小さな命が起こした奇跡……何度も危機を乗り越え退院の日を迎えるまで

2021年10月18日掲載

南スーダンの遠隔地では、超未熟児の赤ちゃんが生き延びられる可能性は高くない。
2012年に南スーダンのランキエンで生まれた未熟児の赤ちゃん © Brendan Bannon南スーダンの遠隔地では、超未熟児の赤ちゃんが生き延びられる可能性は高くない。
2012年に南スーダンのランキエンで生まれた未熟児の赤ちゃん © Brendan Bannon

「本当に奇跡のようです。体重780グラムで生まれた赤ちゃんが生きているなんて」。そう話すのは、2021年9月、南スーダンのランキエンで活動していた国境なき医師団(MSF)の助産師、プリシラだ。この赤ちゃんは妊娠26週目で生まれた超未熟児であり、プリシラが勤務する遠隔地の産科でこのような子どもが生き延びられる確率は低いため、一命を取り留めたのは信じられないような出来事だった。

家族の祈りと病院スタッフの治療によって守られた小さな命は、さまざまな困難を乗り越えて、無事退院の日を迎えた。 

早すぎる破水、出産

あの日のことは、よく覚えています。MSFの産科病棟に入院したのは妊娠7カ月の妊婦さんで、既に破水し、陣痛が始まっていました。その女性は病院から遠く離れた村に住んでいたため、産前ケアを全く受けていなかったのです。

村では多くの女性が、伝統的分娩介助者の助けを借りて自宅で出産し、深刻な合併症でもない限り、病院に連れてきてもらえません。この女性は、お産に時間がかかりすぎていたため、MSFの病院に搬送されてきたのです。

病院に到着した頃には、陣痛が始まってかなり時間がたっていました。女性はこれまでに数回流産を経験しており、「もしかしたら、一生子宝には恵まれないかもしれない」と、とても不安そうでした。 

ようやく生まれた赤ちゃん、しかし──

生まれたのは女の子。でも体重が780グラムしかなく、さらに数時間にわたって産道から出てこられなかったため、酸素不足に陥っていて、生きられる可能性は高くはありませんでした。

私は赤ちゃんを抱き上げ、よく拭いてからへその緒を切り、体温が下がらないよう布でくるんで酸素投与を行いました。そして赤ちゃんの体に、容体を確認するためのさまざまな装置をつけました。

しばらくして、赤ちゃんの様子を見に行った助産師の驚く声が聞こえてきました。なんと、赤ちゃんが大きな目を開き、まるで「生きているよ」と伝えるかのように、彼女のことを見つめていたというのです。

しかし、依然として危険な状態にあることに変わりはありません。初めて親子が対面する日、私はお母さんに赤ちゃんの状態は予断を許さないこと、そして命を落とす危険性もあることを、長い時間をかけてお話ししました。

この赤ちゃんにとって最善の治療はどんなものか、わかりませんでした。この病院には、保育器や適切な新生児集中治療室もありません。そこで、他のお母さんや赤ちゃんと同じ病棟にいるしかありませんでした。病室のベッドを明るくて風通しのよい場所に置き、母子が少しでも良い環境で過ごせるよう気を配りました。

赤ちゃんの状態は一進一退を繰り返していましたが、生後4週目になり、ようやく少しずつ体重が増えていきました。お腹が空いた時やオムツがぬれて気持ちが悪いときは、泣いて教えてくれます。ところがこのまま順調に育ってほしいと思っていた矢先、赤ちゃんが体調を崩してしまったのです。

その日はいつもと比べて反応が悪く、呼吸も苦しそうでした。体はとても冷たく、このまま死んでしまうのではないかとさえ思いました。私はすぐに蘇生室に連れて行き、治療を行いました。

その後も発作は続きましたが、輸液と抗菌薬を投与し、幸いにも容体は少しずつよくなっていきました。 

2カ月半の入院生活を乗り越えて

赤ちゃんの体調が完全に安定してから、今度はお母さんに赤ちゃんを胸に乗せる形で抱っこするカンガルーケアを始めてください、とお願いしました。この方法は、スキンシップで親子の絆を深めたり、赤ちゃんの死亡率低下や育児放棄を減らしたりする効果があると言われています。母乳の出もよく、2カ月半で赤ちゃんの体重は2キロになり、ようやく家に帰れることになったのです。

退院の日、ご家族もランキエン村の皆さんも、とても喜んでいました。赤ちゃんは自宅に戻ってからも元気で、いまもお母さんに連れられて私たちの病院に健診に来ています。

医療に携わっていると、科学では説明できないような出来事に遭遇することがありますが、今回の赤ちゃんもそんな患者さんの一人だったのかもしれません。あんなに小さく生まれてきた子が、このような遠隔地で生き延びることができたのは、本当に奇跡のようです。 

ランキエンの病院で、小さな赤ちゃんの体重を測るMSFの医師=2012年 © Brendan Bannonランキエンの病院で、小さな赤ちゃんの体重を測るMSFの医師=2012年 © Brendan Bannon

関連情報