プレスリリース

シリア:人道援助最後の砦──越境地点の長期的な確保を

2022年12月23日
シリア北西部の避難民キャンプでは、劣悪な環境で人びとが暮らしている=2021年11月1日 © MSF
シリア北西部の避難民キャンプでは、劣悪な環境で人びとが暮らしている=2021年11月1日 © MSF

シリア北西部に対して、周辺国からの国境を越えた人道援助を可能にする、国連安全保障理事会(以下、「安保理」)の決議(第2642号)が1月10日に期限を迎える。この地域には440万人余りが住んでおり、決議が更新されなければ生きていくために必要な人道・医療援助が受けられなくなるうえ、同地域で活動する人道援助団体の活動継続も困難になる。国境なき医師団(MSF)は、安保理に対し、同決議を更新し、少なくとも12カ月延長するよう強く要請する。 

増大する人道・医療援助ニーズ

MSFシリア現地活動責任者のフランシスコ・オテロ・イ・ビラールは、「増大するニーズに対応するには、継続的な援助の拡充を求めることに加え、援助の流れを維持し、長引く人道危機を食い止めることが極めて重要です。国連安保理が越境許可を更新しない、あるいは、延長期間を12カ月未満とした場合、数百万人が大規模な食糧難、水不足に見舞われ、医療へのアクセスも失うでしょう。この人道的ライフラインを維持できなければ、致命的な結果になります」と話す。

現在、トルコとの国境にあるバブ・アル・ハワ国境検問所は、シリア北西部に対し唯一残された、人道援助目的で認められた越境地点である。重要な援助を現地に届けるための手段は他になく、同地域に住む440万人の人びとにとって、国境を越えた援助の重要性は依然として高く、直接その恩恵を受けている人は毎月240万人に上る。

12年にわたる内戦が続く中、長引く経済危機と戦闘行為、減少する人道援助資金は特に食糧と医療分野に影響を及ぼし、越境支援をもってしてもシリア北西部の人びとの援助ニーズに追いついていないのが現状だ。

9月以降、シリアではコレラが流行し、数千人の命が危険にさらされるという新たな人道危機も生じている。さらに、同国北部の戦闘が激化すると、北西部に新たな国内避難民が押し寄せ、この地域の人道的負荷は増大することが懸念される。 

シリア北西部でMSFが支援するコレラ治療ユニット=2022年11月1日 © Abd Almajed Alkarh/MSF
シリア北西部でMSFが支援するコレラ治療ユニット=2022年11月1日 © Abd Almajed Alkarh/MSF

越境地点が閉鎖されることの影響

2022年7月、安保理は決議の1年の更新にロシアが拒否権を発動したため、議論を重ねた結果、越境許可の延長を6カ月間にとどめた。シリアに関するこの重要な決議が、政争の具となってしまったことは否めない。本決議は2023年1月10日に再び投票にかけられるが、結果次第ではシリア北西部への最後の砦となる越境地点が閉鎖される恐れがある。

バブ・アル・ハワ国境検問所の閉鎖は、決議に関連して拠出される資金を頼りに活動する多くの国際的および地元の援助団体にとって、資金繰りや緊急事態への対応を含む活動継続への新たな課題を突きつけることになる。人びとの健康状態が悪化しているにもかかわらず、国内避難民キャンプや仮設集落に住んでいる184万人の人びと(内、80%は女性と子ども)に対して、援助団体は依然として活動に必要な資金を調達できていないのが現状だ。

決議が更新されなければ、物資搬入も再検討を余儀なくされる。越境支援をめぐる先の見えない状況は、既存の人道的対応を圧迫し、医療援助も質・量共に影響を免れない。2022年、同地域へのMSFの人道援助物資の大半がバブ・アル・ハワ経由で運ばれた。 

援助を届ける最善の方法の維持を

フランシスコ・オテロ・イ・ビラールは「この地域に援助を届ける方法を変えるにはコストがかかり、他団体の対応にも波及します。病院は給料が払えず閉鎖され、診療所はインスリンなどの基本的な医薬品もないまま運営することを余儀なくされるでしょう」と懸念を示す。

今日に至るまで、バブ・アル・ハワ国境検問所を通じてシリア北西部へ援助物資を輸送することはスピード・効率・透明性・費用面いずれにおいても最良の方法であることは変わらない。

「公平な医療の提供は常に保証されなければなりません。選択の余地などありません。バブ・アル・ハワは閉鎖されてはならないのです」とオテロ・イ・ビラールは強調する。 

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