11人目の赤ちゃんを出産後、心肺停止した母親に起こった「奇跡」

2018年11月07日掲載

MSFの産婦人科医セヴリン・キャルワーツ医師(左) 
© Najiba NooriMSFの産婦人科医セヴリン・キャルワーツ医師(左) 
© Najiba Noori

「ある朝、病院に運ばれてきた女性のことが忘れられません」。アフガニスタン東部ホースト州からベルギーに帰国した産婦人科医セヴリン・キャルワーツ医師はこう振り返る。国境なき医師団(MSF)が現地で運営する産科病院で、通算9回目となる活動を終えたばかりだ。

アフガニスタンは、出産による死亡率がアジアで最も高いことで知られている。不安定な治安状況や道路事情によって病院にかかれないことが多く、MSFの産科病棟に危篤状態の患者が運び込まれるケースも珍しくない。

「この病院での仕事が私の人生を変えた」というキャルワーツ医師。その鮮烈な体験をつづった。 

夜明けとともに搬送されてきた急患

その日の朝、病院の門を突っ切って、出血多量の患者が運び込まれた。夜間に11人目の子となる赤ちゃんを自宅で産んだ後、出血し始めたのだという。胎盤はまだ胎内にあった。

手術室に運ばれた女性患者 © Aurelie Baumel/MSF手術室に運ばれた女性患者 © Aurelie Baumel/MSF

本来であれば、出血が始まった時点ですぐに処置すべきだった。なぜ、来院が何時間も遅れたのか?ここアフガニスタンで、夜に移動するのは危険すぎる。家族は夜が明けるのを待って病院へ車を飛ばすしかなかったのだ。  

その患者さんは顔面蒼白で全く息をしておらず、既に亡くなっているように見えた。でも、何とか命を救えるよう力を尽くさなければ……。 

アフガニスタンには未舗装の道路が多く、けがや病気のときに素早く病院に向かうことが難しい © Andrea Bruce/Noor Imagesアフガニスタンには未舗装の道路が多く、けがや病気のときに素早く病院に向かうことが難しい © Andrea Bruce/Noor Images

治療を諦めかけたそのとき……

大急ぎで女性を集中治療室に運んだ。脈は取れず、血圧もない。蘇生処置をしたが、20分でやめようと考えた——それ以上やってもむだだからだ。女性は息を引き取った。

「ひどすぎる」と心の中でつぶやいた。この人はこの世を去る。11人の子どもを家に残して……。お母さんが亡くなれば、夫や子どもの人生も壊れる。母親は家族にとって多大な影響力を持つのだ。 

ホースト産科病院の手術室 © Andrea Bruce/Noor Imagesホースト産科病院の手術室 © Andrea Bruce/Noor Images

そのとき、突然ごくかすかな脈が現れた。私たちは輸血を始め、2度、3度と繰り返し、合計4パック分注入した。血圧が上がりだしたので、大急ぎで手術室に運ぶ。多量の出血だった。子宮は摘出するほかなかった。 

奇跡的に、バイタルサインは改善しだした。容体が安定し始めたのだ。出血量も減っていき、やがて止まった。命をつなぎとめるため、最後に10パック分を輸血した。 

ホースト産科病院で緊急手術を行うMSFの産婦人科医 © Andrea Bruce/Noor Imagesホースト産科病院で緊急手術を行うMSFの産婦人科医 © Andrea Bruce/Noor Images

その女性は、5日後に帰宅した。今でも信じられない——まず無理だと思っていたから。でも、女性は生きながらえた。闘い抜いたのだ。私がアフガニスタンで出会ってきた大勢の女性たちと同じように。
 
ここホースト州では、このような話は珍しくない。MSFの産科病棟では、驚異的な出来事が毎日起きているのだ。

MSFは2012年にホースト産科病院を開院。医療資格を持つ女性スタッフと専門的な医療設備を配し、質の高い産科医療を無償で提供している。対象となる地域人口は150万人。分娩件数は増え続けており、2017年、同州における出生数の約4割にあたる2万3000人近くがこの病院で産声を上げた。 

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