未来を取り戻したガザの少年──ヨルダンの再建外科病院で見つけた新たな希望

2026年05月18日
ヨルダン・アンマンにある国境なき医師団(MSF)の再建外科病院で、治療を受けながら理容師の職業訓練に励むパレスチナ・ガザ地区出身のマフムードさん(左)=2026年2月19日 © Charlotte Sujobert/MSF
ヨルダン・アンマンにある国境なき医師団(MSF)の再建外科病院で、治療を受けながら理容師の職業訓練に励むパレスチナ・ガザ地区出身のマフムードさん(左)=2026年2月19日 © Charlotte Sujobert/MSF

ヨルダンの首都アンマンにある国境なき医師団(MSF)の再建外科病院。ここでは、中東各地で続く紛争によって複雑な外傷を負った患者に専門的な治療を行うとともに、職業訓練プログラムを実施している。理容や仕立て、メイクアップなどの技術を学ぶことで、患者が自立を取り戻し、将来の生計へつなげていこうという試みだ。

パレスチナ・ガザ地区出身の17歳、マフムードさんは、治療を受けながら理容を学び、自らの未来を切り拓こうとしている。その歩みを追った。

はさみを握る手に戻った力

男性の髪を切るマフムードさん(左) © Charlotte Sujobert/MSF
男性の髪を切るマフムードさん(左) © Charlotte Sujobert/MSF
マフムードさんは、理容室の椅子に腰かけた男性の白髪まじりの髪をそっとつまみ、もう一方の手に持ったはさみで丁寧にカットしていく。

「最初は、バリカンやはさみの持ち方も分かりませんでした」とマフムードさんは言う。
 
「でも、今では普通に使えるようになりました。まだ課題はありますが、ここに来た当初は歩くこともできなかったんです。今は回復して、前よりずっと良くなりました」

マフムードさんは2025年7月、アンマンにあるMSFの再建外科プログラム(RSP)にたどり着いた。

2017年のイスラエルによる空爆で負傷し、いまは回復に向けて必要な専門医療を受けている。

体、心、そして未来──包括的に支えるアプローチ

RSPでは、体だけでなく心も含めて回復を考える「包括的なアプローチ」を重視している。RSPはもともと2006年、イラク戦争で重傷を負った人びとを治療するために設立されたが、その後、シリアイエメン、パレスチナ、ソマリアスーダンなど中東各地の紛争による負傷者へと対象を広げてきた。

回復は手術だけで完結するものではなく、体と心の両面で多くの困難を伴う。この病院では、中東全域で紛争への対応を長年続けてきた中で、体の回復、心のケア、そして社会復帰を総合的に支える、包括的なリハビリテーションのアプローチを確立してきた。

RSPの患者の多くはマフムードさんと同様、イラク、シリア、パレスチナ、イエメンなど激しい戦闘が続く地域から来ている。彼らの大半が、度重なる避難や愛する人の喪失、そして「当たり前の生活」の崩壊を経験してきた。

そうした人びとにとって回復の出発点となるのは、安全を感じられる環境を取り戻し、生きる目的や未来への希望を再び見いだすことにほかならない。

だからこそ、RSPにおいて中心的な役割を担っているのが、心のケアだ。心理士は一対一、あるいはグループで患者と向き合い、トラウマを乗り越え、徐々に他者とのつながりを取り戻せるよう支援している。

こうしたセッションを通じて、患者たちは再び信頼関係を築き、感情を表現できるようになり、やがて少しずつ孤独から外の世界へと踏み出していく。

「入院したばかりのころは部屋にこもりきりで、誰とも話したくありませんでした」とマフムードさんは振り返る。

現在は治療を受けながら、さまざまな技能を学べる職業訓練プログラムに参加している。修了すれば、退院後の社会復帰を後押しし、収入を得る機会へとつながる。

「プログラムを修了し、ここを離れて海外で働くことが目標です」とマフムードさんは言う。

体調も良くなったので、将来は理容師としてヨーロッパで働きたいです。

マフムードさん アンマン再建外科病院の患者

マフムードさん(右)と語り合うMSF患者トレーニング担当のエムラン・アラワール。進捗状況や課題を確認することで、参加者の自信を育んでいく=2026年3月31日 © Charlotte Sujobert/MSF
マフムードさん(右)と語り合うMSF患者トレーニング担当のエムラン・アラワール。進捗状況や課題を確認することで、参加者の自信を育んでいく=2026年3月31日 © Charlotte Sujobert/MSF

人生再建への確かな一歩

理容を学ぶガザ出身のムニールさん © Charlotte Sujobert/MSF
理容を学ぶガザ出身のムニールさん © Charlotte Sujobert/MSF
紛争による負傷は、生涯にわたって影響を及ぼすことも少なくない。多くの患者が、もとの仕事に戻れなくなっている。

身体的な制約と心の傷が重なり、日常生活への復帰は極めて困難となる。適切な援助がなければ、依存状態の長期化や尊厳の喪失につながりかねない。
 
こうした中で、職業訓練は、患者一人ひとりの状態に応じた実践的な技能を学ぶ機会を提供し、回復を促す重要な役割を果たしている。 
 
人間としての尊厳の確立に根ざしたこの取り組みは、けがだけに目を向けるのではなく、その人自身を見つめ直すきっかけを作り出し、再び未来を描く力を取り戻す支えとなっているのだ。
 
「職業訓練を通じて、患者は実践的な技術を学ぶだけでなく、自信や自立心も取り戻していきます」と、RSPの患者トレーニング担当であるエムラン・アラワールは語る。

日々の生活にリズムが生まれ、生きる目的を再び感じられるようになります。そして、病院の外に広がる人生を思い描けるようになっていくのです。

エムラン・アラワール RSPの患者トレーニング担当

心のケアは患者がトラウマと向き合い乗り越えるための支えとなり、職業訓練は回復と未来とをつなぐ架け橋となる。これらが組み合わさることで、単なる治療にとどまらない、継続的なケアが実現している。

RSPは、患者が傷から回復するだけでなく、自らの人生を再び歩み出すための大きな一歩を支えている。

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