プレスリリース

ガザ:南部最後の生命線、ナセル病院が機能不全の危機に

2025年06月06日
攻撃を受けたナセル病院の前に立つ国境なき医師団のスタッフ=2025年3月24日 © MSF
攻撃を受けたナセル病院の前に立つ国境なき医師団のスタッフ=2025年3月24日 © MSF

パレスチナ・ガザ地区南部の大規模病院であり、医療が必要な人びとにとっての生命線となっているナセル病院が、機能不全に陥る瀬戸際にある。イスラエル当局は同病院に対して退避要求や移動制限を課しており、医療スタッフが病院に出勤できない事態となっている。これまでもイスラエル軍は、病院に対し新規患者の受け入れ停止を命じたり、住民が病院へ行くのを困難にさせたりすることによって、病院を機能不全に追い込んできた。

ナセル病院で現在も活動する国境なき医師団(MSF)は、現状に警鐘を鳴らし、同院機能の完全回復、稼働の維持、イスラエル当局による保護を求める。

病院へ行くための申請が必要に

MSFは6月3日、ナセル病院への移動には許可が必要で、少なくとも24時間前までに申請しなければならないとイスラエル当局から告げられた。このため、日勤の医療スタッフが病院に出勤できなくなり、前夜に勤務していたスタッフは48時間連続で働き続けた。

外来部門は終日休診となった。救急車は、許可がないため銃撃される危険を冒しながら患者を病院に運んだ。ナセル病院は最前線に位置しているため、スタッフも患者も、病院への行き来が難しい。

この事態は、20カ月に及ぶ紛争と封鎖によって人びとが疲弊し、生活を打ち砕かれている最中にもたらされた。ガザでは最小限の援助物資を配る場でさえ、殺りくが起きている。そのような環境下で残された医療施設は極めて重要であり、保護されなければならない。

ナセル病院が使えなくなるのは「死刑宣告も同然」

医療への攻撃は軍事行動による直接的な攻撃にとどまらない。医療物資の搬入制限によって医薬品が極端に不足することや、軍による退避要求によって病院が急に閉鎖を余儀なくされることも、医療への攻撃と言える。イスラエル当局による妨害や矛盾した要求によって、救命医療の提供がますます難しくなっている。

MSFの緊急対応責任者であるホセ・マスは、「これまでも似たようなパターンがありました」と言う。「ガザ地区北部にあるアル・アウダ病院やインドネシア病院は、まず新規の患者を入院させないように言われ、数日後には攻撃を受けて事実上の閉鎖に追い込まれました。ナセル病院が使えなくなれば、負傷者、重症患者、産科で救急治療が必要な女性など、最も深刻な容体にある患者にとっては死刑宣告も同然です」

ナセル病院は、手術室、酸素発生器、人工呼吸器、血液バンク、保育器など、ガザ南部では他に見られない多くの専門機器や病棟を備えた大規模な拠点病院である。この病院へのアクセスと、専門的な緊急治療のための患者搬送を妨げは、助かる見込みがある人びとの命を危険にさらすものだ。

MSFはこの数カ月にナセル病院で、産科病棟で500人超の女性に外科手術を含む医療を提供したほか、400人超の新生児や子どもの治療にあたった。いま病院は熱傷や重度外傷を負った患者であふれている。

ナセル病院の保護を

ガザではいたるところで医療が攻撃を受けている。6月4日朝、イスラエル軍はガザ中部デールバラハの主要病院で、MSFが支援するアル・アクサ病院を3度にわたって攻撃した。死傷者は出なかったが、ガザでは患者や医療スタッフ、医療施設が常に大きな危険にさらされている。

MSFはナセル病院で、「ガザ人道財団(GHF)」の食料配給所周辺で起きた銃撃で重傷を負った人びとの治療にもあたった。これは、ガザ地区への継続的な空爆で負傷した人びとに対する追い打ちであり、このことによっても病院は患者であふれかえっている。

これ以上の犠牲者を出さないために、イスラエル当局がナセル病院を保護し、患者や医療スタッフへの完全かつ自由な出入りを保証することが不可欠だ。

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