プレスリリース

HIV予防薬:「誰もが年40ドルで入手できるように」──国境なき医師団が米製薬会社へ求めるキャンペーンを開始

2026年06月17日
マラウイで性産業に従事する29歳の女性。国境なき医師団(MSF)はHIVなどのリスクにさらされる人びとへの支援を行っている Ⓒ Diego Menjibar
マラウイで性産業に従事する29歳の女性。国境なき医師団(MSF)はHIVなどのリスクにさらされる人びとへの支援を行っている Ⓒ Diego Menjibar

国境なき医師団(MSF)は6月17日、米国に本拠を置く製薬会社ギリアド・サイエンシズに対し、極めて高い効果を持つHIV予防薬「レナカパビル」を、世界中で速やかに、かつより広く利用可能にするよう求めるキャンペーンを開始した。

来週ニューヨークで開催されるHIV/エイズに関する国連総会ハイレベル会合に先立って開始するもので、MSFはHIV予防に1年間に必要な2回の接種を、すべての地域で40ドル(約6400円)以下で受けられるようにすべきだと訴える。

あわせてMSFは各国政府に対し、他の製薬会社による供給拡大とさらなる価格引き下げを実現するため、ギリアド社の独占体制に対抗し得るあらゆる法的手段を講じるよう求めている。

年2回の注射でHIVを予防できるレナカパビル

レナカパビルの製造・販売を独占するギリアド社は現在、ごく限られた国にのみ極めて高価格で販売しているうえ、低・中所得国への供給を厳しく制限し、MSFへの直接販売にも応じていない。

レナカパビルは曝露前予防(PrEP)の長時間作用型の注射製剤で、年2回の投与によりHIV感染をほぼ100%防ぐ効果がある。特に、男性間の性交渉を行う人びとやゲイの男性、トランスジェンダーの人びと、注射薬物使用者、セックスワーカーなど、感染リスクが高い人びとにとって有用だ。

さらに、移動を余儀なくされている人びとや医療アクセスが限られた遠隔地に暮らす人びと、人道危機下に置かれている人びとにとっても重要な予防手段となる。2025年には世界で約120万人が新たにHIVに感染しており、そのニーズは極めて高い。

「今この瞬間にも、何百万人もの人びとがレナカパビルを必要としています」と、MSF南部アフリカ医療ユニット(SAMU)のディレクター、トム・エルマン医師は話す。

「HIV/エイズが流行し始めた当初、製薬会社が抗レトロウイルス薬を最も高値で購入する買い手に販売したため、南アフリカ共和国をはじめとする地域では、私たちは何の手も打てませんでした。その結果は明らかです。HIVに感染した患者が命を落とし、地域社会全体が打撃を受けるのを目の当たりにしました」

革新的な予防薬であるレナカパビルで、同じ過ちを繰り返してはなりません。ギリアド社と各国政府は、世界中の人びとがこの薬にアクセスできるよう、いっそう取り組みを強化する必要があります。

トム・エルマン医師 MSF南部アフリカ医療ユニット(SAMU)ディレクター

マラウイで性産業に従事する女性のカウンセリングを行うMSFスタッフ © Diego Menjibar
マラウイで性産業に従事する女性のカウンセリングを行うMSFスタッフ © Diego Menjibar

供給の対象外となる国々、広がる空白

MSFは、レナカパビルを世界各地のプログラムで使用するため、過去1年にわたり繰り返し販売を要請してきたが、ギリアド社はいかなる価格であってもMSFへの供給を拒否してきた。

代わりに同社は、低・中所得国向けに数量限定で供給している「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」から調達するようMSFに求めている。しかし、この供給はエスワティニケニアなどですでに不足しつつあり、MSFが支援を目指す国や地域の中には、その対象外となっているところもある。 
 
一方で、レナカパビルは米国では入手可能で積極的に販売されており、患者1人あたり年間2万8000ドル(約448万円)以上という高価格が設定されている。 
 
「ギリアド社は『あらゆる場所で、すべての人びとのために』HIVの流行を終わらせると掲げていますが、その戦略には重大な疑問が残ります」と、MSF米国のグローバルヘルス・アドボカシーおよび政策責任者であるメリッサ・バーバーは語る。 
 
ブラジルのようにHIV感染が増加している国々を、レナカパビルのジェネリック医薬品市販許可の対象外としている時点で大きな問題です。さらに今、ギリアド社は南部アフリカや中米をはじめとする地域での使用を目的としたMSFへの販売も拒否しており、事実上、取引を閉ざしているかのようです」

ギリアド社は、1年間の予防に必要な2回の接種を、すべての地域で40ドル(約6400円)以下で受けられるよう、より踏み込んだ対応を取るべきです。

メリッサ・バーバー MSF米国のグローバルヘルス・アドボカシーおよび政策責任者

MSFの診療所でHIVの診察を受けるモザンビークの男性 © Martim Gray Pereira/MSF
MSFの診療所でHIVの診察を受けるモザンビークの男性 © Martim Gray Pereira/MSF

アクセスを阻む構造的問題──今こそ法的手段を

より大きな構造的問題は、誰がレナカパビルを受け取れるのか、どこへ供給されるのか、どのような条件で提供されるのかをギリアド社が管理している点だ。

同社は一部のジェネリック医薬品メーカーと契約し、富裕国での販売価格より安価で供給する仕組みを設けているが、ジェネリック医薬品が実際に利用可能になるのは早くても2027年以降と見込まれている。

さらに、臨床試験が実施されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコペルーといった国々でさえ、このライセンスの対象から除外されている。実際、新規HIV感染の約4分の1は、こうしたライセンス対象外の国々で発生している。

ギリアド社に限らず、レナカパビルのアクセス拡大には各国政府も重要な役割を担っている。もし同社が高価格設定や製造制限を続けるのであれば、各国政府は独占的な体制を覆すために必要な、あらゆる手段を講じる必要がある。 
 
各国政府には、世界貿易機関(WTO)の「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)」の下で、幅広い柔軟性が認められている。例えば、特許権者の許可を得ずに製品の製造・販売を可能とする「強制実施権」を行使することもできる。こうした措置は、知的財産権による障壁を取り除き、ジェネリック医薬品の生産拡大を後押しする可能性がある。

「ギリアド社が人びとの健康よりも利益を優先し続けるのであれば、各国政府が介入する必要があります」とエルマン医師は言う。 
 
「TRIPSには、レナカパビルのような重要な医薬品へのアクセスを阻む特許を回避するための法的手段が整備されています」

各国政府は今こそ、こうした手段を活用し、この重要なHIV予防薬をより多くの人びとが使えるようにするべきです。

トム・エルマン医師 MSF南部アフリカ医療ユニット(SAMU)ディレクター

HIV陽性の診断を受けた妊婦をケアするMSFの助産師 © Augustin Mudiayi/MSF
HIV陽性の診断を受けた妊婦をケアするMSFの助産師 © Augustin Mudiayi/MSF

本キャンペーンの参加と署名はMSF米国サイトから

Tell Gilead: Drop the price of long-acting PrEP!

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