プレスリリース
南スーダン:スーダンからの帰還民に増える感染症と栄養失調──医療援助の拡大が急務
2023年10月04日今年4月にスーダンで戦闘が始まって以降、約29万人が隣国の南スーダンへと逃れたが、その9割はスーダンから帰還した南スーダン人(以下、帰還民)が占めている。帰還民が多く到着する上ナイル州の町レンクは、国内の他の場所へ移動するための一時的な滞在地だが、帰還民らは同地で数週間から数カ月動けない事態となっている。食料、仮住まい、水、衛生設備、そして医療へのアクセスも限られている同地での滞在は疲労と苦痛を伴っており、国境なき医師団(MSF)は帰還民への医療・人道援助対応の改善が緊急に必要だと訴えている。
ニーズの拡大と援助の不足
MSFはレンク市民病院ではしか隔離病棟、入院栄養治療センター(ITFC)、小児病棟を支援している。患者の殺到を受け、チームは複数の病棟の病床数を22床から45床に拡大。7月以降、MSFは232人の栄養失調患者を受け入れ、病院での治療を必要とするはしか患者、282件を治療した。
南スーダンにおけるMSFの現地活動責任者ジョスリン・ヤピは「レンクでの日々増大するニーズに対し、援助は極めて不十分です。MSFは、他の人道援助団体や医療団体に対し、この町の入り口や一時滞在センターでの活動を拡充するよう求めています。病気を抱えた人が、国境付近で基礎的な診療をいつでも受けられるようにすべきです。また、スーダンの予防接種率が低い現状や、スーダンと南スーダンの両国ではしかの流行が続いていることを考えると、国境では後追いの予防接種を常に受けられるようにすべきです」と指摘する。
限られた食料供給と悲惨な生活環境
多くの人びと、特に子どもが、はしかのような致命的な病気や、即時治療が必要な栄養失調といった状態で国境に到着している。現在は雨期であることも重なって、MSFの医療施設ではマラリアの陽性率が7割に達している。
「特に栄養失調の子どもには、国境で緊急の栄養補給を行い、すぐに医療施設に搬送しなければなりません。蚊帳、ビニールシート、その他の生活必需品といった救援物資は国境で提供し、必要な人が受け取れるようにしなければなりません」とヤピは言う。
現地では1人当たり12米ドル(約1790円)の現金が一度だけ支給されるが、レンクでは一般的な食事が平均2米ドル(約300円)で売られている状況を考えると、この援助金額では1日1食にとどめたとしても1週間の予算にも満たない。人びとは数週間、時には数カ月も追加の現金の支給を受けられないままであり、人道援助団体や当局による定期的な食料配給もない。
「食料を買うために、服を1着2000南スーダン・ポンド(現地のレートで約300円)で売っています。手持ちの服6枚を売って、残りの2枚を着てしのぎます」と、レンクの非公式な帰還民居住地の一つ、ゼロに住む6児の母、マルタ・マンハーさんは言う。
限られた食料と悲惨な生活環境が、人びとの健康状態に打撃を与えている。MSFが運営する移動診療所のうち、ゼロとアブカドラの2カ所では、チームが1日300件の診療を記録していて、10件中7件がマラリア患者だ。そこではほとんどの人が、屋外か衣服で作った仮住まいで暮らしている。この地域では、よどんだ雨水が蚊の繁殖の温床となっている上に、人びとは蚊帳などで身を守るすべがない。
緊急人道対応が必要
MSFがはしか隔離病棟を支援しているレンク市民病院では、患者の9割が帰還民でワクチンは未接種だ。その上、一部の重病患者は診療も受けられないまま、医療も水も食料もないボートで、48時間から72時間かけてレンクからさらに南部のマラカルに移送されている。ボート上で亡くなる人や、重症となる人もおり、マラカルの搬送先施設では患者の死亡率が高まっている。
「帰還民たちはあまりに弱い立場に置かれています。食料や飲み水が不足しているだけでなく、仮住まいもなく、強い日差しや雨から身を守るのは布切れしかありません。病院で栄養失調の子どもを治療していると、母親も多くが栄養失調であると分かります」とレンクでMSFの活動に参加しているアブラハム・アンヒエニー医師は憤る。
南スーダンは長年の紛争によって、すでに世界最大級の人道危機の最中にある。以前から定期的な疾病の集団発生、洪水、避難生活、栄養失調罹患率の高さに悩まされていたため、帰還民の到着は新たな重荷となっている。現在進行中の人道危機と、スーダンの紛争によって引き起こされた別の緊急事態に対処するため、同国への関心を高めるとともに援助の拡大が必要だ。