プレスリリース

ヨルダン川西岸地区で起きている医療への攻撃と妨害の激化──国境なき医師団が報告書を公開

2025年02月10日
ヨルダン川西岸地区ジェニンの街並み。イスラエル軍の攻撃により、大部分の道路が破壊され、電気や水道などのインフラも遮断された=2024年12月9日 © Alexandre Marcou/MSF
ヨルダン川西岸地区ジェニンの街並み。イスラエル軍の攻撃により、大部分の道路が破壊され、電気や水道などのインフラも遮断された=2024年12月9日 © Alexandre Marcou/MSF

パレスチナ・ヨルダン川西岸地区で人道援助活動を続ける国境なき医師団(MSF)はこのたび、報告書『ヨルダン川西岸:人びとへの危害と医療破壊(Inflicting harm and denying care in the West Bank)』を公開した。報告書の中でMSFは、2023年10月にガザで紛争が始まって以来、イスラエル軍と入植者は、占領下にあるヨルダン川西岸地区で、パレスチナ人に対し極端な暴力の使用を増加させていると伝えている。
 
2023年10月から2025年1月までの間に、西岸で少なくとも870人のパレスチナ人が殺害され、7100人以上が負傷した。MSFの報告書によると、ヨルダン川西岸地区での暴力の激化により、人びとの医療へのアクセスが著しく妨げられており、これは国際司法裁判所(ICJ)が人種隔離およびアパルトヘイトに相当すると評した、イスラエルによる組織的弾圧の一部であるとしている。

イスラエル軍によって自宅が突如破壊され、がれきの中で座り込むヨルダン川西岸地区の住人=2024年6月24日 © MSF
イスラエル軍によって自宅が突如破壊され、がれきの中で座り込むヨルダン川西岸地区の住人=2024年6月24日 © MSF

ガザ停戦後、西岸での医療攻撃は増えている

2023年10月から1年間の状況をまとめたこの報告書では、MSFの患者およびスタッフ38人、病院スタッフ、救急救命士、MSFの支援を受けたボランティアなどへの詳細なインタビューが紹介されている。彼らは、長期にわたるイスラエル軍の激しい侵攻と、厳しい移動制限について報告しており、これらが特に、医療などの基本的なサービスへのアクセスを著しく妨げていることを明らかにしている。

また、彼らの証言から、ガザ地区での停戦後、ヨルダン川西岸地区の状況はさらに悪化し、多くのパレスチナ人がより一層、悲惨な生活環境に置かれ、身体的にも精神的にも甚大な負担を強いられていることが分かる。
 
「パレスチナ人の患者が亡くなっているのは、単に病院にたどり着けないからです」と、MSFの緊急対応医療コーディネーター、ブリス・ドゥ・レ・ヴィーニュは話す。 

私たちは、重篤な患者を乗せた救急車がイスラエル軍によって検問所で阻止されたり、医療施設が手術中に包囲・襲撃されたり、命を救おうとしている医療従事者が暴力を受けたりするのを目撃しています。

MSF緊急対応医療コーディネーター ブリス・ドゥ・レ・ヴィーニュ

MSFには、医療関係者や医療施設に対する攻撃が増加しているとの報告が寄せられている。これには、病院への攻撃、難民キャンプにおける仮設医療施設の破壊、救急隊員や医療従事者への嫌がらせ、拘束や負傷、殺りくが含まれている。
 
2023年10月から2024年12月にかけて、世界保健機関(WHO)はヨルダン川西岸地区における医療施設への694件の攻撃を記録しており、病院や医療施設がしばしば軍によって包囲されている。医療従事者は、嫌がらせを受けたり、拘束されたり、負傷したり、さらには殺されたりすることも多く、不安を感じている。
 
「イスラエル軍は、トゥバスにある応急処置を施す容体安定化ポイント──そこが医療施設であることは明らかでしたが、その場所を包囲し、両方の入り口を封鎖しました」と、MSFが支援するパレスチナ赤新月社の救急隊員は語る。 

イスラエル軍はそこにいた22人ほどの救急隊員全員に、安定化ポイントから出るように命じました。そして、建物内外に向けて発砲し、私たちの物資と安定化ポイント内に被害を与えたのです。

MSFが支援するパレスチナ赤新月社の救急隊員

攻撃を受けたジェニンの町。多くの家屋に銃弾の跡が残る=2024年12月9日 © Alexandre Marcou/MSF
攻撃を受けたジェニンの町。多くの家屋に銃弾の跡が残る=2024年12月9日 © Alexandre Marcou/MSF

医療へのアクセスを阻む移動制限

医療上の緊急事態が発生した場合、移動制限は命にかかわる可能性がある。移動制限が課された状況下では、医療へのアクセスが著しく妨げられ、救急車の移動の妨害や標的化、および暴力的な軍事作戦の激化により、負傷者や死者が発生し、道路、医療施設、水道、電気など重要なインフラが破壊される。特にトゥルカレムやジェニンの難民キャンプでは、この影響が甚大となっている。
 
加えて、ジェニンやナブルスのような郊外の都市や遠隔地では、事態はさらに深刻だ。定期的な透析治療が必要な患者など、慢性疾患を抱えている人びとは、医療機関にたどり着くことができず、自宅にとどまらざるを得ない状況に追い込まれている。

イスラエル軍の頻繁な進行に加えて、入植者の暴力と入植地の拡大が進む中、多くのパレスチナ人が暴力にさらされ、ヨルダン川西岸地区からの移動を恐れている。国連人道問題調整事務所(OCHA)によれば、入植者によるパレスチナ人への攻撃は、2023年10月から2024年の間に1500件も報告されている。
 
ヨルダン川西岸地区の占領主体であるイスラエルは、医療へのアクセスを確保し、医療関係者を保護する国際法上の義務を負っている。しかし、この地区の医療システムは大きな脅威に直面しており、常に緊急事態にある。
 
MSFはイスラエルに対し、医療従事者、患者、医療施設への暴力を止めるよう、そして、医療関係者による救命活動を妨害しないよう訴える。

イスラエル軍の攻撃を受け、破壊された家。ジェニンの人びとは、イスラエル兵が繰り返し家屋を占拠していると話している=2024年12月9日 © Alexandre Marcou/MSF
イスラエル軍の攻撃を受け、破壊された家。ジェニンの人びとは、イスラエル兵が繰り返し家屋を占拠していると話している=2024年12月9日 © Alexandre Marcou/MSF

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