パレスチナ・ガザ地区から「医療搬送」拡大を──国境なき医師団日本、3万筆の署名を日本政府に提出

2025年12月05日
パレスチナ・ガザ地区からの医療搬送の拡大を求める署名3万2704筆を国光あやの外務副大臣(右)に提出する、国境なき医師団日本会長の中嶋優子=外務省で2025年12月4日 Ⓒ MSF
パレスチナ・ガザ地区からの医療搬送の拡大を求める署名3万2704筆を国光あやの外務副大臣(右)に提出する、国境なき医師団日本会長の中嶋優子=外務省で2025年12月4日 Ⓒ MSF

激しい攻撃で医療体制が崩壊しているパレスチナ・ガザ地区の患者対応を巡り、国境なき医師団(MSF)日本は12月4日、必要とする患者の医療搬送の拡大を求めるオンライン署名3万2704筆を外務省に提出しました。 
 
医師でMSF日本会長の中嶋優子が外務省を訪れ、国光あやの外務副大臣に署名を手渡して「ガザ地区から多くの医療搬送を受け入れている周辺諸国への支援、そして日本における受け入れの拡充をお願いしたい」と訴えました。

※署名には、特定非営利活動法人 APLA(Alternative People’s Linkage in Asia)、一般社団法人 日本国際保健医療学会にもご賛同いただきました。

崩壊するガザの医療体制

ガザ地区では、紛争が激化した2023年10月7日以降、イスラエル軍の攻撃によって6万7000人以上が殺害され、16万9000人以上が負傷しました。
 
さらに、ガザ地区内の医療機関の約94%が破壊され、医療物資の搬入も制限。完全に機能している病院は皆無で、特に専門医療は壊滅的な状況です。

脚を負傷し、ガザ地区からヨルダンの首都アンマンに医療搬送されたばかりの少年(右から2人目)=2025年10月26日 Ⓒ MSF
脚を負傷し、ガザ地区からヨルダンの首都アンマンに医療搬送されたばかりの少年(右から2人目)=2025年10月26日 Ⓒ MSF


ガザ地区以外で治療を受けるため、現地で医療搬送を必要としている患者は、地元保健省の名簿に登録されているだけで1万6500人(10月29日時点)に上ります。

しかし、実際に搬送を必要とする人の数はその数倍規模とみられており、事態は深刻さを増しています。

MSF日本は、ガザ地区から周辺国や日本への医療搬送拡大を目指し、日本政府に働きかけを求めるオンライン署名への協力を10月から交流サイト(SNS)などで呼びかけていました。

「日本だからこそできる人道的支援を」

中嶋は外務省で国光外務副大臣に署名を手渡すと、ガザ地区における現在の医療状況について説明しました。

現地で医療搬送を待つ患者の4分の1が子どもであることや、搬送を待つ間に亡くなる事例が8月時点で少なくとも740件あったことに触れ、「救いの手を差し伸べられる国々で真剣に何とかできないかと考え、各国政府に働きかけをしています」と理解を求めました。 

国光外務副大臣(右)にガザ地区の医療状況について説明する中嶋=外務省で2025年12月4日 Ⓒ MSF
国光外務副大臣(右)にガザ地区の医療状況について説明する中嶋=外務省で2025年12月4日 Ⓒ MSF


国光副大臣は受け取った署名を1枚ずつ読み込み、「3万2704人の方々が署名された大事な気持ちを切に受け止めます」と応じました。

中嶋は、ガザ地区での患者の症状や医療ニーズについても説明。

ガザ地区から医療搬送を多く受け入れているヨルダンの病院を10月に視察した経験などを踏まえ、「重症外傷はわずかに落ち着いた印象ですが、髄膜炎などの難治性の感染症がとても多いです。また、両親を亡くしたり、手足を切断したりした子どもたちのトラウマは大きく、心のケアにも真剣に取り組む必要があります」と強調しました。

国光外務副大臣(右)と意見交換する中嶋=外務省で2025年12月4日 Ⓒ MSF
国光外務副大臣(右)と意見交換する中嶋=外務省で2025年12月4日 Ⓒ MSF


さらに「訪問したヨルダンもそうでしたが、周辺諸国は受け入れ可能な能力を超えています。患者さんからは『とにかく安全に治療を受けられるところに行きたい』という声があり、医療搬送の拡大は喫緊の課題と考えています」と述べ、協力を重ねて要請しました。

国光外務副大臣は意見交換を終え、「ガザ地区で医療活動にあたっているMSFに心から敬意を表します。外務副大臣として、いち医療者として人道状況の回復をしっかりサポートしたい」と話しました。

国境なき医師団日本会長、中嶋優子からのメッセージ

この度は、パレスチナ・ガザ地区からの医療搬送拡大を求めるオンライン署名に数多くの方々にご賛同いただき、誠にありがとうございました。
 
国境なき医師団(MSF)は、ガザ地区で続く深刻な人道危機に対し、国際社会とともに命を救う行動を求めています。
 
2023年10月以降、7万人以上が命を落とし、停戦後も犠牲者が出ています。完全に機能する医療施設は皆無で、重症外傷や慢性疾患の患者が治療を受けられない状況です。停戦が持続したとしても、こうした人びとが適切な医療を受けられるようになるには相当の時間がかかると思われます。

医療搬送を待つ患者は少なくとも1万6500人、実際にはその数倍規模であることが予想されます。こうした中、受け入れ国が門戸を開くことは人道的に極めて重要です。

MSFはヨルダンでガザから搬送された患者や家族を受け入れ、再建手術やリハビリを提供してきました。治療を受けた子どもたちが笑顔を取り戻す姿は、医療搬送の意義を示しています。

今年の3月に日本政府が患者受け入れを開始されたことに深く敬意を表します。私たちはこの取り組みを支持し、さらなる受け入れ拡充と近隣諸国への支援強化をお願いしております。

3万2000筆を超える署名は、日本国内で多くの方々が「救える命を救いたい」という思いを込めて集めてくださったものです。どうか日本政府がこの声に応え、日本だからできる支援を拡大してくれることを、心より願います。

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