結核検査キットの供給が停滞──多くの人びとの命が危機に

2022年09月26日
MSFの運営する病院で使用されている自動遺伝子解析装置 『GeneXpert』=中央アフリカ共和国、バンガスー Ⓒ Borja Ruiz Rodriguez/MSF
MSFの運営する病院で使用されている自動遺伝子解析装置 『GeneXpert』=中央アフリカ共和国、バンガスー Ⓒ Borja Ruiz Rodriguez/MSF

「世界抗結核薬基金(GDF)」(※)は9月13日、自動遺伝子解析装置『GeneXpert』を製造する米セフィエド社で、重要な結核検査キットの製造が停滞し、供給に大幅な遅れが生じる恐れがあると発表した。
 
原因は、新型コロナウイルスの感染拡大による供給網への影響と、GeneXpertを用いる結核検査の需要増加とされる。それに伴い、一定以上の数量を発注する国では、最大6カ月の遅れが生じる可能性がある。この状況は来年3月まで続く見通しだ。
 
国境なき医師団(MSF)は、結核検査キットの供給停滞によって多くの人命が危機にさらされると訴え、すべての結核高まん延国で手ごろな価格の結核検査が利用できるよう、セフィエド社が早急に対策を行うことを求めている。

※GDFは国際連合主催の団体「ストップ結核パートナーシップ」の下部組織。世界各国の結核対策プログラムのために、一括的な調達・供給の仕組みを通じて、品質の保証された結核診療の確保を後押ししている
 

富裕国への新型コロナ検査を優先か

GeneXpertはセフィエド社のみが製造しており、新たな供給元が市場に参入しない限り、低・中所得国は結核検査においてセフィエド社に依存し続けることになる。いま、結核高まん延国の対策プログラムは、検査の水準を新型コロナのパンデミック(大流行)以前と同等かそれ以上に拡大しようと懸命に取り組んでおり、セフィエド社の結核検査キットの供給停滞は容認できない。同社は、富裕国への新型コロナ検査キットの販売を優先しているとも見て取れる。

コロナ禍の2020年、セフィエド社のコア収益は100%増となり、年間収益は20億米ドル(約2866億2000万円)を突破。また、新型コロナウイルスの検査や、新型コロナとA型およびB型インフルエンザウイルス、呼吸器多核体(RS)ウイルスをまとめて検知できる検査の需要が高所得国で高かったこともあり、2021年の年間収益はさらに増加している。

さらに、検査キットの価格の高止まりが、多くの国で結核検査の拡大を阻んでいる。1回分の検査キットは5米ドル(約717円)未満で製造できるという分析があるにもかかわらず、セフィエド社は10年以上にわたって、結核高まん延国にその2倍の価格を課してきた。値下げを求めるMSFの再三の呼びかけにも応じていない。

GDFの発表に対しMSFの専門家は以下のようにコメントした。

「検査の不足は大打撃となる」
スタイン・デボルグレブ(MSFアクセス・キャンペーン診断検査顧問)

セフィエド社が、結核高まん延国への結核検査キットの供給よりも、富裕国への新型コロナ検査キットの販売を優先しているとすれば容認できません。新型コロナのパンデミックにより、長年の結核対策の進展が著しく後退してしまった国では、結核検査キットの供給の遅れは致命的です。今こそ、各国の結核検査の拡大を後押しするため、これまで以上に早急の施策に取り組まなければなりません。

この重要な検査がこれ以上遅れれば、さらに多くの人命が失われるだけです

MSFは医療・人道援助団体として35カ国以上の低・中所得国で結核に対応しており、新型コロナのパンデミックにより、いかに多くの人びとが結核と診断されないまま放置されているかを目の当たりにしています。

いま、各国の結核対策プログラムは、少なくともパンデミック以前にまで規模を回復しようとしています。セフィエド社はその流れに逆らっています。人命よりも利益を優先することをやめ、すべての結核高まん延国で手ごろな価格の結核検査が利用できるよう、速やかに対応するべきです。

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