プレスリリース

地中海で難民・移民の捜索救助活動を再開──今年すでに555人が死亡

2021年05月14日

国境なき医師団(MSF)は5月13日、リビアから命がけで欧州を目指し、地中海を横断する難民・移民の命を救うため、地中海中央部での海難捜索救助活動を再開した。今回、MSFは単独で「ジオ・バレンツ」号をチャーターし、海難者の救助と救急医療にあたる。同船には医療スタッフとして、日本から派遣された助産師も乗船している。 

ノルウェー西部の港で出航を待つジオ・バレンツ号=2021年5月11日撮影 © MSF/Avra Fialas
ノルウェー西部の港で出航を待つジオ・バレンツ号=2021年5月11日撮影 © MSF/Avra Fialas

「欧州の玄関口」で繰り広げられる悲劇

2015年以降、欧州の玄関口である地中海では数万人におよぶ難民・移民が溺死、またはリビアに強制送還されてきた。 5月13日現在、今年に入って地中海中央部を横断しイタリアに到着した人の数は約1万3000人に上ったが、少なくとも555人が死亡または行方不明となっている。直近では4月22日に130人以上が命を落とす難破事故が発生した。また今年、7000人以上の難民・移民が、欧州連合(EU)が支援するリビアの沿岸警備隊に捕えられ、リビアに強制送還されてきた。送還者のほとんどは、危険な収容センターに閉じ込められ、虐待、性暴力、搾取など、生命を脅かす危険にさらされている。

MSFのオペレーション・マネジャーを務めるエレン・バン・デル・ベルデンは、「MSFが地中海での活動を再開したのは、欧州の無謀な政策が海難者を放置し、人びとを死に追いやっているからです」と話す。「ここ数年、欧州政府は、地中海中央部での積極的な海難捜索救助活動から次第に遠ざかり、危険にさらされる人びとを助けるどころか、救助にあたるNGOの活動を、意図的に妨げたり犯罪視したりしてきました。一連の政策で、何千人もの人びとが海で漂流し、欧州の南側国境近くで溺死しているのです」
 

欧州の政策見直しを強く求める

MSFはEUに対し、リビア沿岸警備隊への支援と、リビアへの強制送還を打ち切るよう、強く呼びかけている。バン・デル・ベルデンは「この人災を前に、MSFは沈黙しません」と訴える。「EUは人びとを苦しめる活動の支援を直ちに止めるべきです。加盟国に求められているのは、地中海中央部における国家主導の海難捜索救助活動の早期再開なのです」

MSFは2015年に地中海での海難捜索救助活動を開始して以来、7隻の救助船で医療チームを送り、時には他団体と共同で船を運航してきた。海難捜索救助活動合計682回に上り、8万1000人以上を救助した。
 

2020年に活動した別の救助船上で救助者の検温をする日本人助産師=2020年9月2日撮影 © Hannah Wallace Bowman/MSF
2020年に活動した別の救助船上で救助者の検温をする日本人助産師=2020年9月2日撮影 © Hannah Wallace Bowman/MSF

ジオ・バレンツ号について:

MSFがノルウェーのウクスネイ社(Uksnøy & Co AS)からチャーターした船。2007年に造船され、地震観測船としてノルウェー船籍で使用されていた。海難捜索救助活動を行うにあたり、必要な改造を施した。船の全長は76.95m。救助者のために、男性用と女性・子ども用の2つのデッキがある。医務室、助産師室、観察室でMSFのすべての医療活動を行う。本船は2隻の高速救助艇を備え、救助活動時に使用する。 

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