プレスリリース

イタリア港湾当局 地中海の人命救助船を差し止め MSFは早期解放を要求

2021年07月06日
MSFの捜索・救助船ジオ・バレンツ号。イタリア当局による14時間に及んだ検査の後、出港差し止めを命じられた=2021年7月3日撮影 © Pablo Garrigos/MSF
MSFの捜索・救助船ジオ・バレンツ号。イタリア当局による14時間に及んだ検査の後、出港差し止めを命じられた=2021年7月3日撮影 © Pablo Garrigos/MSF

地中海中央部を渡り欧州を目指す移民・難民の遭難が相次ぐ一方で、NGOの海難捜索・救助船がイタリア港湾当局によって差し止められる事態が続いている。国境なき医師団(MSF)が運航する「ジオ・バレンツ」号も7月2日、シチリア島アウグスタ港で14時間に及ぶ検査の後、当局から出港差し止めを命じられた。MSFはこの命令は海上での人命救助活動を阻止するための政治的な妨害だとして、イタリア当局に対し命令の早期解除を求めている。

「船が差し止められている間、地中海では命が失われ続けるのです」

6月10日から12日にかけてジオ・バレンツ号のチームは、地中海上で410人を救助した。そのうち16人は女性(6人は単身、1人は妊娠中)で、101人は保護者のいない子どもだった。人びとはいずれも極度の疲労とさまざまな体調不良を見せ、シリア、エチオピア、エリトリア、スーダン、マリといった戦禍の国々の出身者が多数を占めた。

その船が今回、当局から22の欠陥を指摘され、そのうち10の理由で出港差し止めを命じられた。MSFはすべての点を修正する準備があるが、今回の検査は、当局による行政手続きを装った政治目的の妨害行為だと確信している。5月に活動を開始した同船は、捜索・救助活動に必要な装備と認証を十分に備えており、関係する海事当局が定めた現行の規則や規制を遵守してきた。

イタリア当局は2019年から現在まで、NGO救助船に対する船舶安全検査を16回行い、そのうち13回を行政拘留に処した。これらの処分により海上での人命救助を妨げられた日数を換算すると、合計で1078日に相当する。 

「船舶安全検査は、航行の安全を確保するための合法的な海事手続きです。しかし現在、こうした検査は、NGO船を狙い撃ちするために国家当局に利用されています。MSFは、これが政治的な動機に基づいたものだと確信しています」とMSFの海難捜索救助代表を務めるドゥッチョ・スタデリーニは断言する。

「イタリアの港で行われるNGO船の検査は、長時間にわたって徹底的に行われます。何らかの規則違反を発見し、船が海へ戻れないようにするためです。人命救助を目的としたNGO船が差し止められている間、地中海では命が失われ続けるのです」

2021年に少なくとも721人が死亡または行方不明に

イタリア当局は、直ちに修正可能な一連の軽微な違反に加え、同船の直近の乗船者数が多過ぎたと指摘、捜索・救助活動に適した船かどうかを調べるとしている。しかし国際法は、人道救助船に特定の国際分類を定めていない。「海上での遭難者を助ける」という船長の義務に基づく救助活動は、不可抗力的な状況とみなされる。当局による誤った海事法の解釈は、この事実を無視したものだ。したがって「海上における人命の安全のための国際条約」の他の規定に準拠しているか否かを確認する目的で、乗船者数を考慮するのは妥当ではない。

6月末にイタリア最南部ランペドゥーサ島の海岸から数キロ地点で起きた難破船の犠牲者を悼んでいる間もなく、チュニジア沖からは別の船が難破したと報じられた。リビアの海岸に、女性や子どもの遺体が打ち上げられたという。2021年に入ってわずか半年の間に、少なくとも721人が死亡または行方不明として確認されている。

MSFは一刻も早く地中海での捜索・救助活動に戻るため、イタリア当局から指摘された不備を是正するための行動計画を提出するとともに、適用される手続きに従って、同船の出港差し止めを直ちに解除するよう求める。拒否された場合、MSFはこの命令に異議を申し立てるため、あらゆる手段を講じることを検討する。

NGOが地中海上で活動するのは、死者数世界最多として知られる海の境界線上に、国家主導の捜索・救助が存在しないという恥ずべき状況があるからだ。欧州諸国はリビア沿岸警備隊を支援し、人命が失われる状況を放置しておきながら、その穴埋めをするNGOの努力を阻止している。

現在、地中海中央部で活動する捜索・救助船は市民団体「SOSメディテラネ」のオーシャン・バイキング号のみ。5隻のNGOの捜索・救助船(シーウォッチ4号、シーウォッチ3号、シーアイ4号、ルイーズ・ミシェル号 、そして最近ではジオ・バレンツ号)が、行政による出港差し止めを受けており、人命救助活動の再開は妨げられている。一方、スペインのNGOプロアクティバ・オープンアームズは、シチリア島ポッツァーロで2カ月に及んだ行政による拘留を経て、6月25日に解放され、スペインでメンテナンスを受けているが、海上での救助活動再開には至っていない。

欧州諸国は捜索・救助体制を敷かないばかりか、リビアへの強制送還制度を意図的に強化。マルタの捜索・救助地域で人を乗せた遭難船に発砲するという暴力行為を再び起こしたリビアの沿岸警備隊に協力している。2021年に入ってから、1万4751人余りという衝撃的な数の移民・難民が海上でだ捕され、リビアに強制送還されている。リビアは海上で救助された人びとの下船を目的とした安全地帯ではないと国際法と海事法は定めているにもかかわらずだ。

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