医療は私たちの使命──タリバンに制圧されたアフガニスタンで援助を続ける

2021年09月14日掲載

MSFが運営する入院栄養治療センターに入院中の赤ちゃん=2020年 © Waseem Muhammadi/MSFMSFが運営する入院栄養治療センターに入院中の赤ちゃん=2020年 © Waseem Muhammadi/MSF

武装勢力タリバンが実権を掌握したアフガニスタンで、国境なき医師団(MSF)は現在も5つの州で医療活動を継続している。そのうちの1つ、ヘラート州ヘラート市で、MSFは地域病院の入院栄養治療センター(ITFC)、避難民のための診療所、新型コロナウイルス感染症治療センターを運営し、不安定な状況下で人びとの医療ニーズに応えている。

他の国際機関が安全や資金面での懸念を理由に業務を停止する中、MSFは現在ヘラート一帯で唯一活動を続ける国際団体となった。ヘルマンド州ラシュカルガとホースト州ホーストからの報告に続き、ITFCに勤務するMSFの医療スタッフが、現地における医療の状況と、戦闘が収束した後の援助継続について語った。 

MSFはヘラート州、ヘルマンド州、カンダハル州、ホースト州、クンドゥーズ州で医療活動を継続MSFはヘラート州、ヘルマンド州、カンダハル州、ホースト州、クンドゥーズ州で医療活動を継続

戦闘の翌朝、病院に行ってみると

前線が近づくにつれて人びとの間には不安と恐怖が広がり、多くの人が自宅にとどまっていました。ヘラートがタリバンに完全に制圧されたのは、市内で本格的な戦闘が始まって3時間ほどたった頃です。

翌朝、私はITFCをサポートするために病院に行きました。病院には人がまばらで、多くの人が、街の状況や、病院が診療を続けているのかどうか知らないようでした。私たちはまず患者さん全員に薬を配り、その後スタッフに連絡して、街は通行可能だから出勤しても大丈夫だと伝えました。数時間後には全てのスタッフがそろい、患者さんの治療にあたりました。

出勤してきた同僚の中には、心配した近所の人に「家にいたほうがいい」と言われた人もいました。しかし彼らはこう説明したそうです。「私たちの仕事は命を救うことであり、他の医療機関が閉鎖しているいまだからこそ、その使命を果たさなければいけない」と。多くのスタッフがそうした思いを持っていることは、本当に頼もしいと感じました。

戦闘が始まる前、ITFCには95人の栄養失調の子どもたちが入院していました。ベッドは42床しかなかったので、テント式の仮設病棟を設置して18床増やしたのですが、それでも定員を大幅に超えていました。戦闘中は60人くらいまで減少したものの、その後再び増え、現在の入院患者数は80人ほどです。

避難民キャンプには患者が殺到

ヘラート郊外の避難民キャンプにあるMSFの診療所=2019年
© Adhmadullah Safi/MSFヘラート郊外の避難民キャンプにあるMSFの診療所=2019年
© Adhmadullah Safi/MSF

MSFはまた、近隣のバドギース州やファラー州から避難してきた人びとが多く身を寄せるキャンプの近くで、診療所を運営しています。

ヘラート陥落後最初の日曜日には、大勢の患者が私たちの診療所を受診しました。他団体の多くが、安全上の懸念や給与を支払えないことを理由に、業務を停止していたからです。MSFは幸いスタッフ全員の給与の支払いができているので、皆落ち着いて自分たちの仕事に専念しています。

医師2人で始めたここでの診療は、いまは4人体制になりました。診療所には多くの患者が訪れ、1人の医師が1日に150人以上を診察するような日もあるため、重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めるトリアージを行っています。

「私たちを信じて、治療させてほしい」

ヘラート州の入院栄養治療センターで赤ちゃんを
診察する医師=2020年 © Waseem Muhammadi/MSFヘラート州の入院栄養治療センターで赤ちゃんを
診察する医師=2020年 © Waseem Muhammadi/MSF

ITFCの栄養失調患者で、とても貧しい家の子どもがいました。以前その子の父親から、10アフガニ(約14円)も持っていないと聞いていたので、どうやって病院までたどり着くことができたのか尋ねたところ、彼らは羊や牛を売ってそのお金を交通費に充てたそうです。こうしたケースは決して珍しくなく、お金を工面するために、やむなく親戚から借金をする人もいます。

また、皮ふの移植手術を受けるためにヘラート地域病院に入院していた2歳半の男の子は、ヘラートから約250キロメートル離れたバドギース州出身で、ひどい栄養失調にも陥っていたため、手術よりも先にITFCで栄養失調の治療をすることになりました。入院中、その子の父親が「もう1カ月半もたつのに息子はなぜまだ具合が悪いのか」と私たちに何度も聞きにきたのです。そこで栄養失調の治療の内容や手順、経過観察などを詳しく説明し、私たちを信じて治療させてほしい、と頼みました。

治療の結果、男の子は退院できるまでに回復しました。元気になったわが子を目にした父親は、本当に喜んでいました。

それからというもの、この父親から少なくとも月に1度、「あなた方の治療に感銘を受けた。皆さんによろしく伝えてほしい」という電話をもらいます。ヘラートが戦闘に巻き込まれたときも、タリバンに制圧されたときも、私たちの身を案じてくれました。 

ヘラートで診療を続ける唯一の国際団体として

タリバンによる政権奪取を受け、世界銀行はアフガニスタンへの財政支援を一時停止しました。それまで援助機関や団体から資金を受け取っていた医療施設は、運営を継続できなくなり、現在ヘラートで活動を続けている国際団体はMSFだけです。今後の見通しは立っておらず、他団体のスタッフの中には、何カ月も給与が支払われないため、別の仕事を探すという人も少なくありません。

先行きが見えない中、仕事量も責任も以前より増えて、皆が疲弊しています。以前は他の医療機関に引き継ぐこともできましたが、いまはそれもままなりません。けれども医療サービスの提供は、私たちの使命です。たくさんの患者さんの命が、私たちにかかっているのですから。

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