新しい命が今日もこの世界に 混乱のアフガニスタンで月2000件の出産を支える産科病院

2022年01月11日
2022年1月1日、ホースト州の産科病院で今年最初に誕生した3人の赤ちゃん © Katharina Thies/MSF
2022年1月1日、ホースト州の産科病院で今年最初に誕生した3人の赤ちゃん © Katharina Thies/MSF

女性のための女性の病院──。そう言われる病院が、深刻な人道危機下のアフガニスタン・ホースト州にある。国境なき医師団(MSF)が2012年から無償で医療を提供している産科病院だ。医師や助産師、清掃スタッフなど、200人を超える女性スタッフが妊産婦と赤ちゃんを支える。

タリバンが政権を奪取したことにより海外からの資金援助が停止し、多くの病院が閉鎖に追い込まれる中、いまも運営を継続。混乱する社会の中で、どのような思いで命の誕生に立ち会っているのか。スタッフの声を伝える。 

懐中電灯で手術する病院も

アフガニスタンは、妊産婦死亡率が世界で最も高い国の一つだ。特に大都市から離れた農村部では、必要最低限の医療も受けられない女性が少なくない。さらに、女性の助産師や医師の不足が事態の悪化に拍車をかけてきた。

もともと困難な状況であった上に、医療体制への資金削減や暫定政権に対する経済制裁により、厳しい財政難に陥っている。医師がいても給与が支払えない、物資が手に入らないという状況が続く。一部の資金援助は再開されたものの、医療体制の大幅な改善は見込めない。

「見る見るうちに、アフガニスタンの医療体制が崩れていったのです」と話すのは、ホースト州でMSFのプロジェクトコーディネーターを務めるルー・コーマックだ。

「物資の流れが途絶え、公立病院では薬の在庫は減る一方でした。地元の病院では、懐中電灯の明かりで手術をしているという話も耳にしました。資金援助が止まる前から既に苦境にあった公的医療体制は、ほぼ全ての機能を失ったと言えます」 

妊産婦や病気を患う人など、多くの人びとが医療を受ける場を失った © Oriane Zerah
妊産婦や病気を患う人など、多くの人びとが医療を受ける場を失った © Oriane Zerah

病院スタッフの過半数が女性

MSFは民間からの資金に支えられているため、このような時も各国政府の意向によらず必要な医療を届け続けることができる。現在MSFは、ホースト州をはじめとする複数の地域で医療援助活動を続けている。

 
ホースト州でMSFが運営する産科病院は、現在450人のスタッフのうち半数以上を女性が占める。アフガニスタンのこの地域に女性のチームがあることは大切だ。現地の文化に従って男女の接触を避けることで、患者が安心して治療を受けられるようになるからだ。
 
ホースト産科病院は、ベッド数60床の入院部門、8床の分娩室、10床の新生児集中治療室を含む28床の新生児室、2つの手術室、母親が赤ちゃんとスキンシップをとるカンガルーケアの専用エリアなどで構成されている。また、新生児の予防接種や家族計画相談、健康教育活動なども行っている。
 
この産科病院は設立当初から、合併症をもつ妊産婦の対応に重点を置いてきた。しかし8月の政変による混乱で人びとの医療アクセスが困難となったことを受け、入院基準を広げ、あらゆる妊婦を受け入れている。分娩介助件数は、2021年9月に約1650件、11月には2000件を超えた。 

新生児を診る小児科医。450人の病院スタッフのうち半数以上を女性が占める © Oriane Zerah
新生児を診る小児科医。450人の病院スタッフのうち半数以上を女性が占める © Oriane Zerah

出産を助けるという喜び

アフガニスタン人の助産師であるアキラはこう話す。「患者さんの数はここ数カ月間増え続けています。公立の医療施設が閉鎖されてしまい、かといって私立病院の医師に診てもらうのは非常に高くつくからです。それで無償のこの病院に来る人が増え、最近では1回の勤務で73件の分娩があったほどです。

 
経済的余裕がなくて医療を受けられず、自宅で出産した場合、出血を伴う合併症や妊娠に伴う重度の高血圧などを診断する人がいなく、リスクが高いのです」
 
さまざまな医療施設で、必要な資金が届かなくなったにもかかわらず、医療従事者は最善を尽くして妊娠中の女性のケアを続けようとしている。MSFはそのような地域の診療所の支援も行っている。
 
「私たちは、ホースト州の農村部にある8カ所の診療所の分娩室を支援してきました。最近では、夜間も稼働できるよう、燃料の追加なども行いました。また、必要な薬や衛生用品、赤ちゃんが暖かく過ごすための帽子などのキットも渡しています」
 
資金援助は徐々に戻り、ホースト州で診療所を運営している団体は、現在、1月までの資金援助を受けている。これらの診療所が完全に機能し、再び地域の人びとに利用されるようになれば、MSFの産科は入院基準を元に戻し、合併症のリスクがある妊産婦を中心にケアを行っていく。しかし、1月以降はまだ先行き不透明だ。
 
アフガニスタンにとって不確かな時期のいま、人びとは医療を受ける上で大きな困難に直面している。だが、助産師のアキラは女性たちを助けることで自分も大きな安心感を得ていると話す。
 
「私は、この地域で出産する女性たちを助ける仕事が好きです。MSFの産科は女性たちにとって安全で素晴らしい場所です。私もここで自分の赤ちゃんを産みました。赤ちゃんを産むお母さんの手助けをすることが私にとっての喜びです。苦難の最中にある女性たちに、深い思いを寄せています」

新生児のケアに当たる助産師 © Oriane Zerah
新生児のケアに当たる助産師 © Oriane Zerah

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