WTOでの提案が世界のコロナ対策を大転換させるかもしれない5つの理由

2020年12月10日掲載

WTOではインドと南アによる画期的なコロナ対策への提案が審議されている © Sophia ApostoliaWTOではインドと南アによる画期的なコロナ対策への提案が審議されている © Sophia Apostolia

10月2日、インドと南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)が世界貿易機関(WTO)で革新的な提案をしました。新型コロナウイルス感染症に関連する治療薬やワクチン、検査法などの医療ツール、医療器具を普及させるうえで壁となる知的財産権を一時的に停止することを求めたのです。

この先駆的な提案が受け入れられれば、世界のコロナ対策を根本から大きく前進させることになるでしょう。そこで、各国政府が賛同すべき5つの理由をご説明します。

1. 世界中の皆のためだから

先進国も開発途上国も分け隔てなく、世界の大部分の人びとが免疫を得るまで、知財権を一時的に停止しようというのが、今回のインドと南アフリカの提案です。

新型コロナ対策に必要な医薬品に関する知財権を一時停止することで、こうした医薬品の普及に対する主導権を製薬会社から取り戻すことができます。かつてHIV/エイズ流行で起きた悲劇を繰り返してはなりません。当時、安価なエイズ治療薬が登場したにもかかわらず、特許権の壁によって新薬での治療を受けられる人は富裕国に限られ、途上国の何百万人もの人びとは顧みられぬまま亡くなっていきました。

2. 医薬品特許だけの問題ではないから

知的財産権には企業秘密や意匠、著作権なども含まれることをご存じですか? コロナ禍では、感染の波がピークに達するたびに物資不足が起きました。マスクや人工呼吸器のバルブ、検査キット、その他必需品を確保しようとする医療従事者や各国政府は、知的財産権の壁に立ち向かわなければならなかったのです。

3. コロナ対策を加速できるから

治療薬やワクチン、医療ツール、器具といった製品は、知的財産権によって販売地域と生産者を制限され、価格も大抵は非常に高く設定されます。新型コロナ関連の医薬品についてこうした独占をなくすことができれば、生産と供給の拡大に向けて世界中で協力が始まるでしょう。

生産・供給するメーカーが多様化し、数も増えることで、世界各国の政府も医療関係者もコロナ関連医薬品をすぐに手に入れて活用できるようになり、その結果、より多くの命が救われることになります。

4. 薬・ワクチンその他の医療ツールの低価格化につながるから

製薬会社の独占状態を打破すれば、廉価版の製品がより早く市場に出回るようになるでしょう。一方、製薬会社が専売を続ければ、価格は人為的に高く保たれて、世界の多くの人びとには手が届かないものとなってしまいます。

新型コロナの治療薬・ワクチン・医療ツールはすべて、必要とするすべての人にとって入手可能な価格であるべきです。

5. 各国政府が主導権を取り戻せるから

独占権を持つ製薬会社の自発的な協力に頼ることは、パンデミックの解決策にはなりません。

例えば、コロナ治療の目的でこれまで唯一承認された薬であるレムデシビル。特許を持つギリアド・サイエンシズ社はほとんどの国において、5日間の治療コースを2340米ドル(約24万3000円)という価格に設定しています。

しかし、その開発には7000億米ドル(約72億8000万円)以上の公的資金が投入されており、治療コース1回分9米ドル(約936円)でも製造コストをまかなえるとの研究も報告されています。

また現在有力とされる新型コロナワクチンの多くは、多額の公的資金を受けて研究開発されています。コロナワクチンを「公共財」と見なす動きがあるのはこのためです。

いまこそWTO加盟国は今回の提案に賛同し、製薬会社の商業的利益よりも、公衆衛生と国民の人命を優先させるときです。

コロナ禍は私たち全員にとっての問題です

このパンデミックを終わらせるための最も早い、そして最も公平な方法は、誰もが必要とする医療ツールを、可能な限り早く利用できるようにすることです。世界的な新型コロナ対策のニーズを無視して、命を救う医薬品を企業が独占して利益を追求することを許すべきではありません。

WTOではインドと南アフリカによるこの提案をめぐって議論が続いています。MSFは、人命の優先を確実なものとするために、提案を支持するよう加盟国政府に求めています。

パンデミックは、すべての人にとって終わらない限り、終息することはありません。

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