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【報告】第66回日本熱帯医学会大会で、国境なき医師団がシンポジウム「資源の限られた国における『顧みられない熱帯病』治療の課題について」を開催

2025年12月17日
シンポジウム登壇者。左から近藤氏、井本氏、髙橋医師、永田医師、神徳医師 © MSF
シンポジウム登壇者。左から近藤氏、井本氏、髙橋医師、永田医師、神徳医師 © MSF

2025年11月29日~30日に長崎で開催された第66回日本熱帯医学会大会で、国境なき医師団(MSF)がシンポジウムを開催しました。

本シンポジウムでは「資源の限られた国における『顧みられない熱帯病』治療の課題について」として、MSFの髙橋健介医師(救急医)が座長を務め、4名の登壇者がそれぞれ異なる視点から顧みられない熱帯病(NTDs)についての取り組みや現場の状況、課題を発表しました。会場には大勢の方にご参加いただき、活発な議論が行われました。

発表を行う永田医師(左)、神徳医師(右) © MSF
発表を行う永田医師(左)、神徳医師(右) © MSF
1人目の登壇者であるMSFの永田由佳医師(内科医)は、ケニアにおける活動で経験した住血吸虫症の症例について報告しました。医療資源の限られた現場での確定診断が困難であったこと、高額な費用がかかることから治療の機会だけでなく診断の機会すら失われている状況を訴えました。

また、病院に来る時点ですでに進行した合併症をもつ症例や、症状があっても他の疾患との鑑別が難しい症例があることも伝えました。

さらに、予防法がある一方で、暮らしに直結する湖水の使用や動物との関わり、経済的な懸念との折り合いをつける葛藤など、活動にあたり悩んだ点についても紹介しました。
 
2人目の登壇者であるMSFの神徳隆之医師(救急医)は、イラクイエメンで経験したデング熱、リーシュマニア症、蛇咬傷、包虫症(エキノコックス症)について実際の症例を提示しながら報告しました。いずれの疾患においても、限られた医療資源のなか正確な診断が院内で行えない症例に直面し、また、治療薬の使用の制限により対症療法にて対応したこと、そのために救命が困難であった症例もあったと報告しました。

そのうえで、医薬品や診断機器の安定供給の整備や医療へのアクセスの向上、経済的支援といった、多方面にわたる取り組みが必要であると訴えました。
発表を行う井本氏(左)、近藤氏(右) © MSF
発表を行う井本氏(左)、近藤氏(右) © MSF
次に、「顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(DNDi)」の井本大介氏はDNDiとさまざまな団体、アカデミア、製薬企業との協業について紹介しました。なかでもアフリカ睡眠病の治療薬の開発について説明し、初期・後期双方を対象とした初の経口薬であるフェキシニダゾールの開発に貢献した医師と患者、科学者に関する動画を紹介しました。

さらに、現在開発中の経口薬であるAcoziborole(アコジボロール)について、一錠の服薬のみで治療が行える画期的な治療薬であることを紹介し、より多くの患者が治療を受けることができる可能性を伝えました。

最後の登壇者である「NTDs Youthの会」の近藤裕哉氏は、日本のユースがどのようにNTDsの課題に向き合っているのかを紹介しました。アドボカシー活動では、国内の政策決定者への提言や意見交換会の実施に加え、WHOアフリカ地域事務局のESPENと連携し、各国政府のNTDs対策プログラム強化に取り組んでいることにも触れました。

また、中学生から大学院生までを対象に開催している「顧みられない熱帯病コンテスト」を紹介し、若年層の理解と関心を広げる意義を強調しました。さらに今後の展望として、世界のユースを牽引するためのプラットフォーム構築や、国際的に活躍する国内ユースへの機会提供についても言及しました。
ディスカッションの様子 © MSF
ディスカッションの様子 © MSF
ディスカッションでは、「医療援助活動の現場にどんなニーズがあり、いかにそれを拾い上げていくのか」というテーマに対し、永田医師は地域住民への教育の必要性、また、医療者同士の診断が一致しない場面に直面した経験から、それらにより引き起こされる現場の不安感が生じるリスクを伝え、診断のレベルを向上させる必要性を訴えました。
また、「ユースとしての介入の可能性」について、近藤氏はアフリカ地域のもつニーズを調査する必要性を指摘しました。ユースの利点としての若さ、取り組みや提言といった介入のしやすさを活用していくことが必要であるとも伝えました。
 
その他の質疑応答では、疾病ごとの統計収集方法についての質問があり、神徳医師はMSFでは受診や治療結果などを本部へ報告し、データとしてまとめていると回答しました。また、新薬の開発にかかる費用に関する質問では、井本氏はNTDsの治療薬の開発には僻地での臨床試験を行う必要があり、ロジスティックなどの面から初期投資は多くかかってしまうと回答しました。そのうえで製薬企業にいかに理解してもらい、協業していく必要があるかを訴えました。
 
最後に、座長の髙橋医師は実際の医療現場の声を診断ツールや治療薬の開発に生かしていくために、NTDsの治療の最前線にいる医療者からニーズを拾い上げる仕組み作りが大切であると伝えました。そして、そのニーズをアカデミア、研究機関、製薬企業などにつなぐネットワークとアドボカシーの重要性を改めて訴え、シンポジウムを終了しました。

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