑は軽症で分類される。

重症の子どもや新生児には直ちに救命処置が行われ、中等症の患者も迅速な評価と緊急治療を受ける。黄や緑に分類された患者は、経過観察のため保健省の施設へ紹介される。

瀕死の子どもたちが次々と──止まらない医療ニーズ

NICUは154床、PICUは38床、はしか隔離室は28床を備えているが、入院患者が非常に多いため、1つのベッドを複数の子どもが共有する状況は珍しくない。限られたスペースの中で、すべての患者に迅速な治療を提供するため、こうした対応を取らざるを得ないのだ。

子どもが遅れて到着したり、家族が他院での治療費を負担できなかったりした場合、症状が急速に悪化する様子をMSFは目の当たりにしている。多くの小さな患者が、はしか、肺炎、重度の栄養失調など、命に関わる状態でやって来るのだ。

今年10月だけで、PICUとNICUには計1211人、はしか隔離室には95人を受け入れた。MSFは新生児敗血症や結核、その他の重度の感染症や呼吸器疾患など、幅広い症状の治療にあたっている。

2023年以降、MSFは36万6002人をトリアージし、14歳以下の小児患者8477人以上に治療を提供した。さらに、集中治療室で1万7853人の新生児、はしか隔離室で6417人を受け入れ、救急外来では12万2143件の診療を行った。

アブ・アリ・シナ病院の救急室に搬送された子どもをケアするMSFの看護師=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF
アブ・アリ・シナ病院の救急室に搬送された子どもをケアするMSFの看護師=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF

家族へのケアや感染予防対策も実施

子どもが入院すると、家族(多くは母親)が病院に付き添い、ケアを行い、精神的な支えとなる。MSFは個別やグループでの定期的な健康教育を通じて、付き添う家族と積極的に関わっている。これにより、家族は子どもの病状や治療の過程について理解を深め、衛生管理や感染予防の習慣を身につけることができる。

MSFはまた、子どもの入院にともなう家族の精神的負担や不安を認識し、心理社会的支援や心のケアも提供している。専任のカウンセラーやスタッフがセッションを行い、入院期間中に家族がストレスに対処し、レジリエンスを高められるようサポートしている。

患者とスタッフにとって安全で衛生的な環境を確保するため、病院全体で感染予防管理(IPC)対策を実施するのもMSFの役割だ。その一環として、MSFはアブ・アリ・シナ病院に完全装備のランドリー施設を建設してIPCの実践を強化し、院内感染のリスク低減に取り組んでいる。

アブ・アリ・シナ病院で、新生児の母親や介護者に健康に関するセッションを行うMSFのヘルスプロモーター=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF
アブ・アリ・シナ病院で、新生児の母親や介護者に健康に関するセッションを行うMSFのヘルスプロモーター=2025年7月2日 © Zahra Shoukat/MSF

命をつなぐ現場に、途切れない支援を──

ここ数カ月、資金削減と患者数の増加が重なり、医療体制に大きな負担がかかっている。

MSFは独立した資金調達モデルのため、直接的な影響は受けていない。一方で、救命医療を継続し、患者が必要な治療を受けられるようにするには、持続的な資金と支援が必要だとMSFは訴える。

人道援助団体や国際機関による継続的な投資は、サービスの質を維持し、医療従事者の疲弊を防ぎ、そして、子どもたちの健康を守るために不可欠だ。

アブ・アリ・シナ病院の新生児集中治療室で、栄養剤の投与を受ける赤ちゃん=2025年6月30日 © Zahra Shoukat/MSF
アブ・アリ・シナ病院の新生児集中治療室で、栄養剤の投与を受ける赤ちゃん=2025年6月30日 © Zahra Shoukat/MSF

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