プレスリリース

新型コロナワクチン:各国政府は製薬会社との契約や費用を開示し、透明性の確保を

2020年11月12日

新型コロナウイルスワクチンの製造に関し、英製薬大手アストラゼネカとブラジルの国立研究機関オズワルド・クルス財団との間で結ばれた契約条件には、懸念すべき内容が含まれていた。その内容を受け、国境なき医師団(MSF)は各国政府に対し、新型コロナワクチンのライセンス契約や、臨床試験の費用やデータに関する透明性の確保を、製薬企業に速やかに要求するべきだと訴えている。有力なワクチンの開発には数十億米ドル(約数千億円)もの公的資金が投じられていることを考慮すれば妥当な要求であり、ワクチンへの公平なアクセスと購入可能な価格を確保するためにも重要だ。 

ブラジル中西部アキダウアナで新型コロナ感染者を治療するMSFの医師ら © Diego Baravelli/MSF
ブラジル中西部アキダウアナで新型コロナ感染者を治療するMSFの医師ら © Diego Baravelli/MSF

「原価販売」の公約に疑問

オズワルド・クルス財団はこのほど、アストラゼネカと締結した1億回分以上のワクチン(AZD1222)を製造するためのライセンス契約をインターネット上に掲載した。これはワクチンに係る契約の透明性確保という意味で、他の政府に先駆けた事例と言える。しかし公開された契約内容は元となった合意——アストラゼネカ社が公約してきた、パンデミック(世界的流行)下での「原価販売」には制限がある、という記述を編集してある。この当初の合意は、アストラゼネカにパンデミックの終了宣言を出す権限を与え、早くて2021年7月にはこうした宣言を出せる、としている。それは、全額を公金で賄ったワクチンであるにもかかわらず、2021年7月以降、同社は政府などのワクチン購入者に高額を請求できるということを意味する。アストラゼネカとオックスフォード大学が結んだ最初の独占ライセンス契約の内容は未公開だが、それ以降に同社が世界各地の他のワクチンメーカーと締結する取引条件は、最初の契約内容によってほぼ決定づけられていると考えられる。アストラゼネカとオックスフォード大学間のライセンス内容を知る関係者は、アストラゼネカによる「原価販売」の公約に疑問を呈し、同社は新型コロナワクチン製造に係る費用に少なくとも20%を上乗せした額を請求するだろうという見方を示している。オズワルド・クルス財団との契約以外では、同社と南アフリカやインドなど他メーカーとのサブライセンスもまだ公開されていない。 

6つのワクチン候補に計100億米ドルの公的資金

世界の大手製薬企業は、ライセンス契約から技術移転、研究開発費、臨床試験データに至るまで、透明性のある情報開示という観点ではこれまでの実績は芳しくない。利益を追わないというアストラゼネカの約束について、ほとんど情報が公開されていないことも、製薬企業が公衆衛生を最優先するとにわかに信じることができない理由である。

MSFアクセス・キャンペーンのワクチン政策上級顧問ケイト・エルダーは、「取引の中身が明らかにならない限り、ワクチンを誰が、いつ、どのような価格で利用できるか、その決定権は製薬企業が持ち続けるでしょう。企業に透明性を求める強い姿勢を政府が取らなければ、新型コロナワクチンの公平な普及は危ぶまれます。市民にはこれら取引の内容を知る権利があります。この危機的なパンデミック下で、秘密にする余地などありません」と話す。

このような取引は、多額の公的資金を受けて新型コロナワクチン開発に取り組む他社でも行われている。最有力とされる6つのワクチン候補の研究開発、臨床試験、製造には、計100億米ドル(約1兆515億円)以上の資金が投じられてきた。アストラゼネカ/オックスフォード大学(17億米ドル以上、約1787億5500万円以上)、ジョンソン・エンド・ジョンソン/バイオロジカル・イー(BiologicalE)(15億米ドル、約1577億2500万円)、ビオンテック(約5億米ドル、約525億7500万円)、グラクソ・スミスクライン/サノフィパスツール(21億米ドル、約2208億1500万円)、ノババックス/インドのセラム・インスティチュート(約20億米ドル、約2103億円)、モデルナ/ロンザ(24.8億米ドル、約2607億7200万円)である。アストラゼネカは「新型コロナワクチンの開発費は、政府と国際機関による資金援助で相殺できると予測している」として、ワクチン開発は同社の財政に影響を及ぼさないとこれまでに何度も言及している。
 

各国政府は大胆な政策でワクチンの公平な普及実現を

MSFは、新型コロナワクチンの開発者に対し、臨床試験の費用とデータの開示も求めている。この情報なくして、政府や医療機関が購入可能な適正価格を割り出し、ワクチンの安全性と有効性に関する重要なデータを精査することは不可能だ。研究開発費と製造費の大部分(アストラゼネカとモデルナの場合は全額)が公的資金によって賄われていることを踏まえれば、市民にはこれらの費用とデータの内訳を明白に知る権利がある。

MSFアクセス・キャンペーンの政策顧問ロズ・スコースは、こう述べている。「各国首脳は、新型コロナワクチンは世界的な公共財になると繰り返し断言し、業界は最大限の務めを果たしているとしていますが、現時点では、このような未曾有の事態においてさえ、製薬企業が公衆衛生のために行動するとは信じられないのが実情です。何十億米ドル(約数千億円)もの税金がこれらのワクチンのために投じられ、何十億人もの命が危機に瀕しているにも関わらず、私たちは必要な情報を得られない状態にあり、新型コロナワクチンの価格と供給、公平なアクセスが、今後どうなるのか、判断材料が与えられていないのです」

各国政府は、この危機において大胆な行動を取らなければならない。ワクチンのために多額の公的資金を渡した責任から、新型コロナワクチン関連のすべてのライセンス、契約、臨床試験費用、データを、早急に公表するよう製薬企業に求めるべきである。 

※12月11日訂正:本プレスリリースでは当初、ファイザー/ビオンテックへの公的資金援助について、米国政府「ワープ・スピード作戦」からの19.5億ドルを含め、25億ドルと記載していました。しかしこの19.5億ドルは、製造拡大に直接的に資する緊急資金には該当しないものであったため除外し、合わせて最有力とされる6つのワクチンに投入された公的資金総額も訂正しました。

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