「みな同じ空の下なのに」 小児科医が語る、紛争地で生きる母子への思い

2021年11月17日掲載

イエメンでMSFが支援する母子病院で生まれた赤ちゃん © Nasir Ghafoor/MSFイエメンでMSFが支援する母子病院で生まれた赤ちゃん © Nasir Ghafoor/MSF

「みな同じ空の下で生きているのに、どこから見上げるかで、人生はあまりに違う──」

国境なき医師団(MSF)の小児科医、モニカ・コステイラは、星空を眺めながらそう呟いた。イエメン北西部ホデイダ県、アルカナウィス市にあるMSFの宿舎の屋上。美しく、豊かな歴史を持つこの国は、6年におよぶ内戦によって破壊されつつある。

戦争は多くの死者や負傷者を出すだけでなく、人びとの目には直接的に見えない不幸をもたらす。食料、水、住まい、教育が奪われ、医療が受けられなくなる。影響を最も強く受けるのは、子どもや妊娠中の女性、高齢者、慢性疾患のある人など、弱い立場の人たちだ。

アルカナウィスでMSFが支援する母子病院には、基礎的な医療を受けられなかったために、ひどい痛みに苦しむ母親や、生まれたばかりで命を落とす赤ちゃんが後を絶たない。この病院に努めるコステイラが、ある親子を通して実感した「見えない不幸」と、紛争地での母子医療に対する思いを語った。

双子とは知らずに出産

イエメンでMSFが支援する母子病院に努める
モニカ・コステイラ医師 © Nasir Ghafoor/MSFイエメンでMSFが支援する母子病院に努める
モニカ・コステイラ医師 © Nasir Ghafoor/MSF

私が勤務する母子病院には、毎週何十人もの新生児が入院します。中には非常に危険な状態の子もいて、この病院で生まれたラティファちゃんも、その一人でした。

ラティファちゃんの家族は、孤立した場所にある小さな村に住んでいます。内戦が始まって以来、近隣の医療施設は破壊されたり、医療スタッフの不在で閉鎖に追い込まれたりしたため、母親のファティマさんは妊娠中、一度も妊婦健診を受けられませんでした。

そんな中、ファティマさんの陣痛は、突然始まりました。予定日まではかなり日にちがあったのですが、病院に行くことはできず、やむを得ず自宅で出産することになりました。

ずいぶん早く生まれてきた赤ちゃんはとても小さく、うまく呼吸もできない状態で、ほどなくして息を引き取りました。ところが、悲しみに浸る間もなく、ファティマさんは分娩がまだ終わっていないことに気づきます。彼女のお腹にはもう一人赤ちゃんがいたのです。

ファティマさんは気力を振り絞ってMSFの病院へとたどり着き、2人目の赤ちゃんを無事出産。それがラティファちゃんです。

低体重で生まれたラティファちゃんでしたが、スタッフ全員で愛情を持ってケアを続け、2カ月の入院生活を経てようやく退院することができました。生きる強さを持ったこの子は、きっとこれからの人生の中で、家族や地域、そしてこの荒廃した国に優しさと希望をもたらしてくれるに違いありません。

保健省の看護師、助産師に研修を行うMSFのスタッフ © Nasir Ghafoor/MSF保健省の看護師、助産師に研修を行うMSFのスタッフ © Nasir Ghafoor/MSF

母子保健・産科医療の充実を

アルカナウィスでは、早産による低体重児の合併症が、新生児の死因の上位に入っています。早産には、母親の年齢、多胎妊娠、感染症などさまざまな要因があり、この地域の妊婦の多くがこれらの項目に当てはまります。しかしそのほとんどは適切な産前ケアを受ければ予防が可能で、基礎的な新生児医療によって、赤ちゃんの死亡率を大幅に減らすこともできるのです 。

私は救命治療チームの一員として、人びとの命を救うことに誇りを持っています。その一方で、病院にたどり着けない人たちのことが気掛かりでなりません。戦争によって追い詰められるのは、社会的に弱い立場の人びとです。私は願っています。国際社会がこの現状を認識し、変えていこうという意識を持つことを。そして人間の素晴らしい力を、命を奪うのではなく救うために使うことを。

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